病室にて -メリーさん- -3-
「どうだった、妹は?」
「いい子だったよ。ちょっと変わってたけど」
話は、昨日来た本条の妹の話になった。
「だろ。人見知りだけど、俺に似て可愛いからな」
「お前に似て可愛いってなんだよ。本条は全然可愛くないからな」
「嘘だろ!?初耳だわ」
「鏡見たら分かるだろ」
本条は驚愕の表情のまま、固まっている。
どうやら、僕を笑わせようとしているらしい。
「辞めろよ、その顔。笑いそうになるから」
「じゃあ、笑ってくれよ。この顔が報われへんやん」
本条が顔を素に戻すと、少しそわそわとし始めた。
「あの、奏は変なこと言って無かったか?本人に聞いたら”別に”とは言ってたけど」
奏というのは、本条の妹のことだ。
本条に似ず、可愛くてBL好きの女の子だ。
「いや、別に言ってなかったよ」
僕は恐らく嘘を吐いた。
奏ちゃんからは、本条の昔の友達の話を聞いてしまっていて、多分それが本条が懸念していることだと気づいた。
だけど、本条は”それ”を望んでいないだろうから、僕は嘘を吐くしか無かった。
「そっか、なら良かったよ」
本条は安心したように笑った。
でも、僕がちょっぴり思うのは、ほんとは僕に知ってほしかったんじゃないだろうか、ということだ。
昨日、奏ちゃんを僕のところに寄越したのは、そういう意図があったのかなって。
昨日の夜は、そんなことを考えていた。
「話変わるけど、どうして急に”メリーさん”の話題になったの?」
僕は話題を変えようと思い、またメリーさんの話を振った。
本条の昔の友人の話は、いずれ本条から話し出してくれるのを待つことにしたい。
「あぁ、実はな……」
本条はそう言うと、足元の学生カバンをごそごそと漁りだした。
そして、汚らしい人形を取り出した。
「えっ……何それ?」
「メリーさんだな」
「へっ……えーっと、何で?」
「ここに来る途中、ゴミ捨て場で見つけたんだ」
僕はベッドの上で、最大限本条から距離を取った。
「ん、どうしてそんな遠くにいくんだ?」
「いや、こんなこと言うのは友人としてとても心苦しいんだけど……」
「おう、いいぞ。何でも言ってくれ。俺たち親友だか……」
「気持ち悪っ!!!!!!!!」
僕は全力で叫んだ。恐らく病状が悪化するだろう。
しかし、叫ばざるにはいられなかった。
「おい、やめとけ。そんなに叫んだら体に障るだろ」
「いや、ごめん。心配してくれてありがとう。ただ、余りに気持ち悪かったから」
「大丈夫だって。さっき病院のトイレでちゃんと洗った後、タオルで拭いたから。汚くないぞ」
「……病院で人形を洗う男子高校生はヤバいよ。誰にも見られてないことを祈るわ」
人形の身長は30cm程で、多分フランス人形と呼ばれるものだと思った、よく知らないけども。
ピンク色の薄汚れたドレスを着ていて、そのドレスは本条が脱がさずに洗ったのかびしょ濡れだった。
目はクリっとして可愛らしく、それが顔面積の1/4を占めている。髪はブロンズの長髪で、大変なぼさぼさ具合だった。
顔だけ見ると、結構な美人だ。
「なんで、拾っちゃうのよ。そんなの」
「いや、お前が喜んでくれるかなぁ……って思って」
「全然だよ、全然。これっぽちも嬉しくないよ」
「マジかぁ……」
本条が、残念だったなぁと人形に話しかけていて、僕は友人の頭がおかしくなったのかもしれないと心配になった。
病室にて -メリーさん- -3- -終-