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地味バレ 17

 皇帝陛下からいただいたお金と聖獣様からいただいた鉄鉱石は直接ビンセント領に送られることになった。

 私はカマキリの伝達魔法をトリガー兄に送る。謎鉱物を楽しみに待っている家族にだけは真実を話すことを許していただいた。


 そして霊山ベルーガの……霊鳥様の種火は私の徴兵が終わり、ビンセント領に戻った時に、恐れ多くも霊鳥様が運んでくださるそうだ。



 ◇◇◇




 私とリカルドは、精神的にただただ疲れ果て、宿に到着するやベッドに倒れこんだ。


「ショーン……先に風呂入ってこい」

「うん……ありがとう」


 浄化魔法で済ませようかとも思ったけれど、湯船に入ったほうが気分転換になるかもしれない。


 浴室に入ると、すでに湯が張られ、真っ赤な南国の花が浮かべられ、優しい香りに包まれていた。マルシュのヤマダさんが取ってくださったこの宿、案外高級だったみたい。


 私は手早く身体を洗い、そっとお湯に入る。肩までじっくり浸かると鼻先に花がゆらゆらと泳ぐ。一輪掴んでクルクルまわす。


「疲れた……」

 世界の覇者と相対するのは、私の神経を限界まで緊張させた。

 まさか、霊山ベルーガの主人である霊鳥様をこの目で見られるとは……言葉にできない体験だった。リカルドが一緒でなかったら、夢だったと思うところだ。


 ギレン陛下は恐ろしかったけれど、知的で冷静で、公平で、かっこよかった。大人の男だ。

 他所の小娘の私を丁寧に正しい発音で「フリージア」と呼んでくれた。感動だ。


「あ……」

 そうだった。偽名バレたんだ。

 そもそも、ガレの皇帝に偽名で会うつもりだった自分の迂闊さ、能天気さに己を殴りたくなる。

 殺されても文句言えなかった。


『フリージア、納得できない?』

 脳内でリカルドの声も再生された。


 ああ、リカルドも私の正体に気がついてたんだ……女だって。

 そしてリカルドは……まさかの自国、デンブレの王子。

本来ならば、一生目通りなど叶わない、雲の上の人。


「ははは……」


 リカルドが王子だから、マルシュに入れ、サカキ首相にまで会えた。

 リカルドが王子だから、まさかのガレの皇宮に招かれ、殿上人と会えたのだ。


 私ってば、おめでたいにも程がある。

 私一人何も知らない、守られるだけの()()()だったのだ。


 謎鉱物問題は解決した。


 でも、替え玉で、軍に入隊した。性別まで偽った。それが王子、つまり国にバレた。王子を王子とも思わず不敬な態度を取り続けた。

「これって詰んでない?」

 ビンセントの爵位剥奪?お取り潰し?全て私のせいだ。


「お父様、お母様、トリガー兄、ショーン兄、ごめんなさい……」


 お湯に潜って泣いた。





 ◇◇◇




 突然両脇を掴まれ、お湯の中から引っ張り上げられた。


「ショーンッ!!!大丈夫か!おい!目を開けて!しっかりしろ!」


 リカルドの腕に抱き込まれ、頰をバチバチ叩かれる。


「ま、待って、痛い!ダイジョブ、大丈夫だから」

「ああ、もうっ!心配になってきてみれば溺れてるし!ショーン!自分で思ってる以上に疲れてるんだ。ほら!上がるぞ!」


 私を持ち上げたため、リカルドは一気にお湯を被った。

「リカルド、服濡れちゃった!」

 リカルドは自然に生活魔法をかけ、自分の衣類を乾かした。努力家だから魔力が少なくて済む魔法をどんどん会得していっている。


「ショーンも風邪ひくぞ!ほら!…………あ」

 リカルドが私の身体も乾燥させた。そして、私が裸であることに気がついた。


「ごっ、ごめん!」

 リカルドは私にバスローブを投げて慌てて出ていった。

 もう、どうすればいいのかわからない。

 私は涙を飲み込んで、バスローブに袖を通し、うつむいて静かに浴室を出た。


 私を視界に入れるや否や、リカルドは立ち上がり、

「ご、ごめん!わざと見たわけじゃないんだ!許して!」


