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地味バレ 16

 皇帝陛下は、白いシャツに黒のパンツという比較的ラフなお姿で、白いモフモフのついた緋色のマントも宝石ギラギラの王冠も被っていなかった。それでも、このお方が皇帝だと一目でわかった。唯一無二の覇気?とでも言えばいいのか?側に近づけば、ビリビリと痺れる予感がする。

 もう即位して10年以上のはずだから30代〜40代と思うけど、若い!魔力が多いと見た目歳をとりにくいって都市伝説、嘘じゃなかったみたい。


「改めまして、私がデンブレ国第三王子リカルド、そして隣は我が国ビンセント領のフリージア伯爵令嬢です。この度はお忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございます」


「挨拶はこれ以上必要ない。時間の無駄だ。楽にしてくれ。話はサカキから聞いているし、トランドルのニックからも連絡を受けている」

 決して大きな声ではないのに、低い静かな声が胸に響く。やがて言葉の意味を理解して、俯いたまま眼を見張る!ニック兄さんとも繋がってるの?世界の上層部って、独自のネットワークがあるんだ……。


「あの、私、家業で鍛治を営んでおりまして、これ、つまらないものですがお土産です」

 私はとりあえず、今日のためにこしらえた片手剣を差し出す。


 陛下の副官?がニコニコ笑って中腰になりそれを受け取り、陛下の元に運ぶ。


「……どうだ?アーサー?」

「陛下、軽いです。早く抜いてください!久々のビンセント工房の刀剣です!ワクワクしますね」


 この頭の良さそうな金髪のお兄さん、アーサーって言うんだ。

 ……あら?確か私の愛馬アーサー、ガレの風魔法使いの武人に剣の代金として貰い受けて、そのお客の名前をもらってつけたって……女の子なのにおかしいと文句つけたら、チューリップ叔母にそう説明されたからよく覚えてる。

 ひょっとして、この赤い目をキラキラさせてるお方なのか?うちの信者がこんな遠くにも!


「……お前も刀バカだったか」


 私の剣が陛下の手に渡る。あ、陛下は左きき?しくじった。ワグナー公爵様に聞けばわかっただろうに。

 陛下は気にする様子もなく、右手で鞘を抜く。


「ふーん、赤いな」

「はい、銅を多めに配分しています。あの、申し訳ありません!右手剣です!」


「仕様が違うのか?珍しい」

 座ったまま、シュンっと剣を振る。パチっと火花が散る。陛下が火魔法を流したのだろうか?

「……感動です!アス様の尾羽の一色と同じ光!」


 副官のアーサー様が目を潤ませ、どこか玉座の奥を見やった。

 すると陛下がアゴで何かに指図し……右肩に向かって何か呟いた。


「火魔法を纏わせると威力を上げるらしいぞ?素晴らしい手土産、ありがとう。遠慮なく頂くとしよう。私にしたらこの軽さは物足りんが、我が妃が喜ぶだろうな」

 陛下がフッと口元を緩めた。意外だ。氷の陛下はこんなに優しいお顔もされるのだ。人の噂なんてあてにならない。


 陛下が剣を鞘に戻し、アーサー様に丁寧に渡す。

「では本題だ。その鉱物を見せてくれ」


 私はこくんと頷くとそっと例の鉱物を取り出して、覆いの布を剥がし、再びアーサー様に手渡した。

 相変わらず、鈍く青く光っている。


 アーサー様が真っ直ぐに、陛下に持っていき手渡す。


 陛下は一目見るなり、小さくはぁと息を吐かれた。どういうこと?

「ラルーザの言っていた通りだな……」

 ラルーザって……賢者ラルーザ⁉︎


 陛下は組んでいた脚を下ろし、私の瞳を真正面から見据えた。


「フリージア、申し訳ないが、これをその方に返すことは出来ない」


 …………は?

「ど、どういうことでしょうか?……あっ!まさか毒でも含まれていたってことでしょうか?」

「毒……そうだな。当たらずとも遠からず。理不尽なことを申し出ているのはわかっている。フリージアとリカルド殿下の言い値で買い取ろう」


 私は……お金が欲しいわけではない。ただ、その鉱物を鍛えて、剣に仕立てたいだけ。

「こ、困ります!それはスゴイ剣が作れるんです。直感なのです!こんな出会い二度とないって。お金とかじゃないんです!」


 リカルドが慌てる!

「フリージア!黙って!陛下、無礼な物言い申し訳ありません!この者はただ刀剣に命をかけておりますゆえ……どうか、ご容赦ください」


 リカルドが私の前に出て、床に頭をこすりつける。

 ……私、世界の覇者に口答えなんて、何やっちゃったの!思わず涙を浮かべてリカルドと同様に土下座した。


「……気にするな。頭を上げなさい。敵でなし、一途で向上心のある若者をいじめる趣味はない。自分のものを他人が取り上げようとしているのだ。真っ当な反応だろう」


 陛下がふいに私たちから視線を外し、呟いた。

「そうだな……出るのか?ふん、好きにしろ」


 突如、陛下の右肩から光線が発せられ、目が眩む!

 恐る恐るまぶたを開けると……陛下の肩に……この世にいてはいけないモノ……〈神〉がいた。


 うちの炉の色とりどりの炎の色が全て具現化されている燃えるような羽の鳳。母のこしらえた洗練された刃のような、銀の瞳。

 神殿の南のステンドグラスから私たちを見守ってくださる……炎の聖獣。


「もしや……ガレの霊鳥、南の四天様であらせられますか?」

 リカルドの声が上擦る。


「お二人ともラッキーでしたね。アス様は普通魔力の未熟なものには姿を見せません。アス様のご厚情に感謝なされませ」

 アーサー様が目を輝かせながらそうおっしゃる。

 何をどうすれば良いかもわからない。感謝?どう態度で表せというの?


