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地味バレ 4

 オリエンテーションに戻り、入り口のドアにいた教官にサリー中尉に呼ばれていた旨を話すと、頷いて、後ろの席に座るように指示された。


 これから二カ月は新隊員全員で基礎の学力や体力、軍の常識を学ぶ教育を受けて、適性と本人の希望を踏まえ、任地に派遣されるとのこと。うーん、ついていけるかなー!でも劣等生の烙印を押されてもキズがつくのはショーンの名前だけだから、まいっか!


「ショーン!」

 講義が終わるや否やリカルドが私目掛けて険しい顔をして走ってきた。

「さっきの上官、ショーンに何の用だった?どこに連れ込まれたっ!」

 へ、気づいてたの?視野広いな。

「うん、秘密!」

「秘密って……まさか……彼氏か?」

 何その発想?それこそまさか……


「リカルド?まさかまさかサリー中尉好きなの?ひやっ!禁断の恋ぃ〜!」

「はあああ?何、何言ってんだっ!」

「あーやしーなー!ダイジョブよー!オレその辺の偏見ないしー応援するよー!」

「違う、絶対に違う!……サリー中尉……後で調べるか……」

 ムキになってますます怪しい……


 そうか……ここは男の園。黒薔薇の王国(?)そういう展開もあるのか。これはビンセント工房CS担当、従姉妹のヒヤシンス姉さんの創作活動のオカズになるかもしれん……新たな任務だ!


こげ茶のロングで優しい面立ち、年上の余裕で包み込むオーラを持つサリー中尉……(根は腹黒)

黒い短髪であまり表情を出さないクールなイケメンリカルド……(根は優しい)

これは……かっ完璧なカップリングでは⁉︎

そして、上級者の仕掛けた恋に絡め取られる初心者イケメンをハラハラ柱の陰から見守る親友(←私ココ)

おーう……アメイジング……!


もわもわもわもわ……(私の妄想百貨店が開店した音〜)


『ふふ、私の秘密の特訓にきちんと来ましたね。一人で。いい子だ』

『え?ちゅ、中尉、私は戦術の机上くんれ……あ……♡』



ゴチーン!!!私の頭頂部にリカルドのゲンコツ大ヒット! 私は堪らず頭を押さえてうずくまる。

「ううう……イイトコだったのに……」

「ショーン!その思考、絶対間違ってるから!脳みそ丸洗いしてこいっ!」

「え〜」


しょぼーん。ちーん(閉店)




◇◇◇




 座学や訓練のタイムテーブルや教室、訓練場の場所を確認していたら、あっという間に夜になった。

 リカルドが大浴場に行ったので、私は自身にクリーンをかけて、明日の準備をコソコソ行う。


 トントン。

 ドアがノックされた。リカルドはノックなんかしないし……誰だろ?指導教官?

「はーい」

 一応返事をして、急いでドアを開ける。


 そこには私とほぼ同じ大きさ、小柄で金色の前髪が長すぎて表情の伺えない兵士と、リカルドと同じくらいのデカさの緑の髪をポニーテールにした兵士が立っていた。


「ショーン・ビンセントくん?」

「はい」

「私はカミル少尉、後ろは私の部下のルイス。少し時間が欲しい。ついてこい」

 ……上官の命令は絶対であります(本日二度目)。

 私はリカルドの机に出かけてくる旨を走り書きして大人しくドナドナされた。




 ◇◇◇





 新人の兵舎を出て、比較的新しい兵舎に入る。四階の角部屋に着くとカミル少尉がノックした。

 中から鈴の音が聞こえる。少尉とルイスさんの間に立って中に入ると、もう一つドア。二重ドアとは厳重だ。


 カミル少尉が慣れた様子でそのドアも開けた。


「わあ……」

 そこは私の部屋の三倍はある広さで、白壁に水色の清潔そうなカーテンがかかり、小さなキッチンが付いていてお湯がシュンシュン沸いていた。その前に肩につく長さの真っ赤な髪を耳にかけ、軍服のボタンの前を外してくつろぐ人がお茶を淹れている。階級は……肩章からこの人も少尉。


「いらっしゃい。はじめましてショーン。座って!」

 カミルさんがソファーに促し、自分の隣に座るように指示する。私はおとなしく言う通りにすると、赤髪の少尉がお茶を目の前に出してくれた。うわあ、いい匂い!


