地味バレ 2
首都ルストに着き、新人教育を受ける軍基地に赴いて受付に行くと、名前と出身地を名簿で照合された。手続きはそれだけだった。
今期入隊のスタート日は来週で、到着順に部屋割りされた。
私はアーサーを厩舎にお願いし、少ない荷物を背負って指定された三階の部屋に行き、トントンとノックした。
「はい」
ショーン兄よりうんと落ち着いた声がした。そっとドアを開けた。
「こんにちはー!」
そう言って入った部屋の中には兄より一回り大きいガッチリとした男の子……もとい男性がいた。
短い黒髪に鋭い金眼、野生のヒョウみたい。私と頭一つ以上違う!みんなこんなデカイの?ガーン!袖をまくった腕からは数カ所傷がのぞいている。すごい同級生がいたものだ!(私はホントは15歳だけど)
ベッドは二段ベッドがひと組、つまり彼と二人部屋だ。
「はじめまして、ショーン・ビンセントです。ショーンって呼んで」
ニカッと笑った。正式な配属が決まるまでずっと一緒なのだ。仲良くなりたい。
「わた……俺はリカルド……ピオーネ。……リカルドでいい。ビンセントって鉱山の?」
「えー小さな鉱山ならありますが……よくご存知ですね」
「ああ。知ってる人がショーンのとこの剣のファンでさ」
「マジ!嬉しい!使い心地、聞いといてください!」
「なんて言ってたかな……ビンセントにはたくさん名工がいるけれど、最近ではフリーザの太刀がスゴイって。いつかは俺も使ってみたい。そう簡単に叶わぬ夢だけど」
リカルドはそう言って口を尖らせた。
え、うそ?私の?ってか、私、そっちでもフリーザで売り出してんの?おかーさーん!
私はゴソゴソとカバンをあさり、彼の腕のリーチをチラ見して、短剣を取り出した。
「これ、どうぞ、お近づきの印です」
「へ?」
彼は両手で受け取ると、そっと鞘から抜いた。白く輝く刀身に眼を輝かせ……息を呑んだ。
「Fの銘……フリーザ作!!!!」
私的にはフリージアのFなんですけど〜。
「オレがフリーザです。ビックリした?ビックリした?イエイ!大事に使ってね!ここにいるうちは刃こぼれしたらオレが研ぐからね!安心して訓練で使ってみて?オレもデータ欲しいし。ああでもリカルドは短剣タイプじゃないかな?」
剣をいろんな角度で真剣に吟味していたリカルドが大慌てする。
「使う!使うさ!嘘だろう……あ、ありがとうショーン!でもこんな希少で高価なもの……滅多に手に入らないのに……市場価格は少なく見積もっても100万越えだぞ?俺には……何も返せないぞ?」
お母様……いや、営業はチューリップ叔母様か。上手い商売してるなあ。
「いいっていいって!」
クズ鉱石で作ったやつだから。私はニヤッと笑った。
「良くない!君は現代の名工なんだぞ!なんだって君が徴兵など……いや徴兵は平等。だからこそ私もここにいるわけで……」
リカルドが頭をガシガシと掻く。
あーリカルドは借りがあると上手く付き合えないタイプなんだ。じゃあ、
「じゃあさ、もうわかったと思うけど、オレ、剣を作るほうで使うほうじゃないの。つまり弱いんだ。それに田舎者だから、都会の常識よく知らないし。色々とここでの生活で困ったとき助けてくれよ?」
リカルドが金の目を見開いた。
「そんなことでいいのか……なんて無欲な……わかった。ショーンのピンチは私が助けると誓う。必ずだ。まさか入隊早々斬鉄剣のフリーザと知り合えるとは……思い悩んだが、ふふふ、来てよかったな……」
斬鉄剣???そんなの鍛えたっけ?リカルド一人称が私になってる。さてはいいとこのおぼっちゃまだな!まあでも軍では建前上平等だし、素性を聞くとメンドくさそうだから聞かないもんねー!世の中知らないからこそ赦されることがいっぱいあるのだ!
「この剣の号は何ていうの?」
ないよ、そんなもん。
「リカルドが決めて?そもそも剣の善し悪しは使い手次第だよ?」
リカルドは抜き身を窓から刺す光に当てる。
「そうか……青く白く美しく光るから、いずれシリウスと呼ぶよ。私がこの剣で活躍し、次代に受け継ぐ時に」
いやー次代って……クズ鉱石だから十年ぐらいしか持たないと思うけどなー!
後に「雪剣シリウス」は国宝になる。人を切るのではなく結ぶ、友情の剣、頑なな心を溶かす剣として語り継がれる……ってそんなこと知るかっ!
デカイリカルドが上の段だと天井に頭をぶつける、ということで、私のスペースは二段ベッドの上、リカルドが下になった。備え付けの棚に荷物を片付ける。
「よし、じゃあショーン、風呂に行こうぜ!」
お風呂に誘われるのは友情の証。背中を流しあって仲を深めるのだ!行きたい!行きたいけどこればっかりは無理だ……。
「あーー、ごめん、オレ、他人と一緒に風呂は無理なんだ。オレに構わず行ってくれ」
「それって、身体に……キズとか火傷?」
えっと、おっぱいだけど……似たようなもんか。確かに火傷跡はチラホラあるしね。私は苦笑いでごまかした。リカルドが私を痛ましい顔をして見つめる。
「刀鍛冶だもんな……生傷絶えないってことか……民の生活はかくも過酷なのか……」
「え、誤解誤解!そこまで過酷じゃないよ?」
そもそも剣にできる良質な鉄鉱石が採れることなど滅多にない。普段はクワやらフライパンを作ってるのだ。
「私と同い年なのに、おくゆかしいな。でも、大風呂ダメならどうするんだ?」
「ああ、浄化魔法で済ませるから大丈夫」
リカルドが目を見張った。
「ショーンは魔法、使えるのか?」
「浄化と火は職業柄使えるよ?」
鍛冶場にいれば1時間で身体はドロドロのダクダクだ。そこで働く女たちは休憩のたびにクリーンをかけないとやってられない!ビンセントの民は物心つくや否や覚える魔法だ。
「…………」
あ、一瞬でリカルドに壁を作られた。ヤバイ!せっかく打ち解けたのに!そんな壁!ぶち壊せ!!!
「リカルド、魔法苦手なの?」
「……なしだ」
「ん?」
「〈魔力なし〉だ!」
リカルドが顔を赤くし、睨みつけた。ああ、あの石版テストか!
「あれねー!オレも〈魔力なし〉だよ!」
「ふざけるな!〈魔力なし〉で浄化魔法使えるか!バカにしてるのか!!!」




