第十話「模擬戦初日」
それぞれの試合場には、一人ずつ試合を裁く騎士団の兵士がおり、その兵士の指示に従って、私とアルミンは試合場の中央で正面から向かい合う形で立たされた。
「これより、『密林のサソリ団』の傭兵アルミンと無所属の傭兵ルルーの模擬戦を執り行う! 両者、正々堂々と存分に剣を交わすように!」
兵士が大声でそう紹介すると、試合場の周りを囲む観客たちからは大きな声援が起こった。
『密林のサソリ団』の仲間たちも応援に来ているようで、
「アルミン、ぶっ殺せ!」
「負けたら承知しねえぞ!」
といった物騒ながらも、楽し気な野次を飛ばしていた。
「では模擬戦、始め!」
そう言って兵士は戦場で使うラッパを吹きならし、模擬戦の開始を宣言した。
私はその場から動かず、剣先をだらりと下げて、あえてゆったりと構えた。
まずはアルミンという傭兵の技量を図りたい。
そのためには、受けの剣で後の先を狙う。
「あんた、割と強いだろ。初戦からついてねえぜ」
アルミンは三日月型の曲剣をクルクルと円を描くように手首で振り回しながら、そう話しかけてきた。
その円運動は次第に速くなっていき、まだ距離があるというのに風切り音が私にも聞こえてきた。
あの曲剣を、正面から受けてはまずいだろう。
「曲剣使いと戦うのは初めてだ。お手並み拝見する」
「なら嫌という程、見せてやるよ!」
アルミンは曲剣を振り回しながら駆け出し、一気に距離を詰めてきた。
そして、縦回転だった曲剣を直前で横回転に変え、私に叩きつけてきた。
「ぐっ!!!」
私はその一撃を剣で受け止めたが、衝撃はすさまじく、そのまま横に吹き飛ばされた。
遠心力も乗った恐ろしい威力である。
地面を転がりながらも体勢を立て直すと、すぐに追撃に来たアルミンが二撃目、三撃目を繰り出してきたので、今度は剣では受けず、前足で地面を蹴って後ろに飛びつつ、上体をそらして紙一重で避けきった。
「ちっ! 猫みてえな動きするな」
「一撃目は素晴らしい威力だった」
「はっ! 最初はわざと剣で受けただろ、あんた。その余裕が足をすくうぜ」
アルミンはそう言うと曲剣を振り回すのをやめ、今度は肩に担ぐように構え、剣身を身体の陰に隠しならが、じりじりと間合いを詰めてきた。
対して私も剣先を相手の喉元の高さに据える構えに変え、迎え撃つ準備を整えた。
「シュッ!」と鋭い呼吸と共に、アルミンが振り下ろしてきた曲剣を再び剣で受け止めようと動いたが、直前でアルミンは手首を返し、刃がついてない三日月型の膨らみの方を振り下ろしてきた。
タイミングを狂わされた私は、中途半端な角度で曲剣の一撃を受け止めることとなり、衝撃を殺し切れず、体勢を崩されてしまった。
その隙を突いて、アルミンに足払いをかけられ、見事にその場ですっ転んだ私にアルミンは改めて曲剣を振り下ろしてきた。
正確に私の顔面を潰す軌道で迫る曲剣を、どうにか首だけ捻って避けると、足でアルミンの腹を蹴り上げ、その反動を使い起き上がった。
「今のは危なかった! 曲剣、恐ろしいな! そういう工夫もあるのか。直剣での戦闘に慣れていると、テンポやタイミングを狂わされるのだな」
「そう嬉しそうにされてもな? こっちは常勝の技が通じなくて傷つくぜ」
剣も種類が異なれば、使う戦術も磨く技術もすべてが異なる。
だからこそ剣は面白いのだ。
「そろそろあんたの技も見せてくれよ」
「すまない。私にはまだ技と呼べるようなものはないんだ。だが、今度はこちらから仕掛けさせてもらおう」
今までただ、教えられた剣の基本を磨いてきた。
速く鋭く的確に剣を振るう。
そのために延々と無駄を省き、基本に最適な剣を目指してきた。
それでも未だ基本を満足にこなせない私に、技と呼べるような工夫を凝らすのは早い。
私はその場で小さく足のステップを刻み始めた。
私の剣は父上やレニスに比べれば、軽い。
だが、その軽さは武器にもなる。
