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地味バレ 5

 新隊員訓練、なんとかついていってる。

 座学は当初、軍務に関係するものはさっぱりわからなかった。宿題を丁寧に教えてくれるリカルドのお陰でなんとか赤点を取らずに済んでいる。


 逆に一般教養は貴族っておいしいの?伯爵家って……あ!うち⁉︎状態のほぼ貧乏一般人としてノーミス。

 兄からは暗算得意なのは隠せと言われてたけど、敢えて前面に押し出して全体での平均値を狙ってみた。事務寄りに配属されたいしね。


 体力は女だし歳下だし小さいし、不安だったけれど、思ったほど遅れをとっていない。鍛冶場の作業は案外基礎体力を底上げしていたみたい。まあ汗だくでハンマーを振り下ろして鉄を叩きまくってるからね。スタミナと腕力はソコソコ。

 男性でも運動苦手な人もいるし、兄の狙ったど真ん中中(どまんなかちゅう)のど真ん中を行ってると思う。


 でも武術は当然剣術以外はダメダメ。すぐにやられて倒される。

 唯一まともに戦える剣術授業のとき、何故かギャラリーが多い。それもオッサン連中。剣は軍のものでも自前でもどっちを使ってもいいのだけれど、私はもちろん自分で鍛えた剣。いろいろな形状の剣を数本持ってきたから、交代で使い勝手を試している。


 試剣なので適当に木を貼り合わせて作った鞘から抜くと、


「「「「「うおおおお!!!」」」」」


 おっさんの野太い歓声が!!!

 そうか……みんなウチの剣目当てか……

 ()()()ビンセントであることは隠してないからね。


 今日の剣はかなりの細身。何度も製作途中にポッキリ折れて苦労して作った。細くて軽くて、刺しても引いても使える剣っていう注文が神殿からあったのだ。多分女性用。ひょっとしたら聖女様用かな?今代聖女様は北の大陸のジュドール王国の騎士学校卒という異色の武闘派聖女様だ。


 対戦相手は私よりも頭一個大きい。筋肉も隆々。幅広の太刀。両手剣だ。まずは組んでみて……強度の確認だな。


「始め!」

 お互いに真っ直ぐ相手に向かって走る。正面からぶつかる。上から振り下ろされる剣を刀身を真横に倒して受け止める。


 ガンッ!


 うん、結構な負荷だったけど、歪みも軋みもない。この薄さでこの振動なら上出来だ。

 私は二の腕に力を入れて、グイっと振り払い、逆に斬りつける。受けられる。硬質な相手に刃こぼれゼロ。いい感じ!ツーステップで後退して、剣を両手で握りかえ、相手の脇に向かって突き刺しに走る!!!


 ピーーーーーーッ!!!

 教官の笛がけたたましく鳴った。

「ショーン!終わりだ!訓練でそんなスピードで突っ込むな!ったく、曲芸師みたいに軽く動くなあ、全く……」


 相手は……気がつけば目を見開いて座り込んでいた。ちゃんと寸止め予定だったよ!


 ハンカチを取り出して直に刀身に触れずに剣の具合をしげしげと確認していると、声をかけられた。


「ショーン」

「サリー中尉」

 実はちょいちょい様子を見にくれているハンサムなロン毛のお兄さんがまた、声をかけてきた。

「ちょっとこの後付き合ってくれる?」


 またお呼び出しかい……。

私は剣を鞘に戻して、すごすごついていきながら、

「ところでサリー中尉、長い軍生活の先輩として、やっぱ男、好きですか?」

「……フリージア嬢、あんまりふざけたこと言ってると……パクっと食べちゃうよ?」


振り向いたサリー中尉の顔は、確かに肉食動物だった。右手でクンっと首根っこを掴まれて持ち上げられる。そのまま手足をプラプラさせて私は運ばれた。男はオオ〜カミ〜♪ららら〜♪





 ◇◇◇




 サリー中尉にまたもや新隊員には縁のない本部の建物に連れてこられる。ドアを開けると、おっさん三人が応接セットでギュウギュウ詰めになっていて熱気ムンムン!思わず後ずさると、サリー中尉が後ろに回っていて、私の両肩を押さえニッコリと逃げ道を塞いでいた。

「「「「フリーザ!」」」」

 フリージアです!


