第三十八話 妖精の森で
「これから、どうしようかな……」
神殿を修復し終え、一息ついたところで、パールが呟いた。
「確かに……。王都には、戻ろうにも戻れないし……」
王都はガーネット・カット・ポラリス侯爵がクーデターを起こしたのだ。そして王族であるパールがいればカタチだけの神輿にして、クーデターに対抗する勢力が出てくるかもしれない。
王様と侯爵は、パールに近衛騎士を付け、パール自身がクーデターに対抗する勢力にして、他の勢力を黙らせことにした。
「パールが始めるか。他が始めたのにパールが乗るか。クーデターが収まった後の勢力図に大きく影響があるのじゃな」
「申し訳ございませんわ。つい私くしが、近衛騎士を壊滅させてしまったばっかりに……」
「トリアのせいじゃないわよ。近衛騎士が変な野心をいだいたのが原因だもの。それにしても……変ね」
変? パールは難しい顔している。
「近衛騎士は全員、顔見知りよ。皆、忠誠に厚い良い人ばかりだったはずだけど……トリアも知っているわよね」
「そうですわねぇ。私くしを襲ってきた人は、近衛騎士団長でしたわ。…………あの人、私くしの神域を壊して……慌てた私くしが怪物に……、あら?」
「ぬ?」
神域を壊して……? そんな簡単に壊せるものなのか?
「神域って、この妖精の森も神域だよな。神域ってなんだ?」
「神域は、神族に関わるものの周辺に張られる力場ようなもの。私くしの神域は、ニンフ由来ですし……。効果は、悪意を持った者の体力と気力を削ぐくらいしか。戦い関係を司ってないと、直接的な攻撃手段がありませんの」
神域がないと、その辺りの女の子とあまり変わりませんわね。とトリアは付け足した。
「……それに、人間には神域は壊せないはずですわ」
「それじゃあ、近衛騎士団長は魔人とかになって変わったのかしら? それともすごい魔道具を手に入れたとか?」
「どうでしょう……魔道具や魔人には試したことがありませんわ」
トリアはレイナとパールを見ながら話す。
「やめておくのじゃな。その辺りの魔道具なら試す価値もあろうが、妾は特別製じゃ。あまりいい結果にはならぬじゃろう。パールもおススメはできぬ。マスターの影響がある者は特にな」
「ああ。原初の力ですのね……」
トリアさんは落ち込んだ声で、頬を赤く染めがら俺を見てくる。俺はそっと目を逸らした。
「くふふふふ。どうせなら邪神と魔人、そして妾の全面バックアップしたメイスで、力技しても良いのじゃがのぉ?」
レイナは、いわば動く迷宮だ。……俺はイメージした。
動く迷宮(着ぐるみなど)を装備した俺が、兵士を薙ぎ払い、それを指示する魔人……いや、次期魔王パール。その後ろには邪神トリアが微笑んでいる。
「……………………………侵略ものかな?」
「さ、さすがにそれは……」
「わ、私くしも……心清らかな邪神ですので」
レイナの案にドン引きの俺たちである。
「ぬう。真面目なやつらじゃの」
心底、つまらなそうに唇を尖らせている。
「ま、まあ。パールがこのクーデターで重要な場所にいるんだし、何もしてなくても向こうから接触してくるんじゃないかな?」
俺の言葉に、レイナ、パール、トリアは頷いて、何かあるまで自由行動となった。ただし妖精の森の中だけだが。
レイナは、良い電波を探してくると言い、フラフラと妖精の森の何処に歩いて行った。
パールは、小さな神殿の傍で瞑想している。魔人の力と向き合うらしい。
トリアは、修復した神殿で、パールの部下を創っているそうだ。
そして俺は、ぬいぐるみに乗って、妖精の森の中を駆けながら考え事をしていた。
「……………」
トリアは、俺の事を何かすごい人だと思っているようだが、俺はただの一般人だ。召喚されてすごい能力を持っているワケでもない。
「……いつも通り起きた時には、病院のベットだった」
俺には、現実世界と異世界の間に、何かすごい存在とかには会っていない。
「でも、レイナが言うには、世界を超えるような魔法は、魔力が足りなくでできないと……」
だけど、事実として、この身体の主と俺の本来の身体は入れ替わった。
「……もしかしたら……、記憶がないだけで、俺はすでにこの世界にいたのだろうか……?」
考えれば考えるほどわからない。
「……………」
記憶にないだけで、俺はこの世界にいたのだろう。そう決めて行動するなら俺のやる事は簡単だ。
「メイス・イクリプスにこの身体を返す」
パールの件が片付いたら、メイス・イクリプスを探す旅に出てもいいかもしれない。そんな考え事をしていたからだろうか、俺は妖精の森を抜け、砂漠の入り口に来ていた。
「ん?」
妖精の森に入ろうとしている人たちを見つけた。一人は、豪華な鎧を全身に身にまとい、強そうな雰囲気をしている男性。一人は、レイナによく似た少女。そして、クレイ。
「おーい。クレイ~」
俺は手を振りながら三人に近づいた。
「ほう。案内を用意するとは、わかっているじゃないか」
堂々と偉そうに腕を組みながら話す豪勢な鎧の男性。
「…………。」
レイナに似た少女は、一言俺を見て、呟いて目を逸らした。
「メイス……」
クレイは、苦い顔をしたまま俺の名を呼んだ。
「クレイ。この人たちは……」
「そのことなんだか……」
「貴様は、知っているぞ。ガーネット侯爵がパール姫に付けた従者だな。姫の付き人が、これほど弱々しい男とはきいてあきれる。さっさとパール姫の所へ案内せよ」
………? 俺はクレイを呼んで小声で話した。
「な、なぁ。どういうことなんだ?」
「それがな——」
これまでのことをクレイは話くれた。この偉そうな人は、近衛騎士団長。トリアを怪物にした張本人らしい。しかも今度は、パールを手にしようとしているとか。
「……………」
俺は、近衛騎士団長オール・グローリーの前に立った。
「案内する気はない」
「なに?」
俺の言葉に一瞬で不機嫌になる。クレイは俺の後ろで、オロオロしている。
「これは、お願いではなく命令だ。姫の元へ案内せよ。言うことを聞かねば、貴様の首が飛ぶことになるぞ」
殺気が俺にあたる。足も手も震えるが、それでも友達を売る気などない。
「断る。」
「そうか。ならば死ね」
近衛騎士団長が、つまらなさそうに腰に下げていた豪華な剣を俺に向けて振りかざした。
「…………」
俺はその時、恐怖よりも上回った感情があった、それは疑問だった。
——————なぜ俺は、こうも簡単に自分自身の命をさしだすような行動ができるのだろうかと—————?




