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11-⑤:お前のせいじゃない。

「セシル!?」


 レスターはセシルを横たえ、その体を見る。肩をはだければ、付け根から腕がなかった。そして、その腕の付け根の断面は血と肉ではなく、水色のガラス質の結晶とそれに囲まれた空洞となっていた。そして、そこから肩にかけての肌に、幾筋ものひびが入り、隙間から水色の同様の結晶が覗いている。セシルの体は、まるで陶器製の人形にでもなったかのように、ひび割れていた。


「「セシル!!」」

 ロイとノルンが真っ青な顔をして叫ぶ。


「おい!しっかりしろ、セシル!!」

 レスターはセシルを抱きかかえると、頬をはたく。セシルはうっすらと目を開けたが、絶え絶えな短い息を吐きつつ、眉をしかめるだけだった。


「なんだ、これ?!」

 ロイはセシルの腕を拾おうとした。しかし、それは持つなり崩れて水色の砂となり、バラバラと地面に落ちていく。



「れす…さっきの、こくはく、は、なし」

「何を言っているんだ!しっかりしろ!」

 しかし、セシルは小さく首を横に振る。セシルは残った力を振り絞り、声を絞り出す。


「おまえ、せい、じゃ、ない、から」

 セシルはにこりと笑った。そして、それを最後に、体からかくんと力が抜けた。


「…セシル?セシル!しっかりしろ!」

 レスターはこみあがる恐怖に震えながら、セシルの体を揺さぶる。しかし、その体に再び力が入ることは無かった。それどころか、事はそれだけでは終わらなかった。



「…え」


 セシルの体がばらばらと崩れ始める。手が落ち足が崩れ、胴体も崩れていく。やがて愛おしい顔のついた頭が、呆然とするレスターの腕から零れ落ち、地面に当たると同時に細かく砕け散った。まるで、彼女の遺体を抱きしめる資格すら、お前にはないとでも言うかのように。


「…夢だ…悪い、夢だ…」

 レスターは呆然とつぶやく。だって、だってこれが現実なわけがない。レスターは彼女が来ていた服を片手につかみ、ふらりと立ち上がる。



「…セシル、セシル?…どこへ行ったんだ?」

 今日はこれを着て一緒にお祭りに来ていたはずだったのに、脱いでどこへ行ってしまったんだ?レスターは虚ろな目をしてあたりを見る。


「セシル、セシル?隠れてないで、出ておいで?」

 だが、やがて砂の上に、ぽたりとしずくが落ちる。レスターは彼女が死んだことを、理性では理解していた。でも、感情はそれを認められなかった。



 しかし、どこにも見当たらない愛しい者の姿に、ついに感情もそれを認めてしまった。レスターは崩れ落ちる。湧き出した涙がぼろぼろと堰を切って、セシルだった砂の上に落ちていく。


「嫌だ…嫌だ嫌だああああ!!」

 レスターは大地に手をついた。水色の砂を、わしづかむかのようにつかみ、泣き叫ぶ。


「セシル!セシルううう!」

「……」

 ロイとノルンは、掛ける言葉もなくそれを黙ってみていた。




―これから彼女を幸せにするつもりだった。今まで自分を楽しく幸せにしてくれた分、そして彼女に苦労させてしまった分、彼女に辛い思いをさせた分…いいや、それ以上に。幸せだけで彼女を包んであげるつもりだった


 なのに、俺は君に何もしてあげられていない。


―イルマだけを追い続けていたつもりだった


 その間に知らず知らずのうちに出来ていた大切な者。その存在に気づくのが遅すぎた。気づいた時は、それを失う直前だった。そして、失う原因を作ったのは他の誰でもない




「…俺が殺したんだ」

 自分自身だ。レスターは、ノルンの腰から剣を抜きさる。ノルンは咄嗟のことに、防げない。


「レスっ…!」

「やめろ!」

 それを自身の首に突き立てようとしたレスターを、ロイがすんでのところで止める。


「死なせてくれ!頼むから!」

「馬鹿野郎!セシルの最期の思い、踏みにじんじゃねえよ!」



 お前のせいじゃない。レスターがこれから先、罪の意識を抱かないように、セシルは力を振り絞ってそう言ったのだ。恨み言の1つや2つ言える状況にもかかわらず。そして、自身が死ぬという間際に、自身の告白をなかったことにしてまで、レスターのこれから未来の幸せのことを考えてくれていたのだ。


 なのに、それでも死ぬということは、彼女の決死の思いを裏切ることになる。


「死なせない!あいつの思いを守るために自殺なんてさせるか!」

 ロイはレスターを殴った。レスターは剣を離して吹っ飛んだ。レスターは体を起こそうとして、しかし力が入らず、レスターはそのまま地面に突っ伏して赤子のように泣きじゃくり始めた。


「死にたい…死にたい死にたい…死なせてくれ…」

「誰が死なせるか。自殺なんてしたらオレが許さない」

 ロイは、レスターの前髪をわしづかみ、自分の顔を向かせる。


「セシルのために生きやがれ。血反吐はきながら幸せを探して生きろ。幸せになっても、セシルへの罪の意識と戦いつつ生きろ。それが残されたお前の使命だ」


 そして、オレはそんなレスターの生涯を見届けよう。ロイは決意する。オレが愛した彼女の思いを守るため。





 トキワ暦2115年8月31日。

 サーベルン、イゼルダ教メルクト大教会爆発事件。

 500年の歴史を持つ、国民の誇りでもあるその教会は、一昼夜燃え続けた。


 死者は神父修道女10名、警備中の兵士17名。いずれも剣と魔法による死傷。

 その他、住宅街にて原因不明の家屋の倒壊が起こったものの、祭りで外出中の家がほとんどであり、幸い民間人に死傷者は1名も出なかった。爆発事件との関係性も調査中。


 また、教会爆発の直後、近郊の山で青白い光の柱が空に向かって立っているのを、目撃した住民もいた。その光の柱を中心として、大規模な渦と青い雷が発生していたらしい。王府より捜査員を派遣し、現場の調査をしたが魔法痕は見つからず、自然現象と考えられる。しかし、民衆は教会を破壊された神の怒りだと、恐れおののいている。

レスター、ジミーの分際で主役殺すとか、何してくれてんだよ…。真面目なのは顔だけかよ、この顔面詐欺師が…。


…と言う訳で、主役不在となり、『Clover on the Battlefield』最終回です(←大ウソ)。



…大丈夫です!まだまだ続きます!

完結まで書き終わってるので、データがぶっ飛ぶか、私が不慮の事故で死なない限りは最後まで投稿できます!


という訳で、これからも『Clover on the Battlefield』続きます。宜しくお願いします。

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