第十三話 メイスの計画
軍病院の一室。
お見舞いに来てくれたクレイ、パールさん、トリアさんたちは着物を着た少女に視線が向いている、少女は何の感情もなく、事務的に話する。
「そなたの身体の主はメイス・イクリプスと言うんじゃたかのぉ。この本で、何を知った気になったかは知らんが、これは、魂の入れ替え、前世でも来世でもない。そもそも時間や空間を逆境するなど、一個人の魔素……魔力では行えるわけなかろう?」
「え、それじゃあ、俺は……?」
何処から来たんだ……?記憶にある現代社会の日常は……?
「まぁ、入れ替えの条件に深い縁が必要————」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!!」
少女の言葉に立ち上がり大声をあげるクレイ。
「そ、それじゃあ、メイスの計画はどうなるんだっ!?」
計画……?パールさんもトリアさんも心当たりがないのか首を傾げている。
「ふむ、計画とな」
「あ……、っ」
計画。クレイは口にする気がなかったのだろう。青い顔をして座り込んだ。
「…………クレイ、計画ってなんだ?」
「……ああ、そうだな、話すよ……。」
肩を落とす、クレイは語り始めた。
「はははっ、すごいぞ。この本はきっとボクの考えをカタチにしてくるっ!」
それは、メイス・イクリプスが迷宮で本を発見した数日後の
夜だった。寮の一室で、本を片手に凶気染まった瞳を宿しながら、笑い声をあげている。
「おいおい、今ままで静かだと思ったら急に声をあげて、どうしたんだ?」
「聞いてくれよ、クレイっ!これさえあれば魔力汚染の治療ができるかもしれないぞっ!!」
「魔力汚染って……、魔力適正の低い者が罹りやすい魂の劣化で、最後には迷宮の魔物のようになるんだったよな…。助かるのかっ!、よかったじゃないかっ!」
メイス・イクリプスの言葉にクレイモアも喜びあらわにする。
「それで、クレイにも協力してほしいんだ」
「ああ、まかせておけ、何をするんだ」
頷くクレイモアに計画を話した。
俺ことメイスのいる病室は静まりかえっていた。クレイはそんな中、ぽつぽつと話し出す。
「…………計画は、魔力汚染を受けていないメイスの魂と、汚染を受けたメイスの魂を測定して、その差の中の違いを明確にすることだ」
差……?俺はまったくわからないが着物を着た少女だけが一人頷いている。
「なるほどのぉ、魂の汚染具合に明確な基準を造ろうとしたんじゃな」
「ああ……。魔力汚染はほとんど自己申告らしいからな、本当かどうかも怪しいものも多い。」
「だったら、なんでそんなにクレイは落ち込んでいるんだ?研究が進んでいいことじゃないのか?」
俺も何か役に立てているなら嬉しいし。だがトリアさんはあきれたように俺に話かける。
「その研究は、貴方がいい様に使われることを意味するのですわよ?おそらく、前世である貴方の測定が終わったら、貴方は必要ない。その本とやらで、貴方の魂に再び上書きするのでしょうね」
「そうだな、だから、今のメイスには「前世に帰る」ように促す。そう言う手筈だった」
…………クレイが俺にとても親切だったのは、そういう意味があったのか。…………騙されていたことになるけど、怒りより寂しさが込みあげてくる。
「クレイ……」
「…………すまん。何も知らない人間を勝手に巻き込んだ罰なんだろうな、悪い、ちょっと席を外すわ」
そう言って、クレイは病室から出ていった。
「………………私は、クレイの気持ちがわかるわ、魔力汚染をなんとかしたい気持ちがね。……彼らのやり方は褒められたものではないけど」
今まで黙って推移を見守っていたパールさんが話始めた。
「私も、父親が魔力汚染に罹っているわ。少しでもなんとかなるなら……って思ってしまうもの」
「パールさんの父親ってことは……王様か、女神のトリアさんなら何とかならないのかな?」
「無理を言わないでくださいな。魔力をなんとかできるならもっと昔に対処していますわ」
女神でも無理な案件らしい。やがてパールさんもトリアさんも用事があるからと病室から去っていき、俺と少女だけとなった。
「………………」
迷宮での一体感がまるで夢のようだ。
「さて、邪魔者がいなくなったようだしのぉ。もっとも重要な話をしようか」
「重要な話……?」
これ以上、刺激的なな話は勘弁してほしいんだが……。俺の心情に気付かないのか、少女は重々しく言葉を紡ぐ。
「妾の名前、決めてほしいんじゃけど?」




