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ソウルエクスチェンジ~来世のボクから前世の俺へ~  作者: 山吹アオサ
迷宮での探しもの
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第十話 千年前の再来


交代で見張りをして、起きる時間となった。全員でテントを片づけ、帰るかどうか相談する。


「うーん、メイスがほしい本が出てこなかったなぁ。オレとしてはもう少し探したい気があるんだが?」

「いや、さすがに、パールさんやトリアさんに悪いだろ、一泊二日って決めるんだし」

「最初に言った思うけど、別に構わないわよ?トリアは、」

「ええ、平————」


言葉をつまらせるトリアさん。ニコニコと穏やかな表情をしていたはずがとてもこわばっている。視線の先は地図によると俺たちのいた場所よりもさらに奥の道である。


「どうしたの、体調が悪いなら———」

「ど、どうして……。奴らはすでにいなくなったはずなのに……」


肩を震わしながらトリアさんは呟く。


「トリアさん?トリアさんっ!」

「っ!」


俺の問いかけにトリアさんは俺たちに視線を向けた。


「その、今すぐこの場から、」


その時だった、俺たち以外のたまにすれ違う探索者が奥の道から姿を現した、その恰好はボロボロで身体を引きずっている。


「あ、アンタたち、早———」


言葉は途切れた、探索者の身体が倒れる。そこにはあるはずの上半身が存在しなかった。探索者を追い詰めた者が姿を現す。


全長は3メートルはある。人の形をしたものだった雌雄はなく顔もない、できそこないの人形のような姿をしている、手にはゴブリンが握られており、そのゴブリンが赤く染まっていることから、武器に使っていると思われた。


人であった者を一瞬で物に変えた化け物を、……何故か俺/僕は知っている。そして込み上げる吐き気は、記憶からかなのか、今の光景からなのか。


パッンと手を叩く音が響いた。手を叩いたのはトリア。その表情は今までに見たことがないほど凛としている。


「状況は変わりましたわ。クレイモア様、パール様。」

「え、」

「あ、トリア……?」


現実感を感じていないのかクレイもパールさんも呆然としていたらしい。


「ここに神託を下します。私くしは美と豊穣の女神「三枚目の葉」、あの者は過去、我々の世界を侵略したものの末端、今を守りたいのなら戦いなさい」


トリアさんの声が響く、それと同時にトリアさんの中心にフワリと温かく淡く光る風が吹いた。その風は精神を安定させる効果があるのか、俺の吐き気が収まっていく。


「おいおい、マジかよ、人生って本当に何が起きるかわからないもんだな」


クレイはそう呟き、大剣を構える。


「まさかトリアって女神だったの?美と豊穣って、美人なワケよ」


パールさんもレイピアを構えた。そして俺は———。



「信徒くん。貴方は迷宮を出て、このこと伝えてください」

「…………」

「そんな顔しないで…………、大丈夫ですわ、昔と状況か違いますもの」


いつのまにか俺はひどい顔をしていたのだろう。トリアさんは俺を安心させるためか、今まで見てきたような穏やかな笑顔を向ける。


俺は走り出した。


背中から迷宮に入ってから何度も聞いているクレイの掛け声と金属がぶつかり合う音。

パールさんの呪文とバチバチと雷の音。


「…………もっと貴方とお話したかったですわ」


そして、トリアさんの涼やかな声が俺の耳の残った。






地図は記憶になかった。当然だ、クレイがナビをしていたのだから、道順を思い出そうとすると情景がまた二重にみえた。吐き気する。


長い長いコンクリート製の道を逃げるように走る、まるで以前にもあったような気がする。俺/おれは、逃げようとした。音が聞こえる。世界が変わる。


『そっちに行ったぞっ!』

『まだ逃げるだけの自我があるのかっ!』

『実験体Sは、逃げすなっ!』


怒鳴り声が聞こえる。ここは何処だろう。俺は誰だった……け?


「ああ。そうだ。帰らないと、学校/会社に遅れる」


いつも通り電車に乗って、友人/同僚に会って挨拶して。

少なくても、こんな綺麗なコンクリートのような場所じゃない、もっと人の生活環境がある、錆やシミがあったはずだ。


「はぁ、はぁ、はあ」


信じられないられないくらい体力がない。俺はなんだ。なんで実験体Sなんて呼ばれているんだ。


「俺の、オレの、俺の名前は——」


頭に激痛が走る。意識が変わる。世界は戻る。立ち止まった。


「………………………?」


何か思い出そうとして何も思い出せなかった。そんなことより俺には大切なことがあったはずだ。


「そうだ、迷宮の外に行かないと……」


走り出そうと足が動かなかった。本当にこのまま迷宮を出てもいいのか……?


クレイやパールさん、トリアさんをそのままにしていていいのか?戻ったとしても戦う力のない俺は足手まといにしかならないだろう、でも、それでも。


なにか、何かできることはあると思うから———。


俺は戻ろうと振り返って、動けなかった。


「がいpjpまjpmp」


クレイたちが戦っているのとは違う化け物が目の前にいたのだ。






「はぁぁぁぁっ!」


クレイモアは大剣を振り下ろす、その刃は化け物の身体を叩き切るはずであったが、ゴブリンをこん棒のように使う化け物が受け止めてしまう。


「ちぃ、っ、なんでゴブリンでオレの剣が受け止めれるんだよっ」

「クレイモアくん退いてっ! はぁぁぁぁ!」


パールの声にすぐさま距離をおくクレイモア、その瞬間にレイピアに雷を纏わせ放出したパールは、化け者を焼く。


「い0りにじゃwんg」


だが、化け物が何の障害も感じていないように、手に持つゴブリンを振り上げる。


「魔法が全然聞いてないのかよっ、『強化』最大っ」


クレイモアの身体から青く淡く輝く光の靄が表れる。化け物が振り上げたゴブリンを片手で持った大剣で受け止めると、空いた方の手で拳をつくり、化け物の胴体に殴りこむ。


「へ、少しは効いただろう、このデカブツが。」


化け物は手に持ったゴブリンを落とした、クレイモアはそれが化け物にダメージが入ったものだと思ったが。


「クレイモアくんっ!」


化け物はクレイモアの真似をしただけなのだろう。ゴブリンを落としたのも己の拳を使うため。化け者はクレイモア目掛けて拳を下す。


パールは、いち早く化け物の狙いに気づきクレイモアにぶつかり、化け物の拳から庇った。


「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」


守るように突き出していたレイピアは化け物の拳で折れ、その衝撃は、パールを吹き飛ばす。


「パール姫っ!?」


地面に転がったパールにトリアがすぐさま近づく。


「っっ、うう」

「動いてはなりませんっ、今、治癒しますのでっ」


パールの身体が透明の緑色をした膜につつまれる。


「っ、魔力に適応した人類は私くしの力を拒みますのっ」


女神であるトリアが真面目に意識して治療すれば人間ならば経ちどころに健康体になれただろう。しかし、魔力に適応した者はそうではなかった。


トリアに焦り色が見え始める。



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