第十話 半神半人
「許可できませんね」
イーリスお嬢様がいるはずのヴァイス伯爵の邸宅。門番をしている武装した神官に話をするが断われてしまったようだ。
「ダメ……ですの?」
俺達は、少し離れた場所からメイドの恰好をしたトリアと門番の様子を見ている。
「だ、駄目です」
トリアの上目遣いは効果がないようだ。
「……ん。後一押し。チラリズムでいけるっ」
怪物が何か言ってる。
「変ね」
「そうだな」
クレイとパールは難しい顔をして、門番と邸宅を巡回している武装した神官を見ていた。
「どうしたんだ?」
「ここは伯爵領のはずよね? どうして神官が伯爵の邸宅まで護衛しているのかしら?」
「言われてみれば……」
確かに伯爵が雇う、もしくは伯爵傘下の騎士といてもいいと思う。
「人間の世界は、神官がこんなに力を持つものなのか? トーラス」
「いや、……俺は、そこまで意識してなかったし……」
羊飼いトーラスだった時にもっと国勢ばかりではなく、階級とかも勉強しとくべきだった。
「トリアっ!?」
邸宅から出てきたイーリスお嬢様がトリアの姿を見て驚きの声を上げ、トリアの傍に走って近づいて来た。イーリスお嬢様の手には落ち着いた色合いの花束を持っている。
「ちょうどよかったですわ~。力技、ではなく、素敵なお話をするトコロでしたの」
トリアを引き留めていた門番は、イーリスお嬢様に敬礼をして離れた。
「今までどこに……いいえ、貴女の弟が……わたしを助けるために……」
俯くイーリスお嬢様。
「大丈夫ですわ。トーラスは今もそこにいますし」
「そっかな……」
「ええ、きっと見守ってくれてますわ」
近くで様子を見てます。
「……トーラスは、ここにいるよ? 笑うとこ?」
「貴女は、もう少し空気を読むことを覚えたほうがいいと思うわ」
「これから学べばいいじゃないか」
「甘々ね」
怪物と冥界神と魔王国将軍が話している。今更だがすごいチームだ。
「それで、イーリスお嬢様はお出掛けですの?」
「うん。トーラスのお墓にお参りに行くの」
「まあ、では私くしも付いて行きましょう」
イーリスお嬢様とトリアは、歩き出した。武装した神官たちが敬礼をして見送る姿を見るに、事前に決まっていたことなのだろう。
「護衛の気配もないわね。まあ、半神半人を何とかできる人間なんていないと思うけど」
「後をつけるのか?」
「うーん、少し距離をおいてから行くか。パール姫」
「いつまで姫って呼ぶのよ……。まあ、いいわ。何か気になることでもあったの。クレイモアくん」
「気配消したりとか、」
「できるわけないでしょ。それ冥界と関係ないもの」
パールの力は冥界に関わる事に限られるようだ。
「…………離れていく」
「おっと、追いかけないとな」
馬車はゆっくりとした速度で動き出した。
街から離れ、山道を上っていく。山道は申し訳程度に舗装されていた。行き交う人の気配はない。メンテナンスをする者がいないのだろうか。
俺達は、馬車から降り、イーリスお嬢様に気づかれないように距離を置きながら歩いていた。
「……めんどう。」
「トーラスを守るため、だな」
「守る?」
俺と怪物が首を傾けているとパールが口を開く。
「聖女イーリス・ヴァイスを守そうとした羊飼いの少年。英雄になり損ねた悲劇の従者ってトコロかしら? 政に利用されるのを防ぐためってあたりね」
「人間はめんどい」
怪物はとてもダルそうにしていた。