「はーい皆様落ち着いてー!フリーザちゃんが怯えますよー、質問はお一人ずつどうぞ」

 サリー中尉が交通整理をしてくれた。


「なんなんなんなんだ!あの優雅かつ硬質な剣は!」

 ゼナンのおっちゃん。興奮しすぎて舌が回っていない。


「あれは、レイピアではないのか?」

 軍の大佐の星を肩につけた別のオッチャンが興奮気味に話す。サリー中尉がここ首都のトップのおっさんだよと教えてくれた。

「レイピアって言うのですか?わかりません。勉強不足で……」

「わからんままあれほどのものを作っただとー!」

 この新隊員学校の校長先生もいた。

「これは絶対絶対外には出せん!軍で永久保管だ〜!」

 絶叫。何故?


「いやでも、神殿からの注文で……」

「神殿!ビンセント工房ってば神殿にまで食い込んだのか!」

 いや、向こうからやってきたのか、チューリップ叔母様の営業成果かわからないけど……

「いくらだ!俺が買う!300でどうだ!頼む!我が国から出すなあ!」


 おっさん連中がぎゃあぎゃあ騒ぐのを適当に返事しながら聞いていると、唐突にバタンとドアが開いた!


「ショーン!」

「え?リカルド!」

 なぜここに?


「「「「おおっと、でんっ……!」」」」

 おでん?


 リカルドが目を逆三角にして、ゆっくりと室内を見渡す。

「一体全体どういうことですか?軍の高官揃い踏みで新隊員を呼び出して吊るし上げて!」

「いや、殿……り、リカルド君、我々は決して吊るし上げてなど……」

「こんなか弱く愛らしいフリーザをよってたかっていじめるなど高級幹部ともあろうものがっ!」

「え……か弱いか?案外図太いぞ?愛らしくはあるが……」

「鈍臭くもあるが……」

「マーズ様の娘をいじめるわけないだろ〜!」


 リカルドのお父上、ひょっとして将軍かなんかかしら?上官相手にめっちゃ強気で攻めてるんだけど?っていうか良くここまで誰にも止められず入り込めたねえ。


「ショーン、ちょっと俺はこの方たちとお話して戻るから、次の授業に行ってて」

「え、でもリカルドは?」

「俺は砲術得意だからサボってもいいの。ほら」

「う、うん。じゃあ先に行ってる」

 反論できない空気ぐらい読めました。私はチラリとサリー中尉を見ると、苦笑いしてドアを指差している。ぺこりと頭を下げて退出した。



「で、でん、……ぐはあ……」

「わ、我々はビンセント工房大好きクラブ……がはっ……」



 ドアが閉まる前に野太い悲鳴が聞こえた気がしたけど……気のせいだよね。





 ◇◇◇





「フリージアは私の恩人……私が唯一と決めた女性。いたずらに呼びつけ、煩わせることなど許さん!」

「リカルド殿下……何というか、ケンが取れましたなあ……」

「おおおっ!王子、春が来たようですな!」

「うんうん、大人になられた」

「……文句があるのか?」

「「「「滅相もない♡」」」」





 ◇◇◇




 寝る前にまたリカルドと魔力操作をする。

「そうそう、体全体に魔力を回した今の状態で、頭からシャワーを浴びたイメージしてみて!……そう!今のがクリーンだよ!」

「私は……今、浄化魔法を発動したのか?」

「さっぱりしたはずだよ?あ、でもお風呂上がりだったからわかりづらかったのかな?今度はドッロドロのギッドギドに汚れた時にトライしよう?ね!」

「はははっ、そう、そうだね!ありがとう、ショーン!」


「うん、じゃあ寝よう?リカルドおやすみー!」


「おやすみ……俺の……最愛……」

「へ?ごめん聞こえなかった」

「最高の親友って言った!いいか?」

「うわあああ、リカルド、オレを親友にしてくれるの?ありがとー!じゃ寝よー!」


 リカルドこんな手のかかる私を親友だって!いいヤツ!

 短剣のプレゼントがいい仕事したね!




 ◇◇◇




「親友などでは我慢できないが、しばらくは致し方ないか……」








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