 陛下は何か、四天様と話されて、

「アスの言をそのまま伝える……この鉱物の名は〈オリハルコン〉。本来人の目に触れてはならぬもの。人の手にあっては世界が崩壊するおそれのあるもの。故に月の女神が管理する。その方らに否やはない。女神の決定事項」


「……これが姫……いや、我らの皇妃を死の淵に彷徨わせた〈オリハルコン〉……」

 アーサー様が先程までの優しげな雰囲気から一転し、険しい表情になり眉を寄せた。



 〈オリハルコン〉? 知らない。そんな、大層なものだったの?どうしよう……。


「ふ、そう肩を落とすな。……ああアス、可愛らしいな、確かに。似てるか?

 ……フリージア、お前の腕前、アスが褒めている。その情熱を気に入ったそうだ。そもそもガレに来たのは霊山ベルーガの種火が欲しかったのだったな。〈オリハルコン〉に比べれば、無に等しいが、アスがお前の家の炉に分身の炎を分け与えるそうだ。そしてベルーガの鉄鉱石を……200kgつける。それで手を打つようにと言っている。どうだ?とまあ、呑んでもらうほかないのだが。もちろんここでの話は他言無用だ」



 世界の各所に聖域と呼ばれる場所がある。過酷な土地であったり、豊潤な土地であったり様々だが、その地を荒らしてはいけないというのがこの世界の理。ただ敬うのみ。

 もしその地を汚し、金目のものを持ち去りでもしようものなら……天罰が下る。

 それは決しておとぎ話ではない。今代の聖女様が、天罰を下すのを見た人間はゴロゴロいるのだ。


 故に、霊山ベルーガが地形的に鉱物の宝庫だと、明らかにわかっているのに誰も採掘しない。

 まあガレの霊山に手を出せば、天罰の前にこの世から消えることになるだろうけど……


「神様の鉄……」

 おそらくこの世で最も純度が高い、金よりプラチナより希少なもの……それを200kg?

 私はリカルドの上着の裾をギュっと掴む。するとリカルドの手が私の手を迎えに来て握ってくれた。


「それと、うちの聖獣のワガママの詫びとして、私から1億ゴールド出す。このあたりで手を打ってくれないか?」



 ……意味がわからない。ビンセント鉱山から採れた。子供の頭ほどの石。それが大変重要なものであることは理解した。何せ聖獣様が姿を現わすほどだもの。

 でも、それでもやはりうちの山で取れた、石っころなのだ。例え私が剣にしたとしても、300万ゴールドってとこ?

 1億なんて……うちの領民全てが数年食うに困らない金額だ。

 これは、現実なの?


「フリージア、納得できない?」

 リカルドが声をかけてくれた。


「違う、あの石を持ってちゃダメだってもうわかった。でもどうしていいかわからない!そんな大金……こんなことって……そこまでしていただく意味あるの?」

「フリージア、四天の聖獣様は過ちを犯さない。聖獣様とともに在られる陛下もそうだ」

 リカルドが繋いだ手をぎゅっと握り、私に頷いた。


「南の聖獣様と、陛下の仰せの通りに」

 私は恐る恐る了承した。




『ふふ、男のなりをして、狼狽える姿。少女の頃のセレを彷彿とさせる。懐かしい……つい甘やかしたくなるな』

「……今もさして変わらんだろ」

『そろそろトランドルより戻る頃か?エルザも相変わらず人使いが荒い。そろそろセレの夕食が恋しい』





「あ、あの、聖獣様は何と?」

「……今後もますますベルーガの火をもって、刀鍛治を精進しろ、応援している、だな」

 陛下が左眉を軽く上げた。

 聖獣様が、長い首を縦に振り、微笑んで……見えた。


「ビンセント工房の次回作、アス様の鉄でできた太刀、ガレの我々も楽しみにしておりますね。では部屋を移し、書類手続きをいたしましょう」


 アーサー様が話をまとめると、陛下は四天様とともに立ち上がった。私はリカルドと一緒に跪いたまま、ただただ深く頭を下げた。

 足音が消えパタンとドアの閉まった音がして、そっと頭を上げる。


 アーサー様が私の前にきて、ハンサムな顔にニッコリ笑みを浮かべて私の手をとり、淑女にするように立ち上がらせてくれた。顔が真っ赤になったのがわかる。鼻血でそう!


「では殿下、フリーザ様、こちらへ」

「ふ、フリーザ、さま?なんで?」

 声が裏返った!


「ふふ、ビンセントの次席鍛治フリーザ様をエスコート出来るなんて身に余る光栄です。それにアス様がご自身の分身である炎と鉱物を下げ渡しました。つまりあなたはアス様より加護を授かったのですよ。あなた様はもはや我が国では尊敬の対象。国賓です」


「か、加護???」

 私は頰を引きつらせたまま、いろんな書類にサインした。







 よよよよよよーーーーし!

 が、頑張っちゃうもんねー!!!








あっちもこっちもアーサーの出番が多いのは、Tobi先生がめっちゃカッコ良くアーサーを描いてくださって、惚れ直したからです。


残り二話!お付き合いください。

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