第四十話 戦いの神と邪神
俺たちの無言は、数秒程度だったと思う。ただ体感的には数時間くらいはある息苦しい空間だった。近衛騎士団長オールは、折れた神剣を愕然とした表情で見ている。クレイも唖然としていた。
「————人の子よ。貴様のそれは危険すぎる」
上空から声が響き渡った。俺は空を見上げる。俺に向かって、数十個の巨大な石が落ちてきた。まるで隕石のようだ。
隕石のように赤く燃えがり、音を響かせている。隕石の傍には、俺に向けて巨大な石を落としたであろう存在が、後光を纏いながら、まるで俺を虫けらを見るような目で見つめていた。
「母上っ!」
近衛騎士団長オールは、空にいる存在に対して歓喜の声をあげている。
木の枝を見るが、先ほどの黒い光芒で、エネルギーを使い果たしたのだろうか。ただの木の枝に見えた。
「ふん。我が戦いの神の造りし神剣を———なに?」
妖精の森から無数の木の枝が伸び、隕石に突き刺さり、砕いていく。それはとても丁寧な仕事で、俺の所には小石一つ落ちてくる事がなかった。
「ずいぶん偉そうになりましたわね。山のニンフさん。」
トリアはゆっくりとした足取りでパールと共に妖精の森から出てきた。現れたトリアに近衛騎士団長オールは狼狽している。クレイも驚いている。
「な、馬鹿な。パール姫に討伐されたと……いや、なんだあの禍々しい気配は……」
「め、メイス。ど、ど、どど、どいうことだ?」
「ま、まあ、後で説明するよ」
俺の言葉に頷くクレイ。山のニンフと呼ばれた近衛騎士団長の母上は、トリアは睨んでいる。
「怪物に堕ちたと聞いたが……、どうやら堕ちるところまで堕ちたようだな。樹のニンフ」
「ふふふ。主神様が不在だからと言って、好き勝手に人間に干渉している貴女には謂われたくありませんわね」
「好き勝手ではない。我は、この世界を救う英雄を探しているのだ」
「あら、造り出してるの間違いでは?」
チラリと、トリアは近衛騎士団長オールに視線を向ける。オールは震えて後ずさった。
「オールは、我が子の魂を引きついている。神剣が使えるのがその証拠だ」
樹のニンフと山のニンフ、折り合いが悪いのか。それとも邪神となったトリアがダメなのか、二柱の空気はとても悪い。
「ああ……適当に性能を抑えた、私くしの木の枝に負けた…………鉄クズのことかしら?」
「言ったな。邪神がっっっっ!」
戦いの神の存在が膨れ上がる。後光の眩しさが増していく。専用の眼鏡が必要そうな輝き方だ。
「子供の教育くらいきちんとするべきですわねっっっ!」
妖精の森、全体から黒い靄が立ち込める。トリア自身も足元から黒い靄が現れていた。
「メイス、メイス。クレイモアくんも、」
手招きするパールの方に俺たちは移動した。戦いの神と邪神からは離れている。それと近衛騎士団長オールも身体を丸くして、付いて来ていた。
「ああなったら、トリアは止められないわよ。珍しく怒っているみたいだし」
「え、どうして?」
「貴方が狙われたからでしょ」
あきれながらパールは、戦いの神と邪神がすでに戦いを始めている様子を見た。
七色に輝く爆発や、黒い色の爆発。衝撃波だけでも倒れてしまいそうな激戦が続いている。もはや何をしているか俺にはわからない。
「…………。戦いの神……母上が最近、現われて言ったんだ……王、英雄になれるって。それで神剣と名をくれて……」
神剣が折れたのと、二柱の戦いを見て、自信をなくしたのか近衛騎士団長オールは、三角座りをして、顔を伏せていた。……そっとしておこう。
「あれ?」
「どうしたんだ、クレイ」
「いや、……レイナ嬢によく似た子がいない。」
妖精の森。生い茂った木々の中、レイナは一人歩いていた。
「…………ぬうう。マザーと同期できぬ。最初は妾側の不備かと思ったが……ううむ。この辺りならば、同期可能の範囲のはず……神域のせいか? いや、干渉の仕方が違う故に関係ないはずじゃが……」
独り言を呟きながら、難しい顔をしている。視線は空を見上げていた。
「————当然ですよ。貴女の存在は、抹消しましたから」
レイナによく似た声が響く。現れた少女は、レイナそっくりの少女だった。レイナは、驚愕する。
「抹消じゃと……? それに、なぜ、ここにいるのじゃ———マザー」
「貴女と直接、お話をしにきたんです? 妾のバックアップ。いえ、魔人たちが総力をかけて完成さられなかった。非晶質性の迷宮とは違う…………魔素結晶体」
「……わ、妾には、」
レイナは狼狽する。そんなレイナな様子を無視するようにマザーは言葉を続ける。
「どうやら彼が動くよう。—————————平面移動型時空航行移民船ボンド。浮上します」




