第三話 夢?いいえ現実です
区画が整理されている様子の街並みはとても綺麗であった、観光都市を思わせるほどに、大通りは人が多く、様々な種族が行きかっている。
「ここは王都だからな、栄えていて当然さ、ま、このポラリス王国はどこ行ってもこんなんだけどな」
「すごいんだなぁ」
「おう、1千年前に当時のポラリス王が魔法に目覚めて世界を統一したのさ、それ以降ずっと続いている」
「え、他の国はないのか……?」
「ないな」
こ、これは一歩間違えたらディストピアまっしぐらじゃ……。ぱっと見た限り、耳長い美形のエルフっぽい人や、頭に耳を生やした人?おおよそ、ファンタジーって言ったら、こんなんだよね、と思えてしまう人たちをすれ違う、どの人も不幸そうな様子はない。
「種族とか、色々あると思うけど……」
「あ~、よく知らんけど数百年前にもめたとかあったらしいけど、オレはあんまり歴史は得意じゃないからなぁ」
確かに勉強より、スポーツとか合いそう、でファンとかいそう。
「あー、そうそう今向かっているのは寮の部屋で小隊ーー」
「どうしたんだ、急に足を止めて?」
クレイモア・イクリプスは、すれ違った男性を見ていた、いや睨んでいる?中肉中背の何の特徴もない男性だ、数分後には忘れているだろう見た目をしている。ただ纏ったマントは少し年期がはいっているのかボロい。
「おい、お前。公道での魔道具所持はルール違反だぞ」
そう口にしながら、クレイモア・イクリプスは男性の肩を掴んだ。
「チィ!」
男性は忌々しそうに振り返る、その手には刃渡り10センチメートルを超える剣が握られていた、剣の刃は薄い膜のようなものが纏っている。
「おっと『廻る気血よ、変化せよ』」
全力で突きだされたその刃を、クレイモア・イクリプスはまるでダンスでも踊るように避ける、そのまま半身を残して躱した。剣をもった男性は勢いを殺しきれずに重心が崩れ、がら空きとなった背中にクレイモア・イクリプスは、拳を叩き込んだ。
「ぐえ」
石造りのはずの地面にひびが入る、細かな石の破片があたりに飛び散った。剣を持った男性は、地面にめり込んでいたのだ。
「やば……強化して思っきり殴っちまった、怒られる……」
周りの人たちが、クレイモア・イクリプスの捕り物をまるで娯楽のように囃し立てる中、俺は一人困惑していた。
「痛い……血が流れてる」
石の破片で手の甲を切ったらしい、痛い。だがそれを超える思考が渦巻いている。
「これは……夢じゃないのか?」