第二十九話 屍の意志を継ぐ(4)
夜。ヴァイス伯爵の邸宅の客室。自分の部屋として使っていいと言われた場所で、ベッドに座り、俺はランプを見ながら考えていた。
「…………何か他に方法はないのかな」
ただの人になった俺にできることなんて限れている。
「…………」
このまま、パールたちが移民船リンクと戦えば、どちらも無事では済まないだろう。
「……俺は甘いのかな」
移民船リンクは、すでに世界を侵食している。パール達は、防衛機構として世界を守るために立ち上がる。どうしても相容れない。
「何か……できることは……ん?」
誰かが扉を軽く叩く音がした。誰か来たようだ、俺は立ち上がり扉を開ける。
「レイナなの、か……?」
そこには、三叉の槍を持ったレイナがいた。三叉の槍は布で包まれている。
「うむ。強力な目覚ましのおかげで目覚めたのじゃ」
「目覚まし……?」
「この槍じゃよ。海神の槍が起こしてくれたのじゃ」
「そ、そうなのか……?」
「そうじゃよ? なんなら感動的に抱きつこうかの?」
こ、この感じはレイナだ。俺はレイナを部屋に通した。レイナは、ベッドの上に座る。俺は備え付けの椅子に座った。
「レイナ。パールたちには……?」
「もちろん、すでに会っておる。この槍をパールが持っとたからのぉ。でじゃ。今、マスターに会いに来たのは夜這いのためではないのじゃ」
「う、うん」
「なんじゃ? 夜這いに来てほしかったのかぇ?」
何を言ってるんだ。俺はあきれた目でレイナを見るとレイナはため息をつく。
「夜這いができるほど余裕があったら妾もよかったんじゃがなぁ……。マスターがリンクにいた時、妾も見ておった。マスターは何が知りたいのじゃ?」
…………。
「——————魔素結晶体ってなんだ?」
神官たちは、結果はどうあれ、赤い石を大切そうに使った。レイナは、時空すらも超える船を造れる魔人たちが、作れなかったという存在だ。リンクがレイナを捕まえたのも魔素結晶体を造るためだろう。なら……。
「……妾が知るのは船に残るデータだけじゃが、それでも良いなら話すのじゃ」
俺は頷いた。
「魔素結晶体は、原点の1。一番最初の力。電磁気力、重力、強い力、弱い力に、分かれる前のナニか……一つであるが無限の可能性」
「…………」
「この世界とは、似て非なる場所に錬金術という技術があったのじゃ。錬金術で偶然できたのが、後に魔素と呼ばれるもの。発見した者の名など残ってはおらぬがな」
錬金術……、だから賢者の石なのか。
「そして、魔素は、使えば別の「力」に置き換わり消える。移民船には、「力」を再び魔素に戻す変換器が備わっとる」
魔素は消耗品だった? でもレイナは……。
「魔素は、プラズマから液体と固体の間
まで変化する。完全な固体。結晶化する事はありえん事じゃった。空論として存在する程度じゃな」
レイナを見ながら俺は何度も相槌をうつ。
「しかし、妾ができた。使っても減ることがない。その場に居続けるあり得ない物質にの。それは魔人たちが必要とした無尽蔵、無制限の力の塊」
無尽蔵、無制限……。
「移民船リンク。あやつは、魔人の夢を手に入れるべく動いておったようじゃ。それが、あの船長の命令かは、わからぬが……」
「そこにレイナが捕まったらから……」
「うむ。すでにその夢をリンクは叶えた。だから、あやつは、魔素結晶体を使い魔人の楽園を創ろうとしておる。…………それがあの骸骨たちが目覚めると思っての」
移民船リンクの船長たちは、やっぱり……。
「止められないのか……?」
「無理じゃな。あれは妾とは違い中枢システムに異常があるようじゃ。移民船ボンドが乗っ取りでもしない限り無理じゃろうな」
戦うしかないのか……。俺は肩を落とした。
「……あの骸骨たちは魔素結晶体を使っても復活しないのか?」
「カタチだけならば可能じゃが、個人が体験した経験は無理じゃな。……リンクは魂すら魔素に変えたようじゃからなぁ。もはや何も残っとらん感じじゃし」
「……レイナ」
俺は、姿勢を正してレイナを見る。
「よいのか? どちらも救うなどと世迷言を目指すなら、パール達と敵対することになるんじゃぞ」
「俺は、目先の事しか見えてないかも知れない。それでも……。レイナこそいいのか……?」
「へーきじゃよ。この槍もわかっておるようじゃ」
レイナも俺を真っすぐ見つめた。
「妾は貴方の魔道具。マスターと共に在る事こそ妾の証じゃ」




