二
「これは・・何なの?」
「ナイフです」
「捨ててらっしゃい」
「・・・自分のではないです」
俺は靖子さんに事情を話した。2歳年上の親戚と言うか、一緒に暮らしている血縁関係はない。まあ、同棲状態?
「まあ、まあ、婚約者同士なのだから、仲良くね」
義母は微笑ましく言う。
流れってあるよね。その流れにのって、婚約をしてしまった。特に、強烈な恋愛感情はないが、気が付いたらだ。
「マサ君、婚約をするにあったって、お互いの身上を把握するわよ。借金は?私のカードで食材を買っているから、毎月、数万の借金があるわ」
「俺はないです。学生時代に作ったピザデービットを使っています」
「そう・・・」
色気もへったくれもないが、共働きになるので、お互いの家計に入れる割合。
独身時代の貯金はどうするか?などなど、
その流れで、この話が出てしまった。
「違法なものとかは持っていない?エロ動画とかどうでもいいから」
ジィーー
と見つめられる。
カンがするどい。最近の挙動不審がバレているようだ。靖子さんに嘘は言えないから、軍オタから、預かったナイフの話をした。
そして、冒頭の捨ててらっしゃいに戻る。
「あれから、連絡をしても、『もうちょっとだけ』の繰り返しで、そのうち、電話を取らなくなった状態です。
そして、メッセージや録音で引き取るように言っています」
「そう・・・貴方、なめられているわね。法律事務所で使っている手段をとるわよ。簡易のレターパックをコンビニで買ってきなさい」
「はい」
そして、数日後、有給を取り。靖子さんに連れられて、法律事務所に行った。彼女の勤め先だ。
「初めまして」
「まあ、お話を聞いているわ。さあ、どうぞ」
弁護士は、女性の方だ。通常、こういったことを知り合いに頼むのはダメな気がするが、
「法テラスの無料相談所は混み混みよ。一月待はザラなの」
だそうだ。
挨拶もそうそう。PCから文書を出してくれた。
「相談料は無料でいいから、文書代3000円を頂くわ」
「はい」
「文書を読んで、ここに、サインをして、そして、アドバイスだけど、レターパックの電話番号欄には何も書かないこと。受け取った親御さんが電話をかけてくるかもしれないからね」
私のサイン入りの文書はコピーして、一部手元に取っておく。
文書の内容は、ナイフの引き取りを、一月後までにすること。そうしない場合は、こちらで処分をすること。
電話番号を書かないのは、先生の話だと、余計な第三者が登場させないためだ。
そして、
「ネットで、到着の表示がされるから、それをこの文書のコピーと一緒に、プリントアウトして取っておきなさいね」
「はい」
記録郵便などではなくても、簡易レターパックの記録でも、裁判所では有効だそうだ。
お金もかからない。
そして、送った。
☆一月後
やはり、連絡が来なかったので、ナイフを持って、警察署に行った。
「拾ったのですが・・・」
嘘だけど、余計な面倒を引き起こさないためだ。
警察官は目を輝かせる。仕事帰りなので、夜に行ったから、
誰も相談者はいないと思ったが、
顔を腫らせた女性が、警察官に相談をしていた・・・
「ウウウウ・・・」
女性の嗚咽が聞こえる中でも手続きは淡々と進む。
「これは、違法ですね。三ヶ月後に、貴方に権利が行くと同時に没収となります」
「ええ、それで結構です」
これで、違法なものの所持状態は終わった。
☆数ヶ月後
宮本から連絡が来た。
「山田、集まりに行くから、ナイフを取りに行くから準備よろしく。ナイフを使った護身術の講習を受けに行く。きちんと包装してすぐに取り出せないように持ち歩いたら、大丈夫だってさ。駅前に来てよ」
何事もなかったように、宮本から、連絡が来た。
こいつ、ヤクザが手下に銃を保管させるように、俺にナイフを預けている気になっているな。
「文書を確認して下さい。〇月〇日に送りました。ナイフはありません」
ププ~~
スマホの通話を切る。
それから、何件か連絡があったが、後のことは知らん。奴にされたように、着信無視を決め込んだ。
また、買えばいいじゃん。
まだ、裁判のお知らせが来ない状態だが、大丈夫だろう。