第十八話 クレイモアの場合
トリアの造り出した雷雲による壁は、移民船リンクの主砲をかき消す事に成功し、ヴァイス伯爵領の人々は落ち着きを取り戻している。
主神トリアの存在は、人々の意識に深く刻まれるのに時間はかからなかった。
「………」
俺達はヴァイス伯爵の邸宅で客人として迎え入れられいた。俺としては早くレイナを助けに行きたいが、雷雲を越えると移民船リンクの光線が雨あられの如く降り注ぐらしく、それを超えるための対策が浮かぶまでの滞在である。
「トーラス。そんな難しい顔してもいい案は浮かばないぞ。ちょっとオレにつきあわないか?」
客間のソファーで、考え込む俺にクレイが声をかけてきた。
「どこか行くのか?」
「おう、軽く飲もうや」
クレイに連れていかれたのは、酒場だった。昼間なので、人はあまり多くない。俺達はカウンター席に座る。俺もクレイもジュースを頼んだ。
「さすがに酒を頼む気になれないって」
「昼だしなぁ」
「それもあるけど、娘に止められるんだよ」
クレイはすでに世帯持ちだった事を思い出す。
「娘に止められるって、酒癖が悪いのか?」
「悪いって言うか……。飲んだらすぐに寝てしまってな。盗まれたり、忘れたりしてな……」
な、なるほど。大変そうだ。
「だいぶ前にな。上の娘の誕生日プレゼントを買ったんだよ」
お、おう。長そうな語りだ。
「よりにもよって、その日に飲み会があってさ……、誕生日プレゼントを何処かに置き忘れて、買いなおそうにも店は閉まってたんだ」
「う、うん」
「上の娘な、プレゼントを楽しみにしてたらしくてさ。…………しかも、メイスの方が娘のほしいものだったんだよ」
「うわぁ」
「一週間、口をきいてもらえなかったんだぜ」
クレイはジュースを一気に飲む。……これジュースだよな。果実酒とかじゃないよな?
「なんで、メイスの方がしてほしい事や、ほしい物がわかるんだよっ!」
…………よっぽどストレスが溜まってたんだなぁ。
「…………今では、メイスのお嫁さんになりたいって意味わかんねぇよ……。」
クレイは、頭を抱えている。もはや俺はただの聞き役である。
「め、メイスは、それだけ距離感があるから客観的に対応できるんじゃいかな」
「距離感かぁ……、そういや、トーラスはレイナ嬢やパール姫とトリア嬢、後、あれだ。イーリス嬢か。誰を選ぶんだ」
え。
「もしかして、あの怪物か? ああ、それとも王様らしく、全員か?」
「いやいや、何を言ってるんだよ」
「いやいや、お前の方が何を言ってるんだよ、だ。魔王国の王だぞ、跡取りがいるだろう?」
「で、でも俺は生まれたばかりだし……」
「あ~。精神は肉体に影響を受けるとかあるらしいしなぁ」
「そ、そういう事はもっと落ち着いてからだと思う」
「確かに……」
その日、日が暮れるまで俺とクレイの話は続いた。




