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10②-②:ならオレは言う。

「…セシル」

 ロイは顔をひきつらせながら、乾いた笑いをこぼし、セシルの顔を見る。


「…ロイ」

 セシルもまたしかりである。ひきつった笑みで、ロイと視線を合わす。


「でけえ花火だなあ」

「そうだなあ、お前らの国の祭り見直したぜ。なんてったって、建物を使ってまで花火をするんだもん」


 そうだ、きっとこれは花火ショーの一環なのだ。そうでなければ一体なんだというのだろう。ああそうだ、きっと夢を見ているのだ。そうでなければ、王都の大教会が大爆発するなんてことがありうるはずがない。



「「…あははは」」


 2人は引きつった笑顔で笑い合った。しかしやがて2人は、あきらめたかのように真面目な顔をすると、同時に立ち上がる。


「さて、現実逃避はここまでにして、どうする?セシル…」

「逃げよっか、とりあえず。レスター探して」


 2人はさっきまでレスターのことをすっかり忘れて、祭り飯をむさぼっていた。というのは、あれ以降微妙になった空気を何とかしようと、2人は食事と食事の話題に集中しようとしていたからである。もうすぐ9時だというところで、セシルとロイはレスターが未だに帰ってこないことに気づき、ロイがピアスに手をやったと同時に、この大爆発に至る。


「そうだな。なんか嫌な予感がするし、とりあえず逃げよう。お~い、レスター応答しろ」

 ロイは耳のピアスに手を当てる。しかし、返答はいくら呼びかけてもない。2人は再び顔を見合わせる。


「あはは~きっとあの野郎ピアス落としたんだ」

 ロイは馬鹿だなあと笑う。

「そうだそうだ。あいつ意外にそそっかしいかもしれないし」


 セシルもあははと笑う。そして、2人は大きな声で笑い合った。しかし、次第に笑い声は自信なさげに小さくなる。やがて諦めたかのように、ぽつりとセシルが言う。


「…なあ、ロイ。オレの考え言っていい?」

「いや言わなくていい。もうわかってる」


 ロイは目つきを鋭くして、爆発現場を見た。


「オレ、探しに行く!」

「あ、こら待て!」


 ロイは駆けだしたセシルの腕をあわてて掴んで止める。


「お前が行くと危ない。爆発は奴らの十八番だ。この件、絶対に奴らが関わっている。もしお前が見つかったら!」

「だけど、レスターが!」


 セシルは、不安で今にも泣きだしそうな顔をしていた。心の底から、人を想っている泣き顔。ロイは心がずきんと痛むのをそれどころではないと無視し、セシルの両肩をつかむ。


「お前は今は魔法が使えない。だから行ったところで何もできない。オレが代わりに見てくる。レスターを必ず見つけて、連れて帰ってくるから」

「だけど…」

「大丈夫、もし巻き込まれていても、きっとちょっと気絶しているぐらいさ。あいつはそんなにヤワじゃねえから」

「…」


 セシルは不安そうに目を戸惑わせ、しかし納得したのかこくんと頷いた。

「じゃあ、ここで待っていろ。オレが帰ってくるまで動くんじゃないぞ」

 ロイは上着を脱いでセシルに被せる。そして、行ってしまった。




「…」


 セシルは建物の上で、不安な心地に体を小さくして待っていた。人の悲鳴と騒ぎ声が風に乗って遠く近く聞こえる。

 燃え盛る教会で赤く照らされた空には、花火はもう上がらなかった。


「レスター…」

 あいつがこの世からいなくなるかもしれない恐怖に、胸が早鐘を打っている。

 セシルはきゅっと膝を抱える手に力を入れた。


「…お願い」

 つぶやきつつも、誰にお願いしているのだろう、と思う。神様か。だけど、自分には信仰する神様なんていないから、祈りようがない。しかし、誰でもいいから、とぎゅっと指を組んで祈る。


「…お願い、生きていて」

 ふとセシルは、なんでこんなにもあいつの無事を祈っているのだろうかと思う。



 何故、こんなにもあいつを失うことが怖いのだろう。

 死んだ()()たちにも行方不明の友人(アメリア)にも感じたことがない、初めてのこの感情。



「…」

 その疑念の答えとして湧いた可能性に、セシルは顔を上げる。


「オレはレスターのことが好きなのか?」

 セシルは口に出して、自身に問う。


「わからない」

 だけど、彼の傍にいると暖かい気配に安心する。


「わからない」

 だけど、彼のあの落ち着いた声を聞くと、ほっとする。


「わからない」

 だけど、彼のあの優しい笑顔を向けられると、何もかも嫌なことを忘れられて、身を委ねたくなる。


―それは皆、トーンに似ているから?


 セシルはしばらく黙って考える。やがて「違う」と首をふった。


 確かに、最初はそうだった。しかし、彼はトーンとは違う。

 確かに、似ている所もある。髪の毛の色はもちろんであるが、落ち着いた優しさや暖かい気配、そして自分を見つめる眼差しが良く似ている。


 だけど、苦笑するときの笑い方とか、手をつないだ時の感触と暖かさとか、傍にいた時に感じる香りとか、歩くときのくせとかは、全然似ていない。挙げていけば、似ている所はごく少数で、違うところの数の方が圧倒的に多い。


 それでも、トーンに似ているから気になっているだけだと言えるのか?


「……」

―これが、好きってことなのか?


 分からない。

 好きという事の理論的な答えが手元にないのだから、何を持って「好き」と言えるのかわからない。


「……」

―だけど、確かにオレはあいつのことが気になっている。それは認めよう。

 なら、これからオレはどうすればいい?


「……そう言えば」

 セシルはふと顔を上げる。


 男女が付きあうという行為。確かその行為は、好き同士の者が行動を共にするという意味合いだけではなかったはずだ。気になっている者同士か、または片思いの者がその相手の許可を得てカップルとなり、お互い本当に相手を好きになれるかどうかを確かめ合う意味合いもあったはず。


「…なら」

 セシルは立ち上がる。


―オレは言う

 セシルは駆けだした。


―レスター、オレと付き合ってくれ、と


 良い返事を貰えるかどうかはわからない。だけど、貰えたなら、オレはあいつと付き合おう。そうすれば、本当にあいつのことを好きかどうか、はっきりとわかるだろうから。

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