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14-⑤:奇跡も、希望も、ないんだよ

「お前を殺せば話はすむって」

―どごおおおん!



 爆炎がアーベルに襲いかかる。アメリアの入った瓶をいくつも破壊しながら、アーベルの体は吹き飛ばされる。それをリアンは「おお!」と感心したように見ていた。


「キミのボウリョクテキ解決法、恐れ入っちゃうよ」

「セシル…」

 咄嗟に氷の結界を張ったものの、体中に火傷を負ったアーベルが体を起こし、忌々しげにセシルを見る。


「…誰がてめえみたいな野郎の嫁になんかなるか。ここにはお前ら以外、誰もいない。ここでお前らを殺せば、話は終わりだ。…それに考えてみれば、可笑しなことだ。マンジュリカの仲間だった奴が、何故今度はリトミナに協力しようとする?人間がムカつくからと言って、リトミナ内外関わらず事件を起こしていた奴が、なんで今となってリトミナに協力しようとするはずがある?アーベル、てめえ、あっさり騙されてんじゃねえよ」


 アーベルはセシルの言葉に、何も答えず立ち上がる。そして、「ふふふ」と、腹の底から込み上げてくるかのような笑いをこぼした。



「騙されてなどいない。…あえて利用されてやったんだよ」

「…」

 先程までとはうって違い、狂気を感じる気配に、セシルは思わず後ずさる。


「すべては君を手に入れるため。君が欲しいからなんだよ」

 アーベルの前髪の暗い影の奥から、おぞましい笑みが現れる。セシルはサアッと怖気だった。


「君さえ手に入るのなら、彼女が例えリトミナ滅亡を企てていようと、世界滅亡を企てていようと、喜んで協力してやるよ。君が手に入るのなら、何だってしてやる!!」

 アーベルは手を振った。すると、リアンの脇にいたアメリアと、割れた瓶の中から放り出されていたアメリア達が、一斉にセシルに向かう。


「…っ!」

 セシルは重力魔法で、アメリア達を地面にたたき落とす。そして、そのまま地面にめり込ませた。ぶちぶちと地面にめり込まされ、血と肉の塊になっていくアメリア達。


「…な!?」

 しかし、次の瞬間、青白い光が瞬くと、重力魔法の魔法陣が破壊された。そして、血と肉の塊がすみれ色の光を放ったかと思うと、一瞬後には元のアメリア達の姿になっていた。


「…くそ!」

 セシルは青白い蔓草を大量に出現させ、アメリア達を絡め捕った。吸収魔法で、アメリア達を形作る媒体と魔術式の魔力を吸収して、人体もろとも破壊しようと考えたのだ。


「…っ!」

 しかし、アメリア達の吸収魔法の方が強いのか、一瞬にして吸収し返され、蔓草ははかなく消えていく。そして、アメリア達は各々、魔法陣を展開させた。ある者は氷、ある者は炎、ある者は雷撃…。そして、それらを一斉にセシルに向けて放った。


「……っ!!!」

 セシルが身を護るために張った氷の結界は、何の意味もなさなかった。悲鳴を上げるいとますらない。セシルはすべての魔法を一身に受け、洞窟の奥まで吹き飛ばされた。



「……わかっただろう?君でも、もう私に逆らうことはできないのだよ」

 地面でうめくセシルに、足音が近づいてくる。セシルは何とか体を起こそうとするが、ひどい怪我でできそうにもなかった。そんなセシルの胸倉を、アーベルはつかんで持ち上げる。


「君に出来ることは、私に従うことだけ。私のものとなることだけだ」

「……」

 背後にアメリア達を従えたアーベルが、歯を出して気持ち悪く笑った。


「さあ、私のものになれ、セシル」

「…っ」

 アーベルは手を離す。地面に落ちて尻をついたセシルをすかさず押し倒し、その上に覆いかぶさる。そして、逃げようと身をよじるセシルの体を押さえつけた。


「君の美しさも、輝きもすべて私のものだ。私だけが得るべきものなんだ」

「…!」

 アーベルは、セシルの服を手で引き裂いた。アメリアの攻撃でぼろぼろとなっていたそれは、いともたやすくはぎ取られる。


「やめろ…!」

 セシルは、必死になって抵抗する。そんなセシルの頬をアーベルが張った。


「大人しくしてくれないか?そうしないと、君の大事な人たちがどうなるのか、分からないのかい?」

「……」

 セシルはアーベルを睨みつけようとし、しかし出来ずに目を伏せた。そのまま唇をかみしめ目を閉じて、顔だけを背けて大人しくなった。そんなセシルを見てアーベルは満足げに、にたあっと笑うと、セシルの体に唇を這わせ始めた。



「……」

 アーベルの愛撫に怖気立つ心を必死に押さえつけつつ、セシルは目を閉ざし続けた。しかし、唇を濃厚に重ねられ、セシルは餌付きそうになり、思わず目を開けた。自身の周りでは、にまにまとした表情を浮かべるリアンと、無機質な表情をしたアメリア達が輪となって自身を見ていた。


「……」

 セシルは涙目に、リアンを、アメリア達を映しながら、思う。



―どうして…

 やっとレスターと共に幸せになれると思っていた。なのに、どうしてまた、逆戻りするんだろう。いいや、どうして前以上の不幸になるんだろう?


 大切な我が子を失い、

 しかも、その原因となったのが、友達の裏切り。

 しかも、自身は大切な人を守るために、愛するレスターと引き離され、この気色悪い男の物になるしかない。


 そして、リアンという得体のしれない女の、下僕として生きる運命…。



「……」

 確かに、自分はマンジュリカの仲間として、沢山悪いこと、酷い事をしてきた。人の幸せを奪うようなことをしてきた。だから、その報いだと思う。



 だけど、これはひどすぎるんじゃない?神様。

 だって、考えてみれば、オレが悪いことをすることになったのは、神様がくれた運命のせいじゃない。




 セシルは、一筋、頬に涙をこぼした。しかし、そんなセシルに手を差し伸べる者は誰もいない。…いいや、一人だけ、いた。



――それが運命というものだからだ

 意識の奥から、声がした。セシルはよく知るその声を、すがりつくかのように聞く。


――運命(そいつら)はいつだって、俺達に希望を期待させる。もう少しだけ生きたらきっと幸せになるからと、そういう予兆を一杯寄越してくれる。そして、ある時は、つかの間の幸せを実際に寄越してくれる。…そうして俺らを絶望しかない未来に向かって、生かし続けるんだ。…この世の本質は地獄。実は希望など存在しないのに、希望をほのめかし続け、地獄の中を生かし続けさせる。それが運命(やつら)なんだ


―…

 セシルはその言葉に、妙に納得できた。自分の今までの人生が、その言葉でよく表されていたからだ。だから、今まで逆らってばかりいたその存在に、今度は自ら望んで近づいていく。その者がのばしてくれる救いの手を求めて、近づいていく。そして、セシルはその男の前に立った。



――さあ、後は俺に任せろセシル。その体を明け渡せ

―…

 セシルはどこか虚ろな目で男を見る。


――世界を、この世を破壊しよう、セシル。そうすれば、運命と言う俺達を苦しめる元凶を破壊できる。前と違って、今の俺達にはそれだけの力があるだろう?この非科学的な力が

―…

 セシルはじっと自分の手のひらを見た。やがて、それから視線を外し男を向くと、こくんと頷いた。


―後は、まかせたよ

 そして、セシルは男の手をとった。刹那、男の背から黒い触手がぶわっと湧きだし、セシルの体を包み込んだ。

『奇跡も、魔法も、あるんだよ』のパロ(?)です。

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