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地味バレ 6

 二ヶ月の新隊員訓練の末、一応生き残り、私は南の国境の街ムスラの国境警備隊の会計課に配属された。5つある国境警備隊、同期散り散りに配属されたわけだけれど、運のいいことにリカルドも一緒で、おまけに同室だった!超ラッキー!


「でもさあ、普通先輩と同室してそこの部隊のマナーを教わるって聞いたけど?」

「……先輩方の人数が少ないらしい。ここのローカルルールは俺が仕入れてショーンに伝えるから安心して?」


 リカルド頼もしいわー!ちなみにリカルドは後方支援の小隊配属になった。リカルドの実力があれば前衛職種の部隊だと思っていたけれど、彼は家の跡取り息子なのかもしれない。そういう立場の人は後衛を選べるって聞いたことことあるし。

 私の場合は完全にゼナンのおっちゃんのコネなんだけどね!


 会計課の仕事はもちろん、この国境警備隊のお金の精算。私はその中の退職金の支給係だ。三年の徴兵期間のみの人の退職金は一律だ。ココでは隣国との小競り合いも最近はないので褒賞などもない。毎月だいたい十数人分の退職手続き業務がルーティン。たまに職業軍人の方の退官の時だけ勤務年数などの資料を取り寄せ算出する。まあでも工房で帳簿関係は叩き込まれてるから問題なし。

 もちろん軍にいる以上最低限の訓練は受けています。でも郊外での演習までは参加しないでいい。

 午前中の早い時間訓練して、昼前から会計業務。昼食を挟み夕方までデスクワークして1日終了。


「ショーン。ほらお土産、王都のクッキー」

「コルトン課長おかえりなさーい。うわーあ、ありがとうございます!」

「ショーン!オレもマルシュの土産持ってきた。一緒に食べよう」

「これ、おまんじゅうってやつですか?オレ初めて!アキバ先輩ありがとう!オレお茶入れますんで、皆さん休憩に入りましょう」

「「「「「そうしよう!」」」」」


「モグモグ……うふふ、美味しいですねっ!」

「いっぱい食べて……大きくなれ……」

「ウンウン、こんなにちっこいと、オッチャンら心配だよ」

「まさか、戦闘職じゃないから常に見下されてる会計課に、天使が配属されるなんて……」

「天使なだけじゃなく、数字に強いし、申請書のミスを隊長クラスの大物相手にも笑顔で突き返してくれるし……」

「そういえばショーンの配属の前日に、会計課、地下室から日当たりのいい部屋に引っ越せたんだよな……ミラクル!」

「ボソボソ……女の子に窓のない地下の環境なんかありえないもんな……ボソボソ……」

「ショーン、ずっとここにいてくれよ!」


 課内の休憩スペースにはいつもたくさんの高級菓子が積んであり、上官も先輩方もとっても親切。昼ごはんも誰か必ず食堂について来てくれて、行列からはじき出されることもなく、ちゃんとホカホカを食べられる!ゼナン将軍がこの恵まれた職場に入れるよう手配してくれたのかな?母に手紙で伝えよう。母からのお礼の手紙のほうがオッチャンは喜ぶはず。


「はあ、オレ、軍の生活絶対ついていけないって思ってたけど……会計課でよかった。皆さんありがとうございます!」

「「「「「ショーン!!!」」」」」


 会計課、異様に涙脆いな……。





 5日働いたら1日お休みの勤務スタイル。明日は休日。やったーとスキップして帰ると寮の部屋のドアに手紙が差し込まれていた。私宛だ。カミル少尉……カモミールさんからのお呼び出しだった。


「ショーン、誰から?」

 リカルドが上から覗き込む。

「え、内緒」

 私はカサカサと手紙をポケットに入れる。


「また内緒かっ!まさかデートの誘いか?」

「バーカ、男だよ!」

「いや……男のほうが……マズイ……会計課の奴らか?あいつら毎日側にいるからって一気に距離詰めやがって……」

 リカルドが最近悶々としている。思春期ってやつだね。親友よ!いっぱい悩んでいい男になってくれ!





