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地味バレ 3

 ……どうやら大きな認識の相違があるようだ。


 私はリカルドの握りしめた拳を手にとって、ギュッと繋いだ。

「お、おい、なんだよ、同情なんか……え……?」


 あった!綺麗な、森の息吹のような魔力発見!


「……ショーン、何してるんだ」

 勢いをなくした、戸惑った声でリカルドが問う。


「オレの魔力、流してる。リカルドの魔力見つけた!」

「どういう……ことだ?」

「オレの魔力わかる?よくアニキからはラムネみたいだって言われてるんだけど?」

「……なんというか……スッキリした爽やかな風が……私の中を巡ってる……おい!おまえ、魔力の譲渡の意味わか……」

「それそれ!私の魔力を呼び水にしてリカルドのを引っ張りだすよーせーの!」

「あ……」

「来たね、それをね、まず足のつま先に流すように意識して……目を閉じるといいかも……そうそう!次は心臓に戻すイメージ……ウンウン、次、私と繋いでる手に流して……はい来たーあ!イエス!OK!」


 私は右手から入ったリカルドの魔力をぐるっと体内で回して左手からリカルドに戻した。


「いっちょあがり〜!」

 私は呆然としているリカルドに無理矢理ハイタッチした。


「……どういうことなんだ?」

「ん?今の魔力操作を反復したら、そこそこ魔法使えるようになるよ?」

「違う!!!私は魔力、なし、なんだ!」


 ああ、そこかあ。

「あのね、うちの鉱山によくS級冒険者のニックさんが素材探しにくるんだけど」

 ここは権威のある人の出番。でなければ説得力に欠ける。


「Sで、ニック?もしや『トランドルの後片付け係』か!」

 ああ、悲しき二つ名よ!


「あーニック兄さん落ち込むからそう呼ぶのやめてあげて?

 ニック兄さんはたくさんの精霊にたかられて……うおっほん、愛されてて、なんと鉱物の精霊も見えるすごい人なんだから!うちの鉱山気に入ってくれてて、その縁でうちのアドバイザーをしてもらってるの。めっちゃ強いけど優しいんだ。で、ニック兄さんが言うには、魔力ゼロってなかなかいないんだって。石版の基準値に達してないだけで、多少は誰でも持ってるの。で、うちの家族は家業が魔法必須だからニック兄さんに引っ張りだしてもらった。で、今ではうちの家族が領民全員にそうしてる。今みたいにね。リカルドの魔力、穏やかだねえ」


 リカルドは呆然と、私の手を離した自分の両手を見つめて、

「私も……魔法を使えるようになるのか?」

「賢者ラルーザ様のようになるわけないけど、魔力操作をまじめに繰り返せば、中級魔法までは使えるようになるんじゃないかな?オレよりも量は多いし」


「はは、はははっ……そっか……ショーン、教えてくれるか?」

「浄化と火なら教えるよ?でもリカルドは剣士でしょ?じゃあニック兄さんタイプだよね。ニック兄さんのスピードと身体強化をマスターした方が実用的かな。うちのトリガー兄が覚えてるから今度の首都に来た時に教えてもらえるか聞いとくよ!」


 リカルドの金の瞳から、不意に涙が零れた。

「リ、リカルド⁉︎」

「……いや、何でもない!ホコリが目に入っただけだ。ありがとうショーン……ありがとう!」


 リカルドはサッとタオルと着替えを掴み、片手で顔を覆い、ドアをバタンと開けて風呂に走っていってしまった。決まった入浴時間をかなり押してしまったみたい。リカルドごめんね。




 風呂から戻ったリカルドは妙にさっぱりした顔をしていた。そんなに気持ちいいお風呂なのかな、いいなあ。


 二人で食堂に行き、初めてのミリメシは牛が食べる量で半分以上残してギブアップすると、リカルドが笑って残りを全部食べてくれた。二人で部屋に戻り、手を繋いで今後日課となる魔力操作をし、明日に備えて寝た。

「リカルドお休みー!」

 いよいよ明日から軍人だ!頑張るぞー!おー!







「ショーン……私の……救いの天使……」

 夢の中で、そっと毛布を胸まで引き上げてもらったのを感じた。


「あれ?……まさか……嘘だろう?……」




 ◇◇◇




 おっはよーございまーす。


 私の軍隊生活、なかなか好調な滑り出しとなった。水が合わず体調を崩す、といったこともなく、同室のリカルドとの仲も良好!必需品を揃えるのを手伝ってくれたり、よくわからない軍事教本を噛み砕いて説明してくれたり。

食堂に行く時も田舎ものの私を気遣って、必ず一緒に行ってくれて、混雑していてもカッチリ二人分席を見つけてくる!すごい!神通力!〈シリウス〉のお礼を律儀にこなしてくれるリカルドのお陰で随分とここでの生活の不安が消えた。いいやつリカルド!


 でも、そのリカルドへの注目度が半端ないんだよね。どこに行ってもチラチラ見られてる。何故かあまり気持ちの良くない視線。リカルドは1ミリも表情を動かさないけれど、私がだんだん腹が立ってきて、ムキーっと威嚇すると、

「くくくっ……いいんだよ、ほっとけば。ありがとう、ショーン。君さえ誤解してなければ十分だ」

 リカルドはそう言って私の頭をポンポンと叩く。身長差によるこの子供扱いは納得できない!


