地味バレ 13
ムスラで真面目に国境警備の皆様のために会計仕事に励み、たまに突撃してくるゼナン将軍の剣のメンテナンスをし、リーゼロッテお姉様たちに呼び出され任務をこなし、会計課の皆様と忘年会をして……忙しく日々を過ごしていると、リカルドがガレを訪問する手はずを整えてくれた。
「俺も行くよ」
「は?オレ、年末休暇に有給くっつけて行くつもりだよ?リカルドは年越し家族で過ごすんじゃないの?」
「ショーン、逆に俺なしでどうやってガレに入るつもりなのか聞きたい」
「ビザかなんかペランとくれて、それを見せれば国境越えられるとか?」
「ガレは他国の軍人が簡単に入国できる国じゃないの!ショーンを一人旅何てさせられるかっ!刀鍛冶としてだけでなく、単純に可愛いこともバレてライバル日に日に増えてんのに……。トリガー師匠は来られないんだろ?」
魔法を指導したトリガー兄を、リカルドはすっかり師匠呼び。それなら私も師匠で良くね?
「さすがに新年を次期領主の兄が不在にするわけにはね。私にはこの機会しかないし」
「そうだ、うちの家族心配してくれるなら途中うちの家に寄ればいい。ちょっと寄り道の距離だよ?俺も一年以上空けてて久しぶりに帰りたい。叔父に……親友を紹介したいし、な?」
うー!私の一人旅、まるっきり信用ないな……。
休暇中の当直を二人して同期に代わってもらい、ナンバーの姉さん方に国をしばらく離れることを連絡して、出発する。久々に乗るアーサーはご機嫌だ。リカルドの馬は大きく見るからに軍馬。二人で元気に馬を駆る。天気がいいうちに先に進む。
私は野宿でも全く問題ないのに、リカルドが激怒した。どんだけお前が可愛いのかわかっているのかとキレられた。子供扱いだ。プンプンしたリカルドがシリウスの礼だから遠慮するなと宿を取る。揉めてもいいことないので、大人しく従う。もちろん宿のベッドで寝る方が疲れが取れる。
二日全力で走り、リカルドの実家?ワグナー領に入った。
◇◇◇
「び、ビンセントのフリーザ様だとぉおおおお!!!」
大柄の熊のようなオジさんが喚く!
着いた先はなんと領主、ワグナー公爵邸だった!
さてはリカルドおぼっちゃまかよ……と冷やかそうと身構えたが、ワグナー一家、いい剣持って振ってナンボの脳筋ファミリーだった。不発!
「はじめまして。リカルドの同室のショーン・ビンセントです。リカルドにはとてもお世話になっています。本日はお招きありがとうございます!」
「しかし……ビンセント工房の鍛冶場は男子禁制のはず……華奢な骨格……ふむ!なるほど、了解した!宴じゃああああ!」
なんと、リカルドの大好きな叔父さんこそが公爵だった!若い頃ビンセント領に来たことがあって、両親とも面識があるらしい。そのおかげか?公爵という地位にありながらめっちゃ気さくでホッとした。
叔父さんにサインしてくれと、ペンと剣を手渡される。これは……
「抜いていいですか?」
「もちろん!」
水色に輝く剣、母のこさえたものだ。今のものより荒い出来栄え、母の若い頃、20年前くらいのものかな?カンっと柄を外す。
「全然使ってないですね」
「使うなど!以ての外!」
「使ってくれた方が母は喜びますよ。うちの剣は使ってナンボです。この空気錆、研いでいいですか?」
「フリーザ様が、マーズ様の剣を研ぐ………」
うおおおおおお!!!
いつのまにか取り囲まれていた観衆の大歓声を受けながら、常に持ち歩く商売道具を並べて細かい錆を剥ぐ。歪みを整える。初見の母の剣は学ぶところばかりだ。
「よし、リカルドー!」
「何?」
「ちょっぴり水魔法流して」
「了解」
リカルドはトリガー兄にシールドとスピードを習ったあと、ゼナンのオッチャンのとこのサリーさんに頭を下げて水魔法を教えてもらった。戦うわけじゃない。私が火魔法を使うから、もしものときにそれを消せるようにと。私と対で居たいのだと。心配症だ。オカンだ。声に出して言えないけど……ありがとう。
「どこに触れていいの?ここか?」
「気にせず触って。バケツ一杯分ね」
リカルドが刃の背をつまむ。指先がフワッと灯る。
叔父さんの剣がプルンと潤み、水色に輝いた!
