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4-④:俺の夢

―夢を見た


 夢だと思う。

 目の前で知らない奴が笑っていた。うまく笑えているつもりだろうが、今にも泣きそうな顔で。なんだか見覚えがある顔だなあと、ぼんやりとした心地で見ていた。銀髪に淡い水色の瞳の少年。


―なあ、泣けよ


 気づけばそいつにそう言っていた。言ったというのはおかしいのかもしれない。自分の意識はぼんやりと目の前を見ているだけで、勝手に口だけが別の意思によって動かされたような不思議な感覚。するとそいつは、一瞬ひどく驚いたような顔をして、しかし堰を切ったように目に涙がたまり、こぼれ始めた。


―オレ、もうやだよ…


 嗚咽をこぼして泣き始めた少年の頭に手をやると、ぽんぽんと軽く叩くように撫でた。そして夜空を見て思う。

 届かないくらい高い空には、宇宙の広さを見せつけるがごとく、素晴らしい満天の星。

 こんな地上の悲劇など、針であけられた穴よりもちっぽけなことを示すがごとく。


 何もかもが、馬鹿馬鹿しい心地になる。

 一生懸命生きたって、どうにか状況を良くしようとしたって、結局ちっぽけな自分達の意思じゃ何も変わらなくて。世界はそのまま変わりなく動く。何の意味も持たない行為。


 だけど、自分たちはその世界のひとつの歯車として動かざるを得なくて。そのくせ、その歯車は壊れても誰も気に留めないほどの、最初からあってもなくても変わらないようなもので。いつだって世界を動かしていくのは、ごく一握りの、ここからでは見えもしないところにいる選ばれた人間たちだけで。


 俺は少年の髪の手触りと温かさを感じながら思う。

 幼い思考を持っていた頃の自分を。

 産まれてきたなら、きっとその人生には何らかの意味を持っているということ。そして何らかの使命をもっているということ。誰だったか、いつかそう聞かされたそれを本気で信じていた。そして、信念を持って自分の力を尽そうと努力してきた。


―だけど…


 俺はあきらめたように視線を下げる。

 そうやって生きていく中で分かった、一つの真実。

 人生は無意味。そして、人間が生きていることに意味を見出そうとするのは、生きることは無意味であるという世の真理から目を背けるためだということに。


『お願いだから、約束して。お前だけは、生きていてくれるよな?』

 泣きじゃくりすがってくる彼。頷きたい。けれど。


『…』

 無責任な約束など出来るはずもない。


『なあ、リアン』

 代わりに俺は少年に語りかける。


『今度生まれるなら、二人で、戦争もなんもない深海の生物になろうな…』


 今度、なんてない。けれど、こんな地獄(げんじつ)に俺たちを生み出した神よ。


―それを望むことぐらい許してほしい

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