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10-⑧:似てる?

 レスターは時計をじっと眺める。銀色に四つ葉のクローバーの彫刻が刻まれた時計。

 以前はこれを眺めては、幸せだったあの頃の暖かな心地を思い出していたものだった。


「……」

 レスターは確かめたい気持ちになって、時計をじっと見つめた。あの頃の思い出を思い起こそうとして。


「……」

 だが、それらは何もでてこなかった。いいや、思い出は、記憶としては出てくるのだ。しかし、それに伴うはずの暖かな感覚がなくなっている。ただ、思い出しているだけの行為になっていた。


「どうして…」

 レスターは、半ば恐怖に憑りつかれたまま、その場にたたずんでいた。


「嘘だ…こんなことがあっていいはずがない」

 レスターは呆然とつぶやく。その時、かすかに耳元でチリンと音が鳴った。通信機の呼び出し音だ。


『おい、レスター!どこほっつき歩いてんだ』

「……」

『……おい聞いてんのか?』

「……しばらくセシルの面倒を見ていてくれるか?」

『はあ?』

「ちょっと一人になりたいんだ。花火までには合流するから」

『……わかったよ』

 レスターは呆然自失としたまま、答えていた。そして、救いを求めるその足は、自然とある場所へと向かっていた。





「大分涼しくなってきたな」

「ああ。それにこの場所、昔っから風通しがいいからな」


 ある程度、食べ物を買い込んだ二人は、少し祭りの会場から離れた建物の屋上に座っていた。ロイ達が昔、花火を見るときに来ていた穴場スポットで、あたりにはもちろん誰もいない。

 隣でもふもふとわたあめを食べているセシルを見ながら、ロイは可笑しそうに笑った。


「お前、ホントに子供だなあ」

「うるせえな、お前だって祭りでりんご飴なんて十分子供だし」

「だってうまいんだもん」

 と言いながら、ロイはりんご飴をなめる。


「結局オレもお前も似た者同士ってことだな」

「じゃあ、似た者同士でこのまま付きあっちゃう?」

「最近そればっかだな、お前。軽い男は嫌われるぞ」

 セシルはあきれまじりに苦笑した。


「お前なあ、人をからかうのも大概にしろよ」

「からかってなんかない」

 すると、あろうことか、ロイは空いた手でセシルの手をつかんだ。ぎゅうぎゅうと力を入れて。


「真面目だと言ったら?」

 ロイは調子のよさげな色を一切消した、真面目な顔でセシルを見つめた。セシルは唖然と口を開ける。


「…お前、まさか、ホントに」

 セシルは決して恋愛に鈍いわけではない。サアラの時は長年の年月が築き上げた信頼関係が仇となって、恋愛の部分も親愛ととらえていただけである。こんな風に異性から応対されれば、さすがに気づく。


「オレ、お前のことが好きだ。誰よりもオレの傍にいてほしいと思う」

「……」

 セシルは戸惑い、視線をそらす。すると、ロイも少し我に返ったようで、握る手の力を弱めた。


「急にこんなこと言ってごめんな。だけど、本気だ」

「……」

 セシルは視線を泳がせていた。ロイはその目がこちらを見てくれるのを根気よく待つ。


 やがて、セシルはおろおろとしながらもロイの方を見た。


「オレみたいなのの、どこがいいんだ…?」

 ロイは、ふふっと少しだけ笑った。

「一緒にいると楽しい所ってのもあるけど、一番はなんだかオレと似ているから」

「似ている?」

「なんていうか…お前、楽しく振る舞って、自分を守ってるところがあるだろ?…いつも忙しく楽しく思うことで、何かを忘れてしまいたいと思っているみたいな」

「…!」

 セシルはどきっとして、目を見開いた。ロイはそんなセシルを見てやっぱりと思う。


「何を忘れてしまいたいと思っているのかは、大体想像はついてる。マンジュリカのこともだろうけれど、一番は親のことだろ?…だから、オレ、同類のお前をそばで守ってやりたくなったんだ」

 ロイは、優しくセシルの手を包むように握りなおす。


「……」

 セシルは何も言えず、うつむいた。


「………なあ、お前はレスターが好きなのか?」

 しばらく降りた沈黙の後で、ロイは口を開く。

「…んなわけねえだろ」

 うつむいたまま、セシルは言う。

「本当のことを言ってくれ」

「……」


 セシルは考え込むように、しばらく黙りこんだ。やがて、セシルはため息を一つつくと、頭をがしがしとかく。


「レスターのこと、実を言うと気にはなっていると思う。だけど、それが恋なのかアイツがアイツの父親にそっくりだからなのか、よくわからない」

「父親?旦那様のことか?」

「ああ、トーンのことだ。あいつトーンと雰囲気が似ているっていうか、傍にいると何だか安心するんだ。甘えやすいし」

 赤毛も茶色の瞳もそっくりで、あの瞳を見るととても落ち着くのだ。


「そういえばお前、旦那様にしばらく世話になっていた時期があるんだったな」


 8年前、トーン・ラングシェリンは国王の極秘の命令のもとに部隊を編成して、マンジュリカの討伐に向かった。しかし、時同じくして、セサル・フィランツィル=リートンが、こちらは単独で秘密裏にマンジュリカの討伐に向かっていた。結局、因縁の家系の二人はマンジュリカとの対峙の場で鉢合わせをし、不名誉な共闘を強いられたと聞いている。そして、マンジュリカの元から救出されたセシルが、トーンの元で世話されていたことも。


「ああ、そうだ。…昔まあ、いろいろあってだな」

 セシルはロイの手から手を抜くと、ふうとあきらめたかのように話し始めた。

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