「うん、充填完了!」
うおおおおおお!!!
場内どよめく中、叔父さんと、執事長?さんが目を丸くして驚愕している。
「リカルド……水魔法……?」
「……フリーザが、私に未来をくれました」
「っ!リカルド!」
叔父さんが長い裾のある服を翻しリカルドに駆け寄り、しっかと抱きしめ、リカルドの首に顔を埋めた。声を、嗚咽を殺しているのが伝わる。執事長さんも下唇を噛んで目を瞑り、天井を見上げている。
……どうやらリカルドは公爵家の跡取りのようだ。ここまで大きな家に生まれ〈魔力なし〉……どれだけの辛い思いをしてきたのだろう。世事に疎い私にも想像がつく。
リカルドは魔法なしでもめっちゃくちゃ強いんだけど、それはまた別の話だ。常日頃見せる私への大きな感謝。ようやく理解した。
ふと我にかえると、私の足元に目を真っ赤にした公爵以下、その場の全てが跪いていた。
「ちょ、ちょっと止めてください!公爵様なんで?リカルド!」
「ビンセントの秘術でリカルドの潜在魔力を引き出していただけたとのこと。それも無償で……我々ワグナーの民はこのご恩、生涯忘れない。フリーザ様に何か災いが降りかかりましたら、我々が全力で振り払うとここで宣誓いたします」
「えー!そんな重い誓い、ゼナンのオッチャンだけで十分!」
「ゼナンだと?尚更あんなこわっぱに負けてなどおれん!是非我らに恩返しをさせてください!」
「じゃ、じゃあ、ワグナー領の装備、ビンセントから一括購入してくれませんか……って厚かましすぎ……かな?」
「のあっ!それではむしろご褒美!!!」
「叔父上、そういえば私、実はフリーザから短剣をもらいました」
「なんだと〜!いいのかーいいのかーこの幸運!!!後でバチ当たらないだろうなー⁉︎」
チューリップ叔母様、フリージアやりました!またしても大口顧客ゲットです!
◇◇◇
そのまま大宴会に突入した。
心づくしのご馳走を食べながら、泊めてもらうお礼に家臣の皆様の歪んだ剣を直し、汚れを落とし、サインする。サインいる?皆様素晴らしい剣をお持ちで……そしてキチンと手入れしてあって感心した。
叔父さん公爵に、もし得物の手持ちがあるなら、今回間を取ってくれたマルシュとガレに一振りずつ贈呈したほうがいいとアドバイスされる。
私は納得し、カバンの中から余り物の長剣と短剣を取り出した。リカルドが覗き込む。
「持ってきてたのか?」
「うん、路銀に困ったら売ろうと思って一応ね」
「ワシが買いたいーーー!あーでも隣国との友好のためーーでも国の宝を外に出すのかーー言い出したのワシーー!」
「叔父上……」
悶える叔父さんはリカルドに任せて、私は雑なところをチェックし、微調整する。鍛え直すほどでもないけれど、さすがに国相手の土産にするならば、もうちょっと見栄え良くしなきゃ。
バルコニーに出て、精神を、統一する。周りの音を……余計な風、空気を遮断する……よし!
左手のひらに、1000度を越える、火を燃やす。
◇◇◇
誰もが息を止め、フリーザの仕事を見守る。
「……鬼気迫るものがあるな」
「……私もフリーザがこれほど集中した姿は初めて見ました」
「あのように邪気なく朗らかゆえに、曇りのない剣が生まれるのだな」
「はい」
ワグナー公爵はリカルドを見てニヤリと笑う。
「リカルド。フリーザ様……いや、フリージア嬢を逃がすなよ?」
「叔父上!……元よりそのつもりです。彼女は……私の光」
「くくっ。色々と悪巧みも教えてきたはずだ。お前はワグナーの男。侯爵の倅なんぞに負けるな!欲しい女は邪魔は蹴散らし全力で摑み取れ!」
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