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地味バレ 15

 小さな島々を経由して、ようやく船旅が終わり、ガレの港に入った。

 サカキ首相のアドバイスで、港の東海王者の像(なんと、白くてカワイイヘビちゃんだった!)にお花をお供えして乗ったためか?海は鏡のように凪いでいた。初めての船旅、正直怖かったので助かった。


 もう休暇は残り僅か。今回は入山許可だけいただき、実際に霊山に足を運ぶのは、次の機会になりそうだ。次にまとまった休みが取れる日はいつになるやら。徴兵終わった後になるかもしれない。まあでも、許可さえもらっておけば……つくづくリカルドに感謝だ。


 陸に降り、ガレの役人に査証とマルシュのサカキ首相からの手紙を見せると、すぐに先導され後に続く。

 港の関所を出たそこには、黒塗りの大きな、ガレの紋章の入った馬車が待ち構えていた。


「こちらにお乗りいただきます」


 私とリカルドはカチコチに固まりながら、要請に従い、いかにも特別仕様な馬車に乗り込み、リカルドの袖を掴んだまま隣り合って座った。ドアが閉められた途端、走り出した。


「り、リカルド!どういうこと?なんでこんな特別扱い?私たち貴族ではあるけど王族でもなんでもないのに!」


「あ〜……」

「絶対にこの馬車最高級だよね?だって乗り心地が違う!振動がソフト!こんなの国で見たことない!この厚遇逆に怖いよ!」

「多分……ショーンの鉱石がちょっと、いやかなり訳ありなんだろうな……」

 その言葉に、私は例の鉱物を袋ごとぎゅーっと抱きしめた。


 確かに……違う。毎日持ち運んでいるとわかる。石自体に魔力がある。波動がビンビンに身体に伝わる。それは身を切られるような清冽さ……

 この石で鍛えた剣に切れないものはないだろう。でもよほどの実力者でないと、剣に負ける。


 不意にリカルドが私の肩をグッと抱き寄せた。

「ショーン、何があっても、誰が相手でも……例えガレの皇帝陛下であっても、ショーンは私が守る!だから、そんな不安そうな顔するな」


 リカルドが眉間にシワを寄せて私の顔を覗き込む。

 ああ、心配をかけてしまった。っていうか私の、ビンセントのこの鉱物のせいで全く関係ないリカルドを巻き込んでしまった。


「リカルド、ごめん……ごめんね。厄介ごとに引き込んじゃって……」


 リカルドはニコっと笑った。私を安心させるために。

「バカだな。ねえショーン、考えてみなよ。俺たちみたいな弱小国の民がこの世の頂点に立ってると言ってもおかしくないギレン皇帝陛下に会えるんだよ!これってある意味ラッキーなんじゃないか?俺ちょっと興奮してる」

「……陛下の機嫌を損ねて、その場で打ち首でも?」

「打ち首でも!って冗談だ。陛下はとっても理知的な方だって聞いてる。この大国をまとめているんだから当たり前だな。だからショーン、心配するな」

「リカルド……」

 リカルドが私と額を合わせる。

「ショーンがこの世で一番大事だ。絶対守ってみせるから」


 額から、馴染みのリカルドの魔力が送られてくる。

「弱気になってごめん。ありがとうリカルド」


 私がそう言うと、リカルドは優しく笑って私の額にキスをした。ドキッとした。

 親友でもキスってするの?それとも庇護対象の子供扱いってこと?

 何故か、私は悲しくなって目を閉じた。


「うん、まだしばらくかかるから、寝ておこう」

 リカルドはそう言って、私を抱き寄せ、自分の脇に私の頭を収めた。あまりに自然に。

 リカルドのその窪みは私の頭の大きさに何故かピッタリで……混乱していると、すうぅ……とリカルドの寝息が聞こえた。

 私は何故かリカルドと逆に落ち着かず、胸がドキドキ鳴る。家族以外の腕の中に入るなんて初めてだもの。

 目をそっと開けるとリカルドは私の頭に頰を乗せて寝ていて……リカルドは私のことなんとも思ってないから平気なのだ。ますます無性に悲しくなった。男と偽っているのは自分のほうなのに……


 リカルドとの近すぎる距離、パニック気味の自分、私は考えることを放棄して、気合いで目を瞑った。




 ◇◇◇




「フリージア、フリージア……」


「ん……なに……」

「ふふ、なんでもない。起きて?ショーン。首都に着いた。ガレアだ」


 リカルドの声で目を覚まし、彼の顔を見あげると、リカルドが窓の向こうに目配せした。

 景色はすっかり変わっていて、明るい、陽気な緑いっぱいの城下町になっていた。

「わあ……すごい、キレイ」

「ああ、明るいね。まるで犯罪の匂いがしない。さすが世界の中心都市ガレア……」

 リカルドは見るところが違った。


 隅々まで清掃が行き届き、陰がない。それだけ庶民の生活にゆとりがあるということ。そうなると治安がよくなり、人が集まりますます栄える。


 ガレの為政者が願った国の姿。

 それを実現しうる圧倒的な力。

 その意向を誤らず実現する、己のトップに心酔する国民。


 街路樹に美しい赤や黄色の原色の花が咲いている。その下で女性兵士が警備に立ち、にこやかにじゃれつく子どもと話している。それが当たり前の光景として、溶け込んでる。

「こうも……違うのね」

 男性を騙って軍にいる私と大違い。

「あの女性兵士もきっととんでもなく強いんだろうな。ガレの軍は易しくない。見習わねば……」


 私たちの馬車は宮殿に止められた。屈強な兵士に荷物をチェックされそうになり怯むが、リカルドがガレの言葉で何か話すと、そのまま通された。まあ私の手持ちの刃物全てを使っても、この衛兵さんたちに勝つことなんて不可能だろう。


 私たちは少し時間をいただいて、身支度を整える。軍服は物々しいと公爵様がお揃いの紺のスーツを滞在した時に急いで作ってくれた。ガレの高官に会うことを念頭に準備してくださったと思う。まさか皇帝陛下に会うために身につけることになるなんて、公爵様もきっとビックリされるに違いない。


 古い豪奢な彫刻が施された部分と、頑強さだけを求められた最近のものと思われるものの混在した皇宮を案内に従って五分ほど歩く。


 屈強な衛兵が両脇を守る、両開きの扉が開かれた。血の気が引いた。

「マズイよ。リカルド。ホントの……謁見の間だ」

 私は小声で囁く。

「ショーン……私に任せて。いいね」

 私は小さく頷き、リカルドの後ろに続いて入り、所定の位置でリカルドを真似て跪き頭を垂れた。


 すぐに玉座の脇の扉が開き、数人の足音が響く。全く待たされなかった。ガレはもったいぶる性質の国ではないらしい。椅子の軋む音がする。


 側付きの男性が、

「陛下、こちらはデンブレ国第三王子リカルド殿下、そしてデンブレ国、フリージア・ビンセント伯爵令嬢です。お二方、お顔をお上げください。ようこそガレへ、こちらが我が国の皇帝、ギレン陛下です」



 伯爵令嬢って……バレてら……。

 怖ろしい。震えがくる。性別詐称していたこと、お咎めあるだろうか?


 そんで何?王子って……

 いや、今はどうでもいい。

 私はリカルドが頭を上げた気配を察し、それに倣った。



 視線の先、数段高い場所の黒い革貼りの大きな椅子に、王者がいた。






誤字報告ありがとうございます。

次回更新は週末。金土日でラストです。

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