「これアップルティーだ!」

「ショーンも好き?私も好きよ」

「大好きです。なかなかうちの領では手に入らないんです」

「よかったわ。飲んでみて?」

 勧められるまま口にする。

「美味しい……ホッとします……」

「よかった。趣味があって。ショーン、あなた女の子ね」


 ガビーン……。

 もうバレてら。



「えっと……早速退学ですかね?」

 脳裏に家族全員で荷車を押して夜逃げする姿が鮮明に浮かぶ。


「あらあら、驚かせてごめんなさい。私はリード少尉、本名はリリアーナ」

 そういうと、軍服の上着を脱ぎ、ばさりとソファーの背に投げた。そこには……あってはならない豊かなお胸が……

「少尉……え……女性ですか?」


「ふふふ、私だけじゃないわ。ほら、二人とも自己紹介しなさい?」

「私の本名はカモミール」

 隣に座っていたカミル少尉はポケットからバレッタを取り出し、それを使って前髪を上げた。そこにはキラキラの星がいっぱい入った、超大きな青い瞳があった。


「私はルイス下士官。本名はルイーゼね。よろしく」

 大きなルイーゼさんの微笑みは、確かに女の人のものだった。


「デンブレ国軍、第278回女子会にようこそ、ショーン新隊員」




 ◇◇◇




 私も改めてフリージア・ビンセントと自己紹介した。


「まさか私以外に女性の替え玉がいるとは思いませんでした」


 はははっ、とカモミール様が可愛いお顔に反して豪快に笑った。カモミール様はウチとは格の違う首都近郊のジョージア伯爵家のご令嬢だった。

「それぞれの家庭に事情があるわ。決まりきって17歳の男子を全員徴兵できるわけないのよ。フリージアはどういう経緯で?」


 私はショーン兄の怪我からの顛末を話す。

「ふーん、フリージアは兄弟が不甲斐ないから身代わりで来た口ね。私と一緒。それにしてもまだ15歳なの?くれぐれも無理しちゃダメよ?」

 リリアーナ様が優雅に微笑んだ。


「うちは弟がとにかく軟弱でね、入隊してたった1日で隊舎を抜け出して泣いて帰ってきて。義母は弟にとにかく甘くて……。で、父と話し合って、私が身代わりで行く、そして新人教育も耐えられない弟ではなく私が侯爵位を継ぐことを約束させてここに来たってわけ」


 うわー、リリアーナ様は次期侯爵様なんだ。これはビンセント工房の上得意先になってもらわないと!

「そういう訳で、実はもう21歳。もうすぐ軍役終了だから、今、優秀な婿候補を内部で見繕ってるとこよ」

 スゴイ!やることに無駄がない!


「他にどんなパターンがあるんですか?」


「私は花嫁教育なんてやりたくなくて、自分から進んで来たの。双子の兄の名前でね。兄はバイオリンの才能があって、練習を中断するわけにも手に怪我を負うわけにも行かなかったから、父も渋々了承。徴兵期間が済めば入れ替わりは元に戻るけど、まあまともなとこに嫁に行けそうにはないわね」

 カモミール様は見た目によらず、シャキシャキタイプみたい。


「そんなカモミール様にお付き合いしてやってきたのが私です。私はジョージア伯爵家に代々仕える家系でして」

 ルイーゼ様が苦笑した。


 カモミール様もルイーゼ様も18歳。軍務二年目だった。あと一年一緒!心強い!


