第四十二話 移民船の行動
大空を自由に移動しながらトリアと戦っていた戦いの神は、現われた正方形が放った光線を受け、地面へと転落した。
「母上っ!!」
近衛騎士団長オールは、戦いの神の傍に走り寄る。
「に、逃げろ、あれは……、あれは……」
「母う——」
「どきなさいっ!」
トリアは、近衛騎士団長オールを払いのけ、戦いの神の失われた半身に手をかざす。
「……何をする……? 我は貴様の敵だ、」
「アレが出てきた時点で私くしたちが争う理由などなくなってますわっ!」
「…………邪神のくせに、甘い。」
「なんとでも言うがいいですわっ!く、邪神ぱわーでは。」
「どちらに、せよ。我らでは、……」
戦いの神の視線が、上空に浮かぶ正方形に向かう。
「あーもうっ! 仕方ないですわねっ!」
トリアの傍に黒く渦巻く穴が現れた。穴からメイスが供えたスイレンの花を一輪取り出そうとし————正方形から光の線がトリアに向けて放たれた。
だか、その光線は、トリアに届くことはなく。着ぐるみを着て、木の枝を持った俺が防ぎきる。
『危険。危険。危険。脅威度100パーセント。フィールド全損。前足の機能が停止しました』
「っ、重っ」
手に持っていた木の枝を落とす。着ぐるみ前足(俺の両手が入っている場所)がダラリと下がった。
「メイスっ!」
パールとクレイが、俺の傍に来ようとする。
「駄目だ。まだ——」
——正方形は、まだ俺たちを狙っている。そう口にしょうとした時。再び、光の線が撃ち出された。
「———座標、平面移動型時空航行移民船ボンド、周辺の大気」
レイナの声が響いた。
「———事項、重力荷重の増加」
妖精の森から、まるで散歩しているような足取りで現れる。
「———魔素改変実行開始」
光の線は、ねじ曲がり消滅し上空に浮かんでいたはずの正方形は、地面に叩きつけられるように墜落した。
レイナ、パール、トリアの三人が修復した神殿の中で俺たちは集まっていた。戦いの神と、近衛騎士団長オールもいる。それぞれが自由に座る中、意識と視線を集めているのは、あの正方形を地面に堕としたレイナだった。
「妾がしたのは、一時しのぎにすぎぬ」
「莫迦な……。あれほどの事が一時しのぎだと……」
トリアに癒された、戦いの神は、後光なくなりすっかり元気がなくなったように見えた。
「妾とそっくりの魔道具がいたのだろう? あの者から、言伝を受けたのじゃ。移民船——あの正方形は「何者か」に乗っ取られたとな」
レイナの言葉に、それぞれが口々に動揺を口にする。その中でも大きかった声が、近衛騎士団長オールだった。
「そんな馬鹿な事があるかっ! あの正方形は迷宮なんだろうっ! 迷宮が誰かに乗っ取られるなんて、そんなワケわかないことあるわけないだろっ!」
レイナに掴みかかりそうな勢いのあるオールを、戦いの神が制した。
「母上……」
「魔道具。あの正方形が侵略者の船であることは知っている。だがアレは我々の世界の人間が乗っ取れるような代物ではない。」
戦いの神は一息入れて、レイナを睨む。
「魔道具は、侵略者側に物だ。貴様は我々を謀っているのではないだろうな」
「ぬ。妾は——」
レイナは眉を歪め、心外だと反論しようとした時。レイナを横から抱きしめるトリアがいた。
「レイナが私くしたちを騙すような事は致しませんわ。そんな事して何の意味があるというのです?」
「トリア……」
「…………それだけの力を持つ者が騙すなど、する必要もないか」
「母上っ!?」
トリアに助けられたからか、戦いの神はすぐに引き下がった。
「では、魔道具。貴様はあの正方形が次にどのような行動に出ると予想する?」
「ぬ。そうじゃな……。妾のような対抗できる存在がいる、と相手もわかっただろうから……遠距離からの攻撃は控えるであろうな。ただの消耗戦にしかならぬし」
レイナは考えながら話している。その間もトリアがレイナを抱きしめたままだ。
「今は地表に堕ちておるから……。ふむ。移民船内———正方形内の侵入を防ぐために防備を整えるか……。地上戦を仕掛けてくるか……。くらいかの」
「そうか。その「何者か」が一番恐れている事は、我々が「何者か」に辿り着くことだろうから……臆する者ならば、守り。思想ある者ならば、力を振るう。か」
「おそらくじゃがな」
戦いの神は、レイナの言葉に頷くと近衛騎士団長オールに声をかける。
「王都に行くぞ。我がすべての兵に力を与える。あの侵略者を何とかする機会だ」
「わかりました。母上」
戦いの神と近衛騎士団長オールは、神殿を後にしようと立ち上がる。
「私も————」
パールも立ち上がり、クレイも無言で立ち上がった。今まで警戒しながら、レイナと戦いの神とのやり取りを見ていたようだが、王国———人類を護る戦いになるとわかったらしい二人は、戦う決意をした表情をしていた。
「待て、パール。クレイ。まだ話がある」




