一
「もし、田端さんが、ウクライナに行ったら大活躍できるんじゃないですかね?」
土木現場で、安全パトロールに来ていた元自衛官の田端さんに、こんな不躾な質問をする奴がいた。
田端さんは即答する。
「無理だな」
「「「「えっ」」」
補足説明すると、我が社にはたまに、54歳で定年退官する幹部自衛官の方が就職する。
第二の人生だ。
自衛官、幹部でも、高速道路の料金徴収係や、保険会社の顧問など、天下りとも呼べない実情があるそうだ。
特に、保険会社の顧問は大変で、自衛隊と保険会社の間で、争いがあったときは、調整する聞いただけで、面倒くさい役割をするそうだ。
例えば、
保険会社が駐屯地に要望する。
『規則では、1社に付き3名までと決まっている。外交員をもっと増やして欲しい』
対して、駐屯地の厚生課長は、
→『実情は、付き添いや自衛官個人の面談で、多くの保険外交員が入っている。むしろ、もっと、規制した方がいいくらいだ!』
とその面倒な仲裁をする。
まあ、駐屯地、あまり、不必要な部外者の出入りは避けた方がいい。
元の場面に戻る。
「自衛隊が戦えないという訳ではなく、私が、元自衛官だからだ。退官してから、すっかり体がなまった。
それに、ウクライナ戦争で、戦争のあり方が、変わった。
両軍ともに、ドローンを多用している。運用の研究と対策が必要だな。
それに、SNSだ。とかく、昔から義勇兵や傭兵は戦場の写真を撮りたがる。履歴書というわけだ。
しかし、SNSの発達によって、リアルタイムで、敵にも自分の居場所を分らせてしまう危険が多くなった。
某国の義勇兵ユーチュバーのニュースを聞いたときは、ハラハラしたものだよ。SNSの対策もしなければならないだろうな」
「そんなものですかね」
「田端さんは、その年齢でも、細マッチョなのに」
「いいや。すっかり、なまったよ」
自衛官と言うと保守的だというイメージが私にあったが、田端さんは、革新的だ。そうでなければ、自衛隊の幹部で長年、勤務できなかっただろう。
田端さんは、自衛隊でも精鋭部隊に所属していた。
そんな田端さんを知っているから、
軍オタになった友人と話したときは、違和感を生じた。
「マズルコントロール・・・・89式にアウトして・・・・」
何かよく分らない専門用語を羅列している。
ここは、デパートで、うっかり、地元の幼馴染みの宮本に出会ってしまった。
彼は、迷彩服の上衣を着ている。
え、迷彩服ではない?防弾チョッキだと、
「そうだ。護身を考えたら、これが、最適だ。通り魔にあっても対処出来る」
まあ、そうだろう。ついでに言うと、不必要な外出しなければ、もっと安全だぞ。
「山田も来いよ。サバゲのインストラクターに元自衛官やスワットがいる。特殊部隊に所属していた人がレクチャーしてくれるんだ」
「へえ、定年退官された方?」
と言ってしまったが、
「彼らは本物だ」
何故か、怒られた。
「日本は侵略されている!・・・」
正直、彼の話は興味ないから、聞き流した。
俺の中で、本物だとか、俺を信じろとか言う奴は信用しない。
この仕事、胡散臭い奴にはたまに合う。
アメリカの弁護士資格があって、アメリカの州軍の大佐で、ナイフ術の天才と自称する奴にも会ったが・・・
ここで、デジャブが、彼はナイフを持ち歩いていて、大騒ぎになったのだ。
「おい、宮本、まさか、ナイフを持ち歩いていないよな?あれ、馬鹿に出来ないぞ。捕まったら前科がつくかも知れないぞ」
「・・・」
彼は何も言わずに立ち去った。
持ち歩いているな。絶対に
奴は公務員予備校に行っていたはずだが、いろいろこじらせたな。
☆会社
「それはだな。日本には軍事知識がない。国会議員から、市役所の役人、子供まで軍事の知識がない国なのだ。まあ、私見だがな。現役の自衛官は大学教授よりも少ないのだ。だから生活の中に軍事が抜け落ちている」
田端さんに、宮本の話をしたら、こう切り返してくれた。
「でも、いわゆる軍オタは?」
「そのような知識ではない。例えば、数学、数学科の大学教授に必要とされる数学と、大工、主婦に必要される数学は、違いこそあれ、皆、数学を知っている。身についている。
しかし、日本では、兵器の末尾些細な知識の差で、マウントを取りたがる人もいる。
大学教授が、一般人に、自分の知識をひけらかすか?」
「ああ、何か分る気がします。大学教授はその分野では化け物ですからね・・・」
『山田君、君のレポートは、昭和の時代に結論が出ているよ。〇〇の本を読んでみたまえ。それに至った経緯は評価に値するが・・・もっと、大局を見て勉強をしなさい』
『はい・・』
何を書いても、既に先人によって結論が出ている。ただ、圧倒されたな。
「これは、ものの本にも書かれていることだから、話せるが・・・」
と田端さんは、初期のPKOで起きた出来事を話してくれた。
☆1990年代、東南アジア某国
ニヤニヤニヤ~
自衛隊の物資集積所に、一般人たちが集まって来た。
様子がおかしい。子供から大人まで、ニヤニヤしている。
どうも、自衛隊をなめているようだ。
物欲しそうに、物資を見ている。
だんだん、数が多くなった。
もし、暴動が起きたら・・
と警備についている陸士は不安になった。
撃てるだろうか?
自衛隊が機関銃を持っていくかどうかで国会で議論される国だ。
自然と、その空気が現場にも伝わり。
現地人を刺激しないように、銃に弾を装填しないで、警備についていた。
陸士長は、野外電話で、装填の許可を乞うた。
『・・・やむを得まい。装填を許可する』
陸士長は、皆の見ているところで、コウカンを引き。弾倉を銃に差し込み。ガチャ~ンと装填をした。
これは、いつでも撃てるぞ。
という意味だ。
すると、
民衆から笑みが消え。群衆は去って行った。
その中に、自動小銃を持っている民兵崩れもいたそうだ。
彼らは、ファッ〇ユーの仕草をして、バイクで立ち去った。
日本だと、パトリオットの警備で、陸上自衛隊が出動したときもあるが、デモの方々は、その違いすら分らないだろうな。
☆
そして、宮本は、警察に職質された。
その時は、防弾チョッキに、刺股を持って歩いていたそうだ。
「何だかな」
「山田!これを預かってくれよ!お前がナイフを持ち歩いてはダメだからと言ったから、刺股にしたんだ!あれは目立ちすぎるだろう!」
「え、何だよ」
「親父がカンカンで捨てろと言われたんだよ。でも、15万円もしたんだ!」
「ナイフ!無理だよ」
「じゃあ」
最後までお読み頂き有難うございます。