 で、いよいよ本日より新隊員の訓練開始。初めて砂色の質素な軍服に袖を通し、黒い太めのベルトを締め、黒の長靴(ちょうか)をはき、二人仲良く集合時間にグラウンドに行くが、ここからは背の順で整列だった。グッバイリカルド……。

 私はやはり今期入隊の中で一番小さく先頭で手を後ろに組んで立つ。全員が自分の配置を把握したところで入隊式が始まった。


 来賓トップは胸にジャラジャラと勲章をつけたナンチャラ将軍だった。でもどっかで見たことある……この眩しく光る頭にアゴひげ……ああ、うちの上得意のゼナンのおっちゃんじゃん!チョー真面目で、お母様のこさえた龍臣剣がチョットでも刃こぼれすると夜駆けでやってくるんだよねー!祝辞中のオッチャンをまじまじ観察していたら、目があった。


「……で、あるからして、諸君らの今後の訓練次第で〜ぇえええ!?………おほん。二ヶ月の訓練の後、逞しくなった諸君らと再び会うのを楽しみにしている。以上!」


「気をつけ〜礼!!!」

 バッチリ敬礼決まったー!



 新隊員の流れに乗って、次のスケジュールであるオリエンテーションに向かっていると、ストレートのキューティクル輝くこげ茶の長い髪を後ろで一つに結んでいる、ひと世代上の軍人さんに肩を叩かれた。

「はい?」

「君、ちょっとついてきてくれる?」

「え、でも……」

 皆講堂に向かっている。

「新隊員への説明くらい私が個別にするよ。時間がないんだ。急いで!」

 ハイ!軍人は上官の命令は絶対でありまっす!




「フリーザちゃん!なんで!」

 豪奢な応接室にゼナンのオッチャンがいた。

「フリージアです!」

「フリージアちゃん!こんなところで何をしてる!君がここにいては名作がこの世に生み出されないじゃないかっ!」

 そこなの?女子なのに入隊することへの心配ではなく?ちくしょー!


「実はカクカクシカジカ……」

「ショーンめっ!!!」

 オッチャンの目が逆三角形になった。ショーン兄、覚悟せよ!

「まさか、徴兵のためにあのご母堂譲りの豊かな髪を切ったのか?」


「はい、母にバッサリやられました。だってビンセント領がお取り潰しになって、鍛治ができなくなったらどうします?」

「暗い死す!間違った!クライシス!」

 アホだ。


「では私がここにいること黙っててくれませんか?」

「ぐぬぬ……」


 ここはもう一声だね。

「ここにいる間は無償で龍臣剣と、短剣墨南の手入れ請け負いますけど?」

「くそーやむを得ない。領を潰すわけには……」

 オッチャン、にやけてるぞ?あまりの上官のチョロさに隣に立つ部下のにーちゃんが呆れている。


 オッチャンは、新隊員の訓練の後は鍛治もできるように内勤に近いポストを用意しておくと約束してくれた。

「しかし、フリージアちゃん。刀の打ち直しや手入れの件は口外しないほうがいい。ココはそういうのに目のないヤツの溜まり場だ」

 そう言われればそうだ。


「あ、でも同室の子にフリーザってことバラしちゃいました」

「バカモン!早急に口止めしなさい!」

「んー、でも短剣一振り上げたから大丈夫じゃないかしら?」

「はあ?フリーザの短剣くれてやっただとー!フリーザの刀の価値わかってんのか?短剣で150万ゴールドはするぞ?分不相応なものを若いのが持てば、絶対身をもち崩す。一旦取り上げねばマズイ。その者の名は?」


 一旦あげたのを取り返すって、けち臭くてやだな。

「リカルド。黒髪でキレイな金色の眼なんだよ?身のこなしから多分貴族だから売り払ったりはしな……」

「で、殿下ぁーーーー!」

「でん?何、リカルドのミドルネームですか?」

「でん、でん、伝令なんかあ〜フリージアちゃんにあってるかもしれないねっ!」


「はあ?」


 オッチャンが部下さんを手招きで近くに呼ぶ。

「ヒソヒソ……おい、殿下は96年の春生まれか?」

「……はい、ああリストにあります。ピオーネという偽名で」

「なんと……いやしかし徴兵は平等……他の狼よりも殿下のほうがフリーザちゃん安心か」

「どうでしょう?殿下は最近かなり荒んだ生活を送っているという噂が……」



「ゼナン将軍!何内緒話してんの?用事なければ私、戻りまーす?」

「ああ、ごめん。えーんー……何かあったら私に遠慮なく連絡すること。サリー?」

 サリーさん?がにっこり笑って将軍の名刺と自分の名刺を数枚くれた。肩章のこの星マークはえっと……。


「よろしくね、フリージア嬢。この名刺があれば数日中にはどちらかに繋ぎがとれるから」

「ん?多分何にもないと思いますが……サリー中尉?よろしくお願いします」

「ん、正解。将軍、いい子ですねえ。フリージア嬢何才?」

「15です!」

「うわぁ10才以上年下かあ……残念」

「サリー!ビンセント工房愛好会に殺されたいのか⁉︎」

「?」


 まあまあの成果をゲットして、私は退出し、オリエンテーションに走った。







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[一言] いやあの…… 先生の作品のヒロイン、読んだ限り誰もかれも天然スギィ!
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