「では、私は生かしてもらえるんですね!」

「もちろんもちろん大歓迎よ!力を合わせてここでの生活を乗り切りましょう!現在徴兵中の女性はこの四人!ではルイーゼ、持ってきて!」


「はっ!」

 ルイーゼ様は引き出しから小さな箱を取り出して、リリアーナ様に渡した。リリアーナ様はその箱を開けると小さなアクセサリー?を取り出して、ちょいちょいと私を呼び寄せる。私はすぐにリリアーナ様の元にいき、跪くとリリアーナ様は私の軍服の襟を握りピンバッチをつけた。裏返しで。


 私が首を傾げると、

「見てごらんなさい」

 お許しが出たので襟を摘んで覗く。金色のピンバッチは「19」と数字を形どっていた。

「これは?」


「フリージアは軍創立以来、19番目の女性ってこと。十の位は省略して、今後ナインと呼ばれたら自分のことだって思って!」

 カモミール様がニヤリと笑った。

 まさかのナンバー呼び!しかもナイン!カッコいいけどドンドン呼び名が増えてるな……


「ちなみに入隊順で、16、シックスがリリアーナ様、17、セブンが私、18、エイトがカモミール様よ」

 ルイーゼ様が教えてくれる。


「あの、どういう時に使うのでしょう?先輩方をナンバーとはいえ呼び捨てなどできないのですが……」

「たまにこの女子会に特別任務が下るのよ。女性のデリケートな問題が起こったときとか。その時は少しでも身元がバレないように変装するなり工夫してナンバー呼びね。徹底してちょうだい」


 なるほど。最上層部は女性隊員黙認してるんだ。しかし……

「私、特別任務を遂行できるような技術、何にも持っておりませんが……」

「ん〜でもビンセントでしょ?ビンセント工房の」

「はい」

「十分よ」


 何が?と思ったけれど、お三方がにっこり笑っていたので、質問できなかった。


「ところで、同室は誰?危険な男なら庶務の私が何とかしてあげるわよ?」

 カモミール様が可愛く首を傾けて聞いてくれた。


「同室はリカルドって名前のとってもいい奴です。だから大丈夫!」

「リカルド?」

「ひょっとして……」

「……はい、リストにあります。ピオーネという偽名ですが」

 三人がコソコソと顔を寄せ合って話す。この場面、さっきもあったような?


「あの、リカルドって有名人なのですか?」


「ま、まあね、知る人ぞ知るっていうか……」

「ほとんど知ってるっていうか……」

「ビンセント家は刀剣以外の世事に疎いとは聞いてたけどここまでとは……」


 だって世事を仕入れる暇があれば剣とフライパンこさえてないと、生きていけないもん……。





 ナインという名前が増えた私は先輩方に挨拶をして、自室に戻った。


「ショーン!!!心配したぞ!どこに行ってた?なんて名前の先輩に呼び出されたんだ!」

 実の母より心配症のオカンリカルド。キツめの顔つきなのに、あったかいな!

「えっと……内緒です」

「また内緒?ひょっとしてフリーザとばれて……無理な注文でも受けているのか?なんてことだ……」


 アクビをしながらリカルドと手を繋ぎ、魔力操作を手伝う。だいぶ慣れたみたい。


「うん、いい感じに循環してる。ふぁああ、リカルド、眠い!灯り、消していい?」

「あ、ああ。おやすみショーン」

「おやすみー!また明日ー!」





 ◇◇◇




「ショーン……もっと私を頼ってくれ……」





「転生令嬢は冒険者を志す 2」書影出ました!皆さま是非見てください!活動報告から飛べます!

ということで、嬉しくて前倒し投稿。わっしょい!

次回は25日予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ショーン……もっと私を頼ってくれ……」 うん!無理!(満面の笑みで) ですよねーみなさーん! ピア「……」 クロエ「……」 セレ「……」
[良い点] 楽しすぎます。!
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