番外編:|反葉《たんば》 |渚紗《なぎさ》
私はその日、救われた。殺そうとした……いや、殺さないといけなかった相手に。
私が小学校に上がっすぐ、両親は死んだ。私には5歳年上の兄がいて、家が無くなり頼れる人が居なかった私たちは、借金をし、更にはそれを返せずにいた。その結果、私たちは廃墟で住むことになった。最初は支えあって生きていた。だけど、小学3年生になったあたりから兄は、私に暴力を振るうようになった。殴る蹴るは当たり前で、暴言や存在否定、ただでさえ少ない食べ物を取られる事もあった。幸い、性的暴力は無かったが、それでも、トラウマになるには充分だった。
そんなある日、私たちは能力を得た。兄は『テケテケ』で『速』という字が右の手のひらに浮かび上がっていた。
私は『覚』という妖怪で『心』の字が左の手のひらに浮かび上がっていた。兄の、体の速度が10倍になるという身体強化系の能力に対して、私の能力は対象とした人間の心を読むというだけの能力だった。能力が手に入ってから少し経つと、兄はある組織から声が掛かった。その組織は能力者を集めて、ある目的のために動いていた。ただ、私たちは下っ端でその目的は教えて貰えなかった。間接的に私もその組織に入れられた。やる事は、組織の邪魔を消したり、単純に雑用だったりと様々なことをしたけど、その中で兄は、1人相手を殺した。殺してから暫く経つと、兄は、相手の能力が使えるようになっていた。その能力は『鵺』、雷を操るという能力でさらに兄は強くなった。私が、兄を止めようとしたことは、何度かあった。だけど、その度に殴られいつしか反抗をすることを諦めた。
そんなある日、組織からまた命令が来た。命令の内容は簡単で、ある女子高生を始末しろというものだった。最初は私が相手を見て来て、見つかっても油断した所を攻撃、という作戦だったが一瞬で形勢は逆転し私と兄が劣勢になった。私は捕まり、兄は半殺しにされ逃げた。が、その数分後、何処からか兄の断末魔が聞こえ、相手が能力を解除したあと、私の足下におそらく兄だった物と、そこから流れ出た血が広がっていた。
「な……んですか…これ」
「君のお兄ちゃんの死体」
兄の死体を見て、
(私もここで死ぬのかな)
と思ったが、何故かその女の人は私を殺さなかった。私が、家が無いことを知ると、家まで提供してくれた。女の人達の暖かみに触れ私は大泣した。その日、私はこの人達のために生きようと決めた。
「ねぇ三咲、こっちに入ってこない2人、殺すんじゃなかったっけ?」
怒気を孕んだ声が電話越しに聞こえた。
「殺す予定の2人、まだ生きてるみたいだけど?しかも、こっちの駒も4人失ったみたいだし……」
「……次は殺れる」
「ふーん、じゃあ次ミスったらボクが君を殺すからね?」
「…分かってる…」
通話は切られた。
「心を読む子をこっちに入れる為に、あの男の子スカウトしたのに…両方死んじゃうなんてなぁ……」
「ボ クが動くなんてこと、ないようにしてね……?」
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次回から新章突入!