第四十三話 魔人たちの変遷
戦いの神と近衛騎士団長オールが妖精の森を出ていったところで、レイナが話を始めた。
「あの正方形。魔人たちの移民船を乗っ取った「何者か」についてじゃが」
「心当たりがあるのか?」
俺の言葉にレイナは頷く。
「メイス・イクリプス。マスター、貴方と入れ替わった者が正方形を支配したようじゃ」
「なっ……」
「え」
「まぁ」
クレイは、目を見開き驚愕している。パール、トリアも驚いている様子だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体どういうことだっ? メイス。と、いや、今のメイスと、あーと。その」
クレイが俺と本物のメイスとで言い方に困っていると、レイナは一度、目を瞑り少し考える仕草をして口を開いた。
「…………今、妾たちと共にいる者の名は、実験体S。」
寒気と共に心臓が一気に高鳴るのを感じた。実験体S。それが俺の本当の名前……でもそれは、人に付けるような名前じゃなくて……。
「メイス。大丈夫? すごい汗だけど……」
「だ、大丈夫だよ、パール。……それよりレイナ」
俺の事だ。嫌な感じは消えないが、それでも知る必要がある。
「彼の者を語るには、女神の世界に来た魔人たちを語る必要があるのじゃ」
俺たちの視線が集まる場所には、木でできたレイナくらいの高さの台座がある。その台座の上には、絵画などを入れる額縁のような枠があった。枠の中には、レイナが書いであろう文字。文字はカラフルで可愛らしい字体で「魔人の歴史」と描かれていた。
「ほぉら。良い子には、飴ちゃんをあげるのじゃよ~」
手渡される、やたらクオリティの高いレイナを模した水飴。
「え、と?」
水飴とレイナと、額縁を見ながら困惑するクレイ。
「れ、レイナ……?」
困惑はパールも同じだったようだ。
「まあまあまあ、なにが始まるんですのっ!」
ワクワクして、目を輝かせているのは邪神だけである。
「……………」
………こ、これって紙芝居じゃないかっ!?
「れ、レイナ。俺たちは真面目な話をしているだけど……」
「妾は真面目じゃ。良い子は、静かに見ていてほしいのぉ? 始まるのじゃ~」
レイナは額縁の横に立つと、額縁の中にある紙を移動させた。違う絵が現れる。
「むかーし。むかーし。ある世界に、魔人になる前の人類がおりました。人類は魔素——魔力を開発したのです。」
本当に始まったっ!? しかも重要なこと言ってる……。
「魔力は、すごーく人のためになりました。財を増やし、病気をなくし、寿命をたくさん伸ばしたのです。」
額縁から外した紙は、レイナがその場で消しているようだ。
「そのためでしょうか? 人々はたくさんたくさん増えました。増えた人々は考えます。」
童話のように語っている。
「そうだっ! 別の世界に行こうっ!」
レイナは一息つき。レイナらしい言葉で補足した。
「その頃には、すでに人類は魔人となっておった。その魔人たちは、別の星を目指す「縦の移動」ではなく。別の、イフの世界を目指す「横の移動」をしたのじゃ」
トリアは手をあげた。質問らしい。
「なんじゃ。トリア」
「なぜ、横移動ですの?」
「ゼロから文明を作り直すが面倒じゃから」
「さ、最悪な理由ですわね……」
俺も最悪だと思った。
「魔人たちは、旅にでます。新しい仲間を探しに。その旅は長い長いものでした。そして、彼らは行きつくのです。新しい土地に。」
「その土地は、魔力とは違う別の力で動く世界だったのです。」
「ビリビリした電気を使い、皆が情報を簡単に書いては、見れる世界でした。」
…………電気。そしてインターネットのことだろうか? 俺の記憶にある……現代社会。
「魔人たちは大喜びっ! さっそく連絡を取ろうとしたのです。ですが、悲しい事がわかります」
「悲しいこと……?」
「マスター。発言は手をあげるのじゃ」
「紙芝居か、授業中か、どちらかにしない?」
「揚げ足取りは嫌われるのじゃ」
頬を膨らまして怒っているレイナ。話の流れを壊され不機嫌な様子。チラリと同じ観客を見ると、謝りなさいと目線を感じた。
「ごめん、レイナ。続けてくれ」
「うむ」
「電気の世界は、人の考えや行動が、とても細かく残る世界だったのです。魔力はそれに触れておかしくなりました。」
魔力がおかしく……? 首を傾ける俺たちにレイナは、補足を入れる。
「所謂、暴走状態なったのじゃ。本来、現れては消えを繰り返す泡のように、一個人の言葉や思考思想は残りにくいはずじゃろう?」
……確かに、紙にしても粘土板にしても、残すには、それなりの保管場所、環境が必要になる。
「電気世界は、圧倒的な情報の群れを保存する世界でもあったのじゃよ。魔力の持つ許容量を遥かに超えた、電気世界の思考は、魔力を狂わしたのじゃ」
レイナは、今の説明で何枚か額縁内の絵を外し消す。
「ぬう、もっとドラマちっくにするつもりじゃったのにのぉ。仕方ないのじゃ。続きは……」
レイナは額縁に入っている絵を確認している。確認後、再び俺たちに向いた。
「おかしくなった魔力と魔人たちを乗せる船は、たくさんの世界を勝手に渡る、横移動を繰り返します。そして、女神の世界に墜落したのです。」
誰もが真剣にレイナの話を聞いていた。
「魔力には、ただ一つ。絶対的なルールがありました。それは、魔人の保護。魔力がないと生きていけない魔人たちを護るための仕組みです。」
俺達の中でも特にトリアは真剣に聞いている様子だ。
「魔力は、女神の世界を変えました。そして、魔人たちは二つの勢力に分かれるのです。」
二つの勢力……。
「一つ。パールたちの祖先である現地住民と共に生きる者たち。」
「————————そして、電気世界に妄念を燃やす実験体Sを造り出した者たちへと。」




