第十二話 そして、知ることとなる
瞼の裏に光を感じ意識が浮上していく。俺はぼんやりと目を覚ました。
「ここは……」
最初に気付いた時も似たような光景だった。たぶんここは軍病院だろう。
「おや、お目覚めはごぎげんかな。マスターよ」
見知らぬ少女がベットの傍の椅子に座っている。手に持つ本以外はまるで日本人形のようだ。着物を着ているからよりそう思うのかもしれない。
「……君は……?」
「ぬ、マスター呼びは不服かな?では、ご主人様とでも呼べばよいかな?あー、旦那様でも構わぬよ?」
何の話をしてい———そうだ、みんなは、迷宮はどうなったんだっ!!
「みんな?!君は何か知っていないかっ!?」
「ええい、がっつくでないわ、余裕のない男はモテぬぞ、まずは落ち着け、ほら、すーはーすーはー」
「すーはー、すーはー……で、みんなはっ!」
「変わらぬではないか、まったく。そなたといっしょにいた人間と魔人と女神は、すでに活動しておるわ。無事じゃよ」
そっか、よかった……。なんか一瞬、変な言葉聞こえた気がしたが安心した。安心したら目の前の少女が気になった。
「それで、君は……?」
「妾かぇ?さて……なんじゃろう。哲学的命題じゃなぁ~。自我を構成する情報は研究施設ナンバー07からじゃが、本体の基本的情報はマザーのバックアップとしての役割と君の記憶から構成している。そして、魔素結晶体の初の成功例という、さて妾はなんじゃろう?」
「…………?」
言っている事がまったくわからない。とりあえず気になることを口にする。
「えと、どうして俺の傍に……?」
「それは妾がそなたと契約したからじゃ。うむ、妾的にはもっとロマンス溢れる素敵な場所がよかったんじゃがなぁ」
「け、契約……?」
「妾は、今風に言うと魔道具じゃ。ちゃんとマスターの所有で許可されておる、ふふふのふ、」
にやにやと笑みを浮かべる少女に俺は寒気がした。
「……………妾の初めての契りじゃったんじゃぞ。…………責任とってほしいのじゃ」
「メイス、見舞いに来た、……ぞ?」
「え?」
「あら?」
やや半笑いで頬染め俯く少女。ちょうど病室のドアをあけて入ってきたクレイ、パールさん、トリアさん。
『……………』
固まる。人は言葉で石になれるんだね。と今日一番の学びを得た。
パールさんは顔を真っ赤にして、怒っている。トリアさんは、まあまあ、とニコニコと適当な事を言っている。クレイはめちゃドン引きしている。そしてカオスを造った少女は、にちゃあ、と聞こえてきそうなほどの変な笑みを浮かべていた。
「あれ?、その本って前のメイスが持っていたやつと同じやつじゃ……」
クレイが少女の持つ本を見て呟くと空気が変わる。
「い、いつのまに目的の本なんて見つけたの……?私たちって、迷宮の、今まで発見されてなかった下層で倒れていた所を助けらえたって話だったけど……」
「そうですわね、パール様。下層は魔力が強すぎて私くしですら意識を保つことはできませんでしたもの」
え、じゃあ、誰が俺たちを助けたんだ……?
「妾が、妾の出来損ないを処理しながら、適当に人のいる所まで運んだだけじゃぞ?この姿は幼いが、そこの女神といっしょで、中身と外面は釣り合っておらんもの」
「で、でも本はどうしたのよ?」
「ぬ?こんなもの、妾ならいくらでも造り出せる、ほら」
そう言いながら少女は、本を消し、また本が現れた。
『…………』
俺たちは言葉を失う。先に話は始めたのクレイだった。
「ま、まあ、ほらよかったじゃないかっ!これで元の場所に帰えれるんだぞっ!」
「そ、そうよっ!なんだかしっくりこないけど、よかったじゃないっ」
「え、ええ、そうですわっ!お別れは寂しいですけど……少し聞きたいこともありましたが、よかったですわっ!」
「そ、そうだな……みんな、ありがとう、俺、帰るよ」
少しの間だったけど、すごい冒険だったと思う。きっと地球に帰ったら———。
「残念じゃが、無理じゃな」
—————え?




