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他人の夢の断片短編小説  作者: モシャス男子
8/9

丙平 弥次の場合

かつての職場のおっかない上司が現れて

『なんでここにいるんだよ!?』

て言われてケツを蹴られた。

でもなぜだか知らないけど

優しく微笑んで俺の前から消えた

より

スタバでフラペチーノを飲む。

これが月に一回ある、俺の特別な日だった。


朝起きて仕事に向かい、毎日少し違う日常を送り。

夜は箱で注文してある炭酸水で茶色い心の消毒液を割って飲む。

これが毎日。

それでも何も不幸に思うこともないし、物足りないということもほとんどない。

そう、今日もハイボールがうまいんだ。


仕事の通り道にあるわけでもなく、家から近いわけでもないスタバへ行きフラペチーノを飲むのが俺の大事な時間だった。

そのスタバは以前勤めていた職場の近くにあった。


その職場は特別盛り上がってる職場というわけでもなく。

社長に至っては盆栽のようにそこにいるだけの置物社長だったが、社員はみんな社長を親のように思っていて居心地のいい場所だった。


俺が初めて就職した会社だった。


社会人になって初めての仕事になれなかった俺はかなり緊張していたからよくミスをしていた。

その度に怖い先輩に怒られていた。

安全確認は必ずしろ、死ぬぞ。

と毎回、言葉と蹴りで教えてくれた。

まぁそこまで強く蹴ってくることはなかったので別に気にしていなかった。

とてもオッカナイ先輩だったけども仕事にはとても真面目だった。



とある仕事をしているときに安全帯をする作業があった。

俺は慣れていなかったのでおぼつかない手つきで安全帯を装着していた。

その時は何もなかったのだが、次の日に先輩が作業中の事故で亡くなった。

安全帯の装着が甘かったため、事故が起きたときに外れてしまったらしい。

人一倍安全確認をしっかりしていた先輩なのに。

その事故から会社への責任問題や顧客離れが続き、程なく会社は潰れた。


それからも元職場の近くのスタバへはよく行き。

先輩から教えてもらったフラペチーノを飲んでいる。

オッカナイ先輩が一番最初に奢ってくれたのがコーヒーフラペチーノだったのが今でも面白くてそればかり飲んでいる。

「近くのコーヒーショップに美味しいコーヒーがあるから連れて行ってやる」

子供のようにはしゃぐ先輩を見てギャップに笑ってしまった。



今ではその時のキャリアを活かして営業職で動き回っている。

今日の現場は安全帯を着用しないといけない現場だった。

スーツに安全帯ってのはなんとも動きづらいものだがまぁ仕方ない。


何事も慣れた頃が一番危険。

確か先輩の言葉だったかな。

全くその通りだ。


俺はスーツにきつくしわができるのが嫌で甘く安全帯をつけていた。

調子に乗って革靴で鉄骨を渡っていたら足を滑らせていた。

その後の記憶は定かではないのだけれど。


なぜか俺はスターバックスにいた。

なんとなく夢のような店内で注文を済ませてカウンターで待っていた。


誰もいないと思っていた店内に隅の方の席に1人いたみたいでこちらに向かってくる。

なんかオッカナイ顔をした人だったので目を背けてコーヒーを待った。


「なんでここにいるんだよ!?」

バスンという音とともに尻に結構な衝撃があった。

声と衝撃に驚いて振り向くとそこには先輩が居るじゃないか。

いろんな感情を差し置いて出てきた言葉は

「久しぶりっすね」だった。


何故か先輩に自分の近況を伝えないといけない気がして、バーッと話してしまった。

「あ、俺コーヒー受け取らないと」

先輩に告げると。

先輩は出口を指差し、やさしく微笑んだ後スーッと消えていった。

なんとなくこの出来事は納得でいていた。

理由はわからないが。


コーヒーを受け取らずに外に出ると俺は病室のベッドで座っている。

少し痛む左の奥歯を内側と外側から撫でると歯がなくなっていることに気がついた。


話を聞くと俺は営業先の現場で落下事故を起こしたらしい。

そのまま救急車で運ばれて病院ということだった。

意外とやばい状況だったらしい。


やっぱり安全帯は必要だなぁと他人事のように医者からの話を聞きつつ、退院したらスタバに行かなきゃと呑気に考えを巡らせる。

あれ?先輩は…



数日後に退院した俺はいつものスタバに立ち寄っていた。

「コーヒーフラペチーノにエスプレッソショット追加で」

いつもと違う少し苦味の効いたそれは少し大人の味だった。




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