 ◇◇◇




「ナイン、久しぶり!」

 私は前回先輩に支給された漆黒のフード付きマントを羽織り、待ち合わせ場所である首都近くの街道沿いの宿屋の一室にやってきた。先輩方三人は既に在室だった。

「遅くなり申し訳ありません!」

「いいのよ、ナインが一番任地が遠いもの」

 リリアーナ様……シックスがそう言ってフードから覗く口元でニッコリ笑った。


「で、今日のお呼び出しの事情は?」

「盗賊討伐」

「なぜ我々が?」

「女だと攫おうと思って現れやすいらしいのよ」

「ゲスだな」

 カモミール様……エイトがかわいい声で吐き捨てる。

「ってことは今回は女であることを晒すのですね?」

 ルイーゼ様……セブンがさらりとフードを取る。


「いえ、女四人で街道を行くのも不自然よ。そこで二組のカップルにするわ。連携バッチリでしょうからセブンとエイトがカップル。そして私とナインがカップルね。ナインに男役してもらうわ。敢えてひ弱そうな男をぶら下げて、わかりやすい囮になりましょう」




 私はマントを脱げば普段着の生成りのシャツに茶色のパンツにブーツ。髪は母に切られた時よりも伸びたけど肩に付くか付かないかの長さで男性として十分通用する。リリアーナ様は作戦発案者だけにマントを脱ぐと既に町娘風の格好をしてた。まあ滲み出る育ちの良さはしょうがない。


 カモミール様はやはり超絶美少女だった。で、その美少女の執事風の格好をしたルイーゼ様。お貴族のお忍びの散策という設定でいけそう。


 お互いに服装をチェックして時間差で二組のカップルは部屋を出た。

 宿屋の周りに並ぶ商店をブラブラとウインドーショッピングして、二人きりになりたいイチャイチャカップルは徐々に人気のない街はずれに行き、狙われる算段。


 リリアーナ様が私の腕に手を絡め、あちこち指を指し楽しそうに微笑む。実は男性役6歳年下のカップルですが、そんなことは文句言わせないわよっという気概を感じる。


「シックス、こういう依頼ってどうやって来るのですか?」

「女子会の先輩ね。今回は一桁のファイブから」

 軍女子会の先輩からかあ、そりゃ私達のことバレてるわな、納得。

「ナインの今日の武具は?」

「今日は使い捨ての投げナイフです。いざという時回収できなくても身元バレないように」

「ちょっと見せて?」

「はーい!」

 私はお尻のポケットから手のひらサイズのナイフを取り出した。これをダーツのように投げるのだ。致命傷にはならないけれど、足止めには使える。

「……なにこれ……鏡よりも鮮明に写る……マニア垂涎じゃないの。しかもこの絶妙な重さ、軽いスナップで抵抗なく飛ぶわね……投げ捨て?ありえない……」


 リリアーナ様がぶつぶつと細かい数字を呟いている。

「シックス?」

「こほん、ナイン、これ一本私に売ってくれない?護身用に手首に欲しいわ」

「え、リリアーナ様が使ってくださるんですか?是非是非もらってください!大貴族お客にげっとお!」

「こら!興奮してもナンバー呼びよ!あ、ごめんなさい、ナイフの宣伝はできないわ。うちの裏部隊に使わせたいから。でも年1000本ペースで独占契約してほしい」

 侯爵家、裏部隊があんのか……それにしても売り物向きでない合金物を一括購入なんて!チューリップおばさま、フリージアやりました!


 果物店の前でレモンを片手に物騒な会話をしていると……視線の隅でカモミール様とルイーゼ様が消えた。

「シックス?」

「ふーん、路地で待ち伏せするつもりみたいね。エイトはせっかちだから」

「あんなにかわいいのに」

「ふふ、ナインもカッコいいわよ!」

 艶やかに微笑まれて……おう……大人の女性の色気に落とされそう……。


 果物とサンドイッチとお茶を買い、二人で腕を組み、街はずれの木立ちに向かう。そこでピクニックだ。

 木の幹に寄りかかり、仲良く隣にひっついて座って、

「さあシックス、アーンして」

「もう、ナインってばノリノリね!あーん!」

 バカップル万歳!


