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ソウルエクスチェンジ~来世のボクから前世の俺へ~  作者: 山吹アオサ
迷宮での探しもの
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第十一話 魔素結晶体



「…………」


俺の目の前には化け物がいる、身体は人間体のようだが顔は狼。三メートルはある巨体だ、少し小突いただけも俺は、枯れ葉のように吹き飛ばせるだろう。


「…………」


身構える俺だが、化け物は何もしてこない。


「…………わ、ワらわ、は」

「!?」


化け物が話したっ??


「、ワらわ、……たち、ハ。まち、続、けた。貴殿のさい、ら、いを」

「貴殿……?」

「ワらわ、は、失敗…し、……タ。ち、地下。へ。貴殿を、まつ。……者が。……いる……」


化け物はそういうとクレイが倒してきたゴブリンのように消えていった。


「…………」


俺は、首を傾げパールさんたちのいる場所へと走り始める。






クレイたちの元に到着した時、俺は言葉を失う。血まみれで壁際に横たわるクレイ。パールさんはトリアさんの傍で倒れいる。トリアさんは結界のようなものを張っているのだろうか、淡く白い球体の中にいた、ただその球体はヒビが入り今にも壊れそうである。


ゴブリンを持つ化け物は執拗にトリアさんの張った球体を叩いていた。


「くぅ……。信徒くんっ!?なぜ戻ってきたのですかっ」


俺の存在に気付いたトリアさんが驚く。気づいたのはトリアさんだけではない、化け物も俺に気付く。


顔はなくても俺の方を意識ているのがわかる、先ほどの化け物は俺に何かを伝えてきた。もしかしたらこいつも———


「——————」


———そう思ったのが間違いだったのだろうか。顔のない化け物は俺に向かって手に持つゴブリンを投擲してきた。


「っ。」

「信徒くんっ!」


トリアさんの悲痛な叫びが響く。俺には戦う経験もなく、すぐに反応し身体を動かすほどの訓練も受けていない。それはメイスの身体も同様で、都合よく動くなんてこともなく……。


迫りくるゴブリンをただ見るしかなかった。



衝撃音が響く。だがそれは、金属と金属のぶつかる音。


「はぁ、はあ、まったく、……前のメイスと何も変わらない世話の……かかるやつだ」


立つこともままならない様子のクレイが愛用の大剣をゴブリン目掛けて投げた。そして大剣はゴブリンにあたり、俺のあたる事なく地面に転がる。


「—————!」


化け物はそのクレイの行動があまりにも面白くなかったのだろうか、ほとんど動けないクレイに向かって歩き始める。その様子を理解したクレイはトリアさんに向かって叫んだ。


「メイスとパール姫を連れて逃げろっ!」

「っ!」


トリアさんは息を呑む。俺は、走った。


脳裏によぎるのは、もう誰も死なせないと言う意志。その意志はどういった理由でよぎるのかもわからない。ただ四人で無事に迷宮を脱出する可能性だけが思い浮かぶ。



クレイは言った。


「メイスに迷宮の出入口で取材してきた記者いただろう?魔法や魔道具ってのは、相手の意識まで干渉できるんだぜ。そんな難しく考えないで、なんでもできるからすげーでいいんじゃん」



トリアさんは言った。


「呪文はあくまでイメージするための補助ですわよ、魔力に伝えることができたらどんな言葉でも良いんですわ~」



パールさんは言った。


「で、私たち祖先の人たちが、その魔力を使えるようになった。理由は……えと、私たちの身体が魔力で造られているからだったかしら」


そして、見たことがないはずの少女の姿が浮かんだ。


「———妾———魔素結晶体————そなたの———よく知る————道理でいかようにもできる————」




「パールさん!」

「っ、メイス、くん?」


パッと見ただけでもかなりのダメージを負っているのがわかる、でも俺は、彼女の力が必要なんだ。


「俺の意識を読んで、その通りに魔法を使ってくれっ!」

「な、なにを言ってるんですのっ、パール様はまだっ」


視線をクレイに向ける、化け物の歩みは遅いのかまだ壁際で座り込むクレイとは距離があった。


「……。わかったわ、何かあるの、ね」

「パール様っ?!」


パール姫から手を伸ばされる。俺はそれ握りイメージする。想像力なんて必要ない。俺の知っている事実を確認するだけ。


————魔力と言われいる魔素を意識する。

————細胞の規模でない。もっと直接的に。

————分子でもなく原子でもない。探り出す。

————陽子、電子……まだ遠い。

————クォークにまで手を伸ばし……見つけた。


「な、なにをなさっているのですか……?」


驚愕した表情で唖然としながらつぶやくトリアさんの声が聞こえる。彼女にはわかるのかもしれない俺がしようとしていることが。


「———魔素を剥がし、集約する。」

「ううっつ」


苦悶の表情を浮かべるパールさん。その身体をそっと抱きしめるトリアさんは、かなり焦っているようだった。


「わ、私くしにその力を流してください。その力は人の身には耐えられない」

「え、……ええ」


パールさんが落ち着いたようなので思考を再開する。


————集約を繰り返す。繰り返す。繰り返す。



俺たちの前に赤い色をした塊が姿を現し始めた。カタチは歪な石ころのようなもの、綺麗さの欠片もないただの塊。しかしそれは、今の俺にもっと重要なもの。


————標準は顔ない化け物。

————弾は歪な塊。


「——————撃ち出す。」



衝撃はない、赤い一閃が顔のない化け物に穴をあけた。


「おいおい……マジかよ」


クレイは目を白黒させながら、化け物を見つめている。化け者は、赤い粒子となって消えていった。



「…………信徒くん、いえ、貴方は、」


トリアさんの言葉を遮るように迷宮の壁にヒビが入った。打ち出された弾は、迷宮の壁すらも穴をあける。壁の亀裂は瞬く間に広がっていき。俺たちの足場を崩していった。






暗い暗い迷宮の奥だった場所、上層からの光が差し込んでいる。

メイス、クレイモア、パール、トリアは、迷宮崩壊に巻き込まれ、最奥で倒れていた。

メイスはぼんやりと意識の中、自分を見つめる少女がいる。


「研究施設07の情報はすべて、妾が受け取りに成功した。実験体Sを肉眼で確認。———契約を開始。」


少女らしからぬ優美な微笑みを浮かべた少女は、愛おしそうにメイスの頭を撫でている。


「…………幾久しく妾はそなたを待ちわびておったぞ」


そしてメイスの意識は完全に途切れた。


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