その後の顛末
☆会社
「TVを持っている新人はこれだけ?半数にも満たないではないか?」
「ええ、うちも5,6年前にTVを処分してから買っていません」
「そうだよな・・・最近は・・」
会社の寮でTVを持っているかどうかの調査が行われたが、TVを持っている人は少なかった。
まあ、気持ちは分る。私も、情報番組も後からネットで検証されて、そっちの方が有意義だったりするから、いつのまにかネットに移った。
しかし、
ネットの情報だって玉石混淆だ。
例えば、長年中国で商社マンとしてすごした人の話は面白かった。明らかに、日本のジャーナリストでは報道出来ない話をしてくれる。
「・・・軍用機が北京に向かったとのニュースが中国国内で流れましたが、すぐに、クーデターか?との憶測が流れました。この背景には中国内部の権力抗争が・・・」
しかし、中にはとんでもないインフルエンサーがいるのではないかと思う出来事があった。
宮本だ。
俺は、
あの事件の後、地区の集会場に呼ばれた。
☆地区の集会場
「まあ、まあ、そんな若い人同士、目くじらたてんでも・・・」
組長(町内会長)が田舎では権力を持っている場所もある。
うちは半々だ。用事がないのに、無視してはいけないぐらいの存在である。
その組長に呼ばれた。俺と宮本との話合いの場をもうけようとするのだ。
彼は、防弾チョッキを着て、刺股を持って歩いているところを警察に職質、任意同行をされたので、地区では有名人だが、それでも、暖かい目で見られている。
「田村さんとこのセガレも、カンフーブームのときはのう。カンフー服を着て、青竜刀を背負って、ゲーセンに行っておったのじゃよ。
若いうちだけだ。今は笑い話だ」
「まさか・・・」
「昔は、雑誌の通販広告で買えたのじゃよ。刃はとがってなかったがのう」
宮本は黙っている。
俺は、宮本のナイフを警察署に拾得物として届けてしまった。
所持違法のナイフだった。
それで、宮本があちこちで俺がトンデモない奴だと吹聴していたので、組長が腰をあげて、和解の席を設けたのだ。
一応、俺の弁償無しで、和解が成立したが、
宮本はここで、何故、刺股を持って、防弾チョッキを着ているか自説を講じた。
まあ、自衛隊と警察への批判だ。
いわゆるネトウヨ?をこじらせたタイプか?
ネトウヨ、パヨク、こんな人をカテゴリー化する用語は好きではないが、
実は、私は、どちらの意見も、ええっと思うことがある。
「それ?誰の受けいり?」
「〇〇〇さんだよ」
「自衛隊は体力検定の基準が低い。訓練ばかりで実戦経験がないから弱い」
とのことだ。
だから、〇〇〇さんと有志が、渇を入れている(サバゲで?)
と言うことだ。
そこで、俺は自分が経験したことと、職場にいる元自衛官から聞いた話を総合して話した。
まずは、体力検定だ。
「あのな。俺、高校の時、陸上部で、大学でジョギング同好会に入った。
それでね。始めて、大学の体育館併設のトレーニングジムで筋トレした時ね・・・」
器具があるが、使い方が分らないし、バーベルとか使うと危険だ。
だから、懸垂をしたよ。
「・・・19・・20。ふう」
と降りたら。
「おお、貴方は体育部でみない顔だけど。すごいですね。何年生ですか?」
「おい、俺らもやってみようぜ!」
「「「オッス!」」」
「え、一年生です。貴方たちは?」
柔道部がいたよ。皆、重量級で体格が良い。
全国的に有名じゃないけど、それでも、高校の時に全国経験のある者もいる。
俺から言わしたら化け物だよ。
「7・・8・・・9・・ふう。ここまで・・」
それでも、10回くらいやった。
あの体格でだよ。
彼らは俺よりも体力がないとは言えない。
むしろ、体力がある。
しかし、彼らに長距離が無理だ。
当たり前だ。
体力検定の基準が低いって、つまり、そういうことだよ。
人の体力には偏りがある。
そのような人たちのために、低く設定されていると思うよ。
兵士の理想とされているアーノル〇さんみたいな体格は、そうはいない。
それと、自衛隊は実戦がないから弱い。
「あのね。それは、フォークランド紛争の時、アルゼンチン軍は、空軍や海軍、陸軍の機関要員以外、徴兵制度だったんだよ。
始まったのは3月だ。1月に徴兵されて、碌な訓練を受けていない兵士たちが主体だったんだよ。
だから、ワンサイドゲームでアルゼンチン軍が負けた。
イギリス軍だって、実戦を経験した職業軍人は少なかった。
その差が如実に現われたのじゃないか?」
これは、ネットからの受けいりだ。
そして、
「そもそも、刺股が間違いだったって知らないか?」
「知っているよ・・・使い方が警察の指導はなってない」
「あのね。刺股の捉え方だよ。
会社にも刺股はあるが、それを変えようと話になっている。
江戸時代の刺股は、犯人を押さえる曲線部にもトゲがついていたり。首を押さえるために特化していたり。
犯人を無傷で捕まえるものではなかった。
最近は、ケ〇ベロスにしようかと話がなっているよ」
ケ〇ベロスは、襲ってくる暴漢を、ベルトを巻き付け捕縛する新商品だ。
実は、我社でも、酔っ払ったおっさんが、会社が受け持っている工事現場に侵入しようとした事件があった。
かなり、危険な状態だったので、真剣に検討されている。
死人が出てからでは遅いのだ。
「だって、〇〇〇さんは・・・」
「ところで、警察はダメ、自衛隊はダメ、何故、お前はフランス軍外人部隊、在米軍基地の警備要員に応募しない?」
「フランス語なんて無理だ。英語も・・・」
「それで、サバゲに行っても、全く違うよ。お前は、一体、いつ、立ち上がる・・・」
熱くなってきた。らしくない。
俺、こいつの事嫌いだった。
いつも、真理は俺だけが知っている!みたいな態度で鼻につくタイプだったな。
しかし、ここで、こいつの国防の想いは本当なのかも知れないと思い直した。
「しかし、宮本が、そのような格好で歩いていると、防犯になるんじゃないかな。
ここにも、農作物を盗む奴らも来るだろから」
しかし、
宮本は否定した。
「いつも、そんな格好しているわけじゃないよ。通り魔が出そうな人が多いところとか、農村なら着る必要なくね?」
「おい・・」
その時、
組長が介入した。
「そう言えば、最近、凶暴なハクビシンかアナグマか出ている。追い払っても、体当たりしようとしてくる。
折角だ。散歩がてら、見回ってみないか?梨をあげるから」
「そうだ。あの電動ガンだっけ。あれで、撃ってもらいたい。箱ワナにもかからず困っているのじゃ」
「ええ、普通、アナグマだったら逃げるでしょう。ハクビシンかな」
狩猟法の関係で、害獣でも殺すことは出来ない。市役所に箱ワナを借りて捕獲して、処分してもらうのがここでは一般的だ。
希望すれば、お肉に加工してもらえるそうだ。
話が思わぬ方に行き。
結局、電動ガンを持って、田畑を歩く宮本が目撃されるようになった。
彼は、もうすぐ公務員試験を受けられなくなる年齢だ。
どこを受けるか受けないかは全く興味ない。
最後までお読み頂き有難うございました。