第七話「予想外の再会」
選考の模擬戦に出場する『双頭の毒蛇団』の代表者としてカイネの登録を済ませ、イレネと二人で昼食をとった後、私は武器屋を見てから戻ると言ってイレネと別れた。
そしてリトリスの街にある武器屋を見て回り、顔をすっぽりと覆うフルフェイスの兜を探した。できるだけ軽くて、手ごろな値段のものを探し歩き、五軒目にしてようやく気に入る品と出会えた。
購入し早速その場で兜をかぶり、次は広場へと向かった。
戦場でならばいざ知らず、街中でフルフェイスの兜をかぶる酔狂な人間は当然いないので悪目立ちしていたが、まあ顔さえ隠せれば問題はない。
広場ではまだ騎士団の兵士たちが数人、傭兵たちの対応に当たっており、その中に先日のトルフィルの姿もあったので、声をかけた。
「傭兵団には所属していない流れものなのだが、選考の模擬戦に出ることはできるだろうか?」
「はい、可能です。ただ、個人での参加希望となりますと、まずは実力を測るための試験に合格いただく必要があります。騎士団の訓練場で試験を行っておりますので、こちらの木札を持って参加してください」
トルフィルから木札を受け取り、そのままの足で騎士団の訓練場を訪れると、そこでは数百人の試験参加者たちが騎士団の兵士にしごきまわされていた。
どうやら試験とは騎士団の兵士たちが、それぞれ一人ずつ試験参加者を相手に木剣で戦い、その実力を測るといったもののようだった。
傭兵相手の試験を任されるだけあって、試験担当の兵士たちは皆それなりの使い手だった。
もちろん精鋭が集う北狼騎士団の兵士と比べると見劣りしなくもないが、父上が語っていたほど、西鷲騎士団の質も悪くはない。
あわよくばこの機会に名を上げようと参加したらしき街のゴロツキや力自慢の農民たちは、容赦なく木剣でたたかれ、そこかしこで転がりうめき声を上げていた。
「おいそこのお前。そう、兜を被ったへんちくりんなお前だよ。試験を受けに来たのか?」
木札を手にしながら、兵士たちの動きを観察していたら、不意に声をかけられた。
振り返るとそこには丸太のような腕をした巨漢の兵士が立っていた。
「誰も俺のところに寄り付かねえから暇してんだ。お前は俺が相手してやる」
ニヤニヤと笑いながらそう話してきたので、どうするか迷っていると、近くにいた農民らしき若い青年が小声で話しかけてきた。
「あいつは辞めておいた方がいいよ。俺の友達もあいつに腕の骨を折られたんだ。力の加減をしないから、今日だけで何人も怪我させられてる」
「そうか。教えてくれて感謝する」
私はそう青年に返すと、巨漢の兵士に歩み寄っていった。
近づくと余計見上げるようで、『ニワトコ団』のゾーイに近い巨躯であった。
「試験を頼む」
「ああ、わかった。俺は木剣を使うが、お前は自分の獲物を使っていいぜ」
「承知した」
随分と舐められたものだが、よほど腕に自信があるのか、ただの調子者かはこれから見定めればいい。
巨漢の兵士は木剣を肩に担ぐようにして、嗜虐的な笑みを浮かべながらずかずかと間合いを詰めてきた。
私はその場で兵士に対してわずかに半身の姿勢を取り、剣の柄に軽く手を添えた。
あと一歩で互いの剣の間合いに入る。
その瞬間、巨漢の兵士は表情を一変させ、鋭く息を吐きながら木剣を袈裟斬りに振り下ろしてきた。
だが、鈍い。
余計な予備動作も大きく、剣の軌道が容易に予測できてしまう。
振り方が腕力に頼りすぎているし、脇の絞りが甘く剣に重さが乗っていない。
「修行不足だな」
私は後ろ足を蹴って半歩分、右前方に飛び出ることで兵士の剣の軌道から己の身体を外し、すれ違いざまにがら空きとなった兵士のわき腹を剣で撫で斬った。
「ぎゃっ!!!」と兵士は大きな悲鳴を上げ、わき腹を押さえながらその場に倒れこんだ。
そして、そのまま動かなくなった。
「何があった!?」
悲鳴を聞きつけ、隣で試験を行っていた兵士が慌てた様子で駆けつけてきた。
既に剣を鞘に納めていた私は、倒れたまま動かない兵士を指さした。
「気を失っただけだ」
「確かに外傷はないな。だが、どうやって?」
「すれ違いざまに空いた脇を剣の腹で撫でてやった。本人は真剣で斬られたと錯覚したようだがな」
図体に似合わず肝っ玉は小さい男だったようだ。
「良い腕だな。だが、こいつにも良い薬になっただろう。素質はあるのに、なまじ力が強いから技を磨こうとしない。これを機に少しは真面目に訓練に取り組むようになるといいが」
「それで私は合格か?」
「ああ、文句なくな。この赤札を持って、あちらの受付で模擬戦への登録を済ませてくれ」
そう言って兵士が懐から出した赤い木札を受け取り、受付で適当な偽名を使って模擬戦の登録を終えた頃には、陽が傾き始めていた。
『双頭の毒蛇団』の野営地に戻る前に、夕食を済ませようと街の食堂に立ち寄り、兜をぬいで麦酒と揚げ鳥を注文した。
今日の兵士相手では物足りなかったが、きっと模擬戦では強者と対峙できることだろう。
まだ見ぬ敵との戦いを想像し、思わず頬が緩んでしまった。
だが、同時に気も緩んでいたようで、目の前に座った男の存在に声をかけられるまで気づかなかった。
「よう、放蕩娘。元気そうだな」
聞きなれた声に顔を上げると、そこには北狼騎士団の団長であり、ナイトレイ侯爵家の当主であり、つまりは私の父親であるオースデン・ナイトレイが凶暴な笑みを浮かべて座っていた。
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