 ああ、男同士であったなら、何でもないことに、リカルドの頭を下げさせている。

 全て私が悪い。


「リカルド、いえ、リカルド王子、頭を上げてください。私こそ……」

「王子なんか言うな!私は、いや俺は、ショーン……君の親友だろう?」

「親友の資格があるとは思えません。私はあなた様に嘘をついた」

「やむをえなかったって聞いてる。それに私も偽っていた」

「殿下は何一つ偽っていらっしゃらない。お姿も、名も変えていらっしゃらない」

「だが、立場を伝えなかった」

「徴兵は何人も平等。殿下が立場をおっしゃらず、皆と同じ立場でいらしたことは、美徳でしかありません」

「違う、私は君にただの一人の男として……」

「それに引き換え私は、名も性別も年齢も全て嘘。明確に軍規違反」

「ショーン!」

「然るべき罰を受ける覚悟です。ですが、もし少しでも温情がありますならば、処罰、私だけに留めてくださいませんでしょうか?両親が投獄されましたら領民が生きていけません。どうか、どうかお願いいたします」


 私は迷わず土下座した。


「フリージア!!!」

 その声と同時に、私は膝をついたリカルドに身体を起こされ抱き込まれていた。



「王子……」

「リカルド、だ。フリージアにだけは名前で呼んでほしい。実際成人したらすぐにワグナーに養子に入る」


「いつから……フリージアと……」

「あの刀バカの叔父に、ビンセント工房の話は耳にタコができるくらい聞いていた。フリージアからシリウスをもらった夜、ビンセント工房は男子禁制だって思い出して……男にしては小さくてかわいいし……気がついた」

 初日からバレてたのか……


「名前はしばらくして、ゼナン将軍に教えてもらった。フリージア、花屋に行ったら、黄色い、小さな、元気の出る花だった。熱心に見てたら店員が花言葉を教えてくれた。「無邪気」と「友情」。フリージアにピッタリだと思った」

 いつのまにか震えていた私の背を、リカルドがゆっくり摩る。


「軍のスリートップの一人であるゼナン将軍に話を通してるんだ。フリージア、大丈夫。咎められたりしない」



「ですが……女とバレた以上、軍にいることはできません。徴兵の任をビンセントは担わなかったことになります。そうすればやはり処罰……」

「……このままでいい。このまま任期満了まで頑張れ」

「王子はイヤでしょう?こんな、女と同室なんて。はっ!私何やってるの?女と同室だったなどと知れれば王子に傷がつく!わ、私、戻り次第すぐに出て行きます!」


 大切なリカルドの経歴に傷をつけるなんて耐えられない!もう手遅れだったらどうしよう……


 リカルドの私に回した手にもっと力が入る。体が前に倒れ、全身リカルドに預ける格好になった。

「フリージアにとっては、女であることがバレたこと、大ごとだと思う。でもすまない。私やゼナン将軍にとってはとっくにカタのついた話なんだ。これまで通りでいいんだよ」


 私は首を横に降る。そんな簡単に行くわけない。


「これまで通り、一緒にバディとして軍務をこなそう。そもそもフリージア以外の奴は〈魔力なし〉王子の私を腫れ物扱いで、同室になどなってくれないだろうね。私を騙してて悪かったと思うなら、私のそばで罪滅ぼししてくれ」

「私に出来ることなど何も……」

「それに、フリージアが軍を辞めたら、私も同室者として連帯責任を取らされるだろうね。バディは一心同体だから」

「そんな言い方……ずるい」

「私はワグナーの男だからね。勝ち取るためにはずるい手も使うよ」


 リカルドの胸からノロノロと顔を上げ、瞳を合わせる。美しい金の瞳に刺し抜かれる。


「何を……勝ち取るの?」

 私がこさえて持参している、残り数本の剣?


「ショーンが出て行くのを諦めさせ、フリージアを手に入れる」

「……え?」

「ショーン、フリーザ、フリージア。どの君も全て好きだ。君なしでは、もう生きていけない」







明日でラストです。

是非お付き合いください。

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