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8-⑦:俺は強姦魔じゃない、ただのラッキース…

 礼拝堂の祭壇の陰に隠れていた二人は、目くばせをすると立ち上がる。ロイは鼻と口を塞いでいる布がずれていないか確認し、香炉へと向かう。催眠効果のある植物をいぶした煙だ。うっかり吸うと自身も危ない。レスターももう一度布のずれがないかを確かめると、セシルのそばへと近づく。すやすやと寝息を立てていたので、ロイにOKの合図を送る。


「ふう…じゃあ消すぞ。にしても以外にあっけなく終わったな。さすがノルンだ」

「ああ」


 ロイは、礼拝堂の中の香炉を一つ一つ回り、水をかけて煙を止める。レスターは倒れているセシルの傍にしゃがむ。


 セシルの誘拐任務は、身内―母上にも極秘の任務だ。神への祈りの場をこのようなことに使うなど失礼な行いだが、3人そろって長時間籠っても怪しまれない場所と言えば、自宅ではここぐらいしかなかった。ちなみにノルンは今はリトミナの城の方に居て、もうしばらくすればまたここへ戻ってくるはずである。普段使わない別荘にセシルを連れてきてもよかったのだが、香炉が目立って最初の段階でセシルに怪しまれるため、あえて礼拝堂にした面もある。


「俺は拘束する。お前は換気を頼む」

「ああ」

 ノルンの言うとおりにしてよかった。この化け物じみた魔法を使う彼を攫うのなら、戦わずして攫う方がはるかに安全だからだ。レスターは持っていた着替えと拘束具を脇に置きつつ、そう思う。


 レスターはナイフを取り出しセシルに向ける。素早く服を脱がすためだ。いちいち仕込まれた武器がないか探して取り除くよりも、いったん素っ裸にした方が手っ取り早い。どのみち服は焦げてぼろぼろになっているし。

 レスターは、セシルの服にナイフを入れていく。


「…!」

 セシルの服の帯を切り、胸元をはだけた時、ごとんと床の上に落ちるものがあった。


「これ…!」

 大切にしていた懐中時計。先ほどの戦闘ですすけたのだろうが、間違いない。

 捨てられたかもしれないと思っていたが、セシルはどうやら捨てずに使っていたらしい。

 レスターは良かったと思い、半ば泣きだしそうな心地でそれを抱きしめる。


「おい、レスター、何してんだ?」

 顔をあげれば、窓を開けて回っていたロイがけげんそうな視線を向けている。

「あ、いいや、す、すまん」

 ロイには後で説明しよう。レスターは慌てて時計をポケットにしまうと、作業を再開しようとセシルに目をやった。


「…?」

 胸元に晒がまかれている。結構しっかりとまかれているが、怪我をしているようでもない。そのままでもいいが、中に武器でも隠されていたら困るのでナイフを入れた。ばらばらと切れてゆるんでいく晒。そして、露わになった胸を見て、レスターは絶句した。


「え…」

 白くてやわらかなもの。これは…


「え?え?ええ…っ!?」

「ん?どうした?」

 最後の窓を開けようとしていたロイが振り返ると、レスターもロイを見ていた。

 腰を抜かし、オバケを見たかのような顔で、手はセシルを指差している。



「なんだよ、どうしたんだ?」

 まさか目が覚めたなんてことは無いだろうと、ロイは思う。あの香りを嗅げば、獅子でも丸一日は目が覚めないはずだからである。どうせくだらない理由だろうとロイは窓を開けきると、驚愕に腰を抜かしているレスターのところへ向かう。


「は…?」

 しかし、セシルに近づいたところで、ロイも驚愕の声をあげる。レスターを押しのけてセシルに飛びつく。

「マジか…?!」

 ロイはセシルの胸をさらによく見ようと、袷をガバリと大きくはだけさせた。


「こいつ、女じゃん!?」

「ちょっと!ロイ!」

 ロイは驚愕のままに、本物かどうか確かめようとしたのだろう、セシルの胸に手を伸ばした。レスターは驚愕に囚われ続けながらも、それはさすがに女性に対して失礼だろうと咄嗟に止めようとした。その時、


「あなたたち…!!?」

「「へっ?」」

 悲鳴に近い驚愕の声に顔をあげると、レスターの母だった。しばらく籠るから、ここには誰も近づかないようにと言っていたはずなのに。

「あっ、いえ、これは…」

 レスターは任務が目撃されてしまったことを、何と言い訳してごまかそうかと焦った。しかし、レスターの母が声を上げたのはそう言う事ではない。



 神聖なる礼拝堂で、服を切り裂かれて半裸で倒れる女性。その脇には手枷と足枷。その女性を取り囲むのは、服を切り裂くのと、脅しに使ったのであろうナイフを持っている我が息子。そして、女性の胸に手を伸ばす(伸ばしたまま固まっていただけだったのだが)ロイの姿。


「このような場で、凌辱なんて、なんてことを…!」

 息子たちのあまりもの行いに、ショックで泣き叫ぶ母。


「ちが…」

 母の勘違いにレスターは気づくが、ほぼ同時に燭台が二つ宙に浮いて飛んできた。ロイは、ひいと悲鳴を上げて避けた。しかし、反応が遅れたレスターの額に、まともに当たる。針の無い側が当たったので致命傷にはならなかったものの、視界が流れてきた血と、痛みの反射で出た涙でにじみ…レスターは後ろにひっくり返った。


「あなたたちをこんな風に育てた覚えはありません!」

 母の涙声に、レスターは薄れる意識の中で違うと言い訳しつつ、気を失った。

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