小刻みに身体のリズムを刻みながら一気に駆け出し、アルミンに対して剣を地面と平行に構え、立ち位置を変えながら次々と刺突を繰り出していった。
曲剣は構造上、「斬る」ことに優れている。
だが、「突く」ことに関しては直剣の方が優れている。
アルミンを中心に円を描くように動き回りながら、空いたアルミンのわずかな隙に忙しなく刺突を差しこんでいく。
アルミンは次第に私の速度についてくることができなくなり、防戦一方となっていった。
何本か、アルミンのみぞおちや肩に綺麗に刺突が入り、アルミンは「ぐっ!」と痛みに声を漏らした。
このままでは押し切られる、そう考えたであろうアルミンはこちらの攻撃を受ける覚悟で大振りの反撃を繰り出してきた。
だが、その瞬間を私はずっと待っていた。
狙いすました私の一撃がアルミンの手首に入り、アルミンは手首を抑えて曲剣を取り落とした。
「勝負あり! 勝者、ルルー!!」
兵士が大声で勝敗を告げると、途端に観客からは大きな歓声が上がった。
皆、興奮した面持ちであり、拍手をおくり指笛を吹くものもいた。
「楽しかった。ありがとう」
「へっ! とんでもねえな、あんたの速さと正確さは! だが、いい試合だった」
私が差し出した手を、アルミンは握り返しながら、屈託のない笑顔を見せた。
そして試合場を後にし、気になって振り返ると、アルミンは『密林のサソリ団』の仲間たちに笑いながら、頭や背中をはたかれていた。
どうやら仲の良い傭兵団のようだ。
私はその足で、カイネの模擬戦がある試合場にまで移動すると、ちょうどカイネが初戦の敵と戦っているところだった。
カイネの相手は『地獄の番犬団』のブラッカムという傭兵で、巨大なメイスを武器にしていた。
それに対してカイネは両手にダガーを持ち、獣の様に低い姿勢で試合場内を縦横無尽に駆け回り、隙を見て飛び掛かると、殴る蹴る刺すといったハチャメチャな戦い方でブラッカムを一方的に翻弄していた。
「おのれちょこまかと野良犬のように!」
「ワンワン!」
悪態をつくブラッカムに対して、カイネは犬の鳴き声を真似て挑発すると、ブラッカムの股の間をすべり抜け、両ひざを二本のダガーで思いっきり叩き斬った。
刃引きしてあるとはいえ相当痛かったようで、ブラッカムは悲鳴を上げてその場で倒れると、すぐさまカイネは馬乗りになって、ブラッカムの首元にダガーを突き付けた。
「そこまで! 勝負あり! 勝者『双頭の毒蛇団』カイネ!!」
「いえーい!」
騎士団の兵士から勝者が宣言されると、カイネは片手をあげて観客の声援に答えた。
応援していた『双頭の毒蛇団』のみんなも、手をたたいて喜んでいた。
相変わらず、戦い方は野生そのもの。
私とは全く異なり、基本にも型にはまらない強さをカイネは持っていた。
その後、一回戦全ての模擬戦が終了し、昼休憩を挟んでから二回戦が開始された。
私の二回戦の相手は『太陽の翼団』のトルムンクという槍使いだったが、一回戦の相手であったアルミンに比べると物足りない相手であり、試合開始早々に突き出された槍をへし折り、勝負を決めた。
カイネも順当に二回戦を勝ち抜け、日暮れ前には翌日開催される三回戦へと進む十六名が決定したのだった。
「本日、勝ち残った諸君、おめでとう! 素晴らしい戦いを見せてもらった!」
一日目の模擬戦が終了し、勝ち残った十六人が改めて西鷲騎士団の兵舎に集められ、西鷲騎士団の団長であるルーカス・アウガストが、激励の言葉を口にした。
「明日はリトリス中央劇場にて模擬戦の続きを執り行っていく。劇場での模擬戦は、貴族やリトリス領主のクライマン侯爵、更には昨年の北の砦で大戦功を上げられたデヴィン王子もご観覧予定である!」
その話を受けて傭兵たちは感嘆の声を上げたが、私は顔の傷跡に鈍い痛みが走り、唇を噛み締めた。
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