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他人の夢の断片短編小説  作者: モシャス男子
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河野春子の場合

私は何年も、同じ夢を見ていた。


途方もなく長い階段を上り

上った先には、広さ二畳ほどの部屋があり。

床も壁も白く、影がなければ広さも分からないくらい白いのだ。

しかしこの部屋には天井が無い。

この部屋から見上げる景色は四角く切り取られた「空」なのだ。




今年で30歳になった私はいつもと変わらず毎日を過ごしている。

今では手を通すのも寝ながらできるほど着なれた白衣を身に纏い、毎朝の日課である入れ替わりの激しい見慣れた顔に挨拶する。

「河野先生おはようございます」

「おはようございます!春子先生!」

年齢は多種多様

お爺さんもいれば小さな女の子もいる。

私の大切なお友達だ。


今日も後輩たちとお昼ご飯を賭けて結紮速度を競う。

今年になってから一度も後輩に負けていないのでお昼ご飯はいつも美味しくいただいている。

14時から自分が執刀する手術がある。

2年前にも同じ手術をした、イメージはできている。

と思いながらも昼ごはんのポークチャップを食べた後のナイフでイメージトレーニングを無意識のうちにやっていた。


手術が始まり、スイスイと順調に進んでいく。

2年前は高齢だったが、今回は40代だ

2年前のお友達より肌の張りも良く、綺麗な切り口で傷跡も見えづらくなりそうだ。

自分の腕の上達を感じつつ、慢心しないように丁寧に手術をこなした


特に問題もなく手術は終わり、着替えが終わると自分のデスクで甘めのカフェラテを飲む。

「やっぱりどういう形であれ人を助けるのはいいなぁ」

とボソリと呟き、天井を見上げる。

「ここの天井は白いなぁ」とあくび混じりに天井に話しかけて、少し目を閉じた。



あの夢だ。

長い階段を登り、真っ白な部屋に着く。

今日も天井は無く、四角い空が見える。

何も無く、部屋から出ることもできず

ぼうっと空を見上げる。


気づくと17時だった。

急ぎの用がなかったとはいえ寝すぎてしまった。

トイレに行こうと部屋を出ると、昨日からお友達になった小さな女の子がいた。

「春子先生こんにちわ!」

目を細めて太陽みたいに笑う顔を見て少しトイレに行く気が薄れた。

こんにちは、あれ?こんばんはかな?と返し、手を繋いで部屋まで案内する。


「春子先生知ってる?」

手をブンブン振りながら隣を歩くお友達がニコニコしながら話す。


「おじいちゃんから聞いたんだけど、みんな歳をとるとお空に行っちゃうんだって、お空に行くときに1人だと寂しいからお世話になった人に見送りをお願いするんだって」


隣でつま先を大きく振り上げながら前に進むお友達の話を聞きながら私は気付き、納得した。


私が手術をして

その後天寿を全うして亡くなった方が見送りをお願いしに来てるんだな、と

私はこの仕事をしていてよかったな、と納得した。


私はまたあの夢を見るかもしれない。

その時はもう少し笑顔で夢を観れるかもしれない。


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