第四十四話 魂の転写
額縁の中に入っている紙は、空となった。レイナは、紙芝居をしている時は、まったく違う緊張した顔つきなり、俺の前に座る。
「レイナ……?」
「マスター。これから話す事は貴方のことになります」
レイナの口調は変わり、大人びた声色。俺はその声色を知っているような気がした。
「電気の世界との交渉、研究のために魔人たちは事前に、たくさんの魂をサンプルとして転写、コピーしました」
「え、」
「そのコピーされた魂は、不完全なカタチでした。そのため、コピーした他の魂でカタチを整えたのです」
「…………」
「そして、執念のある魔人たちが、自分たちの都合のいい人格なるように、設定したのです。今後。様々な用途に使えるように……と」
……………じんかく、の、せってい? ようと、に、つかう?
「実験体Sとは、……モルモットです」
「」
俺の中で何か砕けた。
宮殿の出入口では、何万もの人々が集まり門番たちと言い争いを繰り広げていた。地面から現れてた正方形は、一体なんなのかと、誰もが不安そうである。
その様子を宮殿のバルコニーから見ていた、ガーネット・カット・ポラリスは、頭を抱えている。
「迷宮破壊の噂が落ち着いてから政権の交代を大々的に広告するはずが……、あの正方形のナニかでうやむやになってしまった。今の吾輩は中途半端だ」
「……侯爵様」
ガーネット・カット・ポラリスの背後にメイドの姿をした隙のない女性が、跪いている。ここにメイスが入れば、彼女は夢の世界で見た陰険な気配のする女性だ。と思っただろう。
「どうした」
「王都に近衛騎士たちが向かっております。ナーシセス伯爵の部隊を伴っており、先頭は……」
「パール殿下ではないのか?}
陰険な気配のする女性は、少し言葉を詰まらせる。その様子にガーネット・カット・ポラリスは不審に思った。
「………先頭は、近衛騎士の鎧ではなく、虹色に光輝く鎧を着た近衛騎士団長です」
その姿はまるで凱旋を行う英雄のようであったと。後に人々は語った。
誰もが不安の中、虹色に輝く鎧を着た近衛騎士団長、近衛騎士団長が跨る馬でさえ、虹色の鎧を着ていた。付き従う騎士たちも、皆、自信に溢れ、薄くだが光を帯びていた。
「おお……。英雄じゃ。英雄が現れたのじゃ」
「すごい、きれい」
「あの先頭にいる方は、近衛の偉いさんよね。見たことあるわ」
王都の中央通り。宮殿に向かう道は、近衛騎士たちが現るまでは、不安な顔をした人々で溢れかえっていた。しかし、今は近衛騎士たちを称賛する者たちでいっぱいである。
やがて、近衛騎士団長オールは、宮殿に到着する。宮殿の前に集まっていた人々は、波が引くように近衛騎士たちに道をあけた。
「王よっ! 貴方の剣、貴方の盾は、今。帰還致しましたっ!」
宮殿に全体にまで通る声で、近衛騎士団長オールは、腰に付けた神剣を抜き、礼を取った。
「……よくぞ帰還した。近衛騎士団。そしてナーシセス伯爵の騎士たちよ」
声をかけたのは、ガーネット・カット・ポラリスではない。王国民が国王だと思っているポラリス王が無理してバルコニーが姿を現したのだ。
「我が王よ。進言をお許しください」
「許そう」
「今。この時。我々、人類には伝承に伝えられた危機が迫っております」
近衛騎士団長の言葉に、ざわりと動揺する人々。
「ですが、我々には勝機がある。戦いの神が我らと共にあるのですっ!」
上空には後光を輝かせながら、戦いの神が現れた。その姿に人々は、誰もが平伏した。
「恐怖の伝承も今日からは変わる、英雄譚へと。歴史を、人類の英雄となりたい者を我が部隊の隊列に組み入れたいっ!」
「……許可しよう」
「王よ。貴方に栄光を捧げますっ!」
宮殿の出入り口での出来事は、あっと言う間に王都中に知れ渡り、今度は英雄になりたい者たちが宮殿へと殺到した。
「近衛騎士団長」
軍の再編中、時間がある近衛騎士団長オールにガーネット・カット・ポラリスが声をかけた。
「これは、侯爵様。何が御用でしょうか」
「……トリア様。パール殿下はどうしたのだ」
「あの方たちは、邪神に魅入られましたよ」
「なに……?」
「ああ。そうだ……侯爵様が幽閉している王子たち。あの方たちも連れていきますから」
近衛騎士団長の言葉に、唖然とするガーネット・カット・ポラリス。
「心配しなくても指揮系統は大丈夫ですよ。そのためのナーシセス伯爵家ですしね」
「貴様……何を考えている」
「すべてが済んだ後にわかりますよ」
そう言って、近衛騎士団長オールは去っていった。
数日後。ポラリス王国にいる戦う意志のある者を従え、彼らは挙兵した。