 お腹もふくれて、私はリリアーナ様……シックスのお膝に頭を乗せて一休み。

「ナインはやはり火魔法なの?」

「はい、使えなきゃ商売になりませんので。シックスは?」

「私は風。そうだ、こんど風をまといやすい片手剣をこさえてくれない?」

「魔法剣特化ですか?両刀ですか?それによって価格が変わりま……」

 リリアーナ様の手で口を塞がれた。

「来たわ!」

「なぜわかるのですか?」

「風魔法を流して音を拾うのよ」


 思った以上に侯爵家は裏稼業が盛んなようだ。まあ関係ないけどね!

 私の口元からリリアーナ様の手を外し、指先にキザに見えるようにキスをして身体を起こした。


 それと同時に四人の中年の男に取り囲まれた。私はリリアーナ様を自分の背に回す。


「おうおうにいちゃん、彼女をそれで庇ってるつもりか?彼女のほうがデカイじゃねえか!」

 それは言わない約束でしょ!

「な、なんだ君達は!僕たちに何の用だ!」

 男達がニヤニヤと笑う。

「お前には用事ねえよ。あるのは後ろのお嬢さん……あれ、でもお前も随分とかわいい顔してんな。お前はお前でババアたちに売れるかも知んねえ。いいか、怪我したくなければ大人しく……ふがっ!!!」


 私の背後から鉄砲の玉のような何かが散弾のように飛び、四人の男にボコボコに当たった!土の弾丸!土魔法で弾を作ってすぐ風で飛ばした?合体技!カッコいい!

「……私たちのかわいいかわいいニューカマーに下品なこと言ってんじゃねえぞぉ、コラア!!!ナイン!縛り上げなさい!」


「はいっ!」


 気を失った男四人纏めて木にくくりつけ終わると、カモミール様とルイーゼ様も一人ずつ男を担いでやってきた。男たちはもれなくボコボコだった。


「大漁ですね、あれ、魔法で仕留めたのですか?珍しい」

 カモミール……エイトがドサッと男を肩から落としながらそう言った。

「だって、ナインがこんなザコ相手に芸術みたいなナイフ使うっていうのよ?ありえないわ!」



 追加の二人も木にくくりつけるとルイーゼ様がどこかに伝達魔法を飛ばした。

「じゃあ今日のミッションもクリア!お疲れさん!」

「「「お疲れさんでーす」」」


 私、全く役に立たなかったよ……とほほ。





 ◇◇◇




「しょ、ショーン!」

「何?リカルド!」

「お、お前、昨日、街道沿いのアバロで、デートしてたって、聞いたぞ!」

 あ、そうか。私は変装にもなってなかったからな。

「返事しないってことはホントか⁉︎き、キスしてたって……」

「えへへ、ナイショ!」

「どういうことだ……なんで女相手……」


「リカルドー!おやすみー!」

「……寝られそうにない……」




※補足(複数の方にご指摘いただきました)


リカルドや、その他の登場人物がショーンのことをフリーザと口走ってしまうのは『有り』です。

ショーン(フリージア)が明言してますので。フリーザと呼びたいとき(剣がらみなど)はフリーザと呼びます。

読者の皆様には複数の名前で混乱させ申し訳ありません。


ちなみに、女子会ナンバーズメンバーは、


リード→リリアーナ・フォレスト侯爵令嬢→シックス

カミル→カモミール・ジョージア伯爵令嬢→エイト

ルイス→ルイーゼ(ジョージア家女従者)→セブン


面倒くさい設定ですが、よろしければ最後までお付き合い下さいm(_ _)m


それでは明日から悩み多いリカルド編。よろしくお願いします!

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