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The End of The World ~四国の猟犬~  作者: コロタン
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プロローグ

 荒廃した街中を、2人の男が駆け抜けていく・・・。

 いや、実際に走っているのは全身黒尽くめの男が一人・・・もう一人は自衛隊の戦闘服を着ている。

 自衛官は、腹部と右腕、右足を怪我をしているのか、黒尽くめの男に肩を借り、苦痛に顔を歪めながら足を引きずっている。


 「俺を置いて逃げてください・・・このままだと、貴方まで奴等に追いつかれる・・・」


 「何言ってんの・・・俺が君を見捨てる訳ないだろ?友達見捨てるなんてお断りだね!

 喋ってると舌噛むから少し大人しくしててくれよ・・・」


 自衛官は、周囲に気を配りながら自分を支えている黒尽くめの男に頼んだが、その男は笑いながら断った。


 「あんた、今度また子供が産まれるんだろう!俺なんか庇ってたら死んじまうんだぞ!?

 家族のもとに帰ってやってくれよ・・・ただでさえ毎回世話になってるってのに、俺のせいで死なせちまうなんて、あんたの家族に顔向け出来ないじゃないか・・・」


 「大丈夫だって、俺は死なないよ・・・そして、君も死なせない。

 俺にとって君は友達なんだよ・・・友達見捨てて自分だけ生き残るなんて俺には出来ないね!

 俺は家族を愛してるし、だからこそ絶対に生きて帰る・・・そして、君を絶対に見捨てないし死なせない。

 言っとくけど、俺はこの考えは変えないよ・・・解ったら少し静かにしててくれ。

 奴等に気付かれて俺達が襲われたら、向こうで囮をしてくれている彼らに悪いじゃないか・・・」


 肩を貸している男は、怪我をした男に言い聞かせ、自分達の来た方向を振り返る・・・微かにではあるが、銃声が響いている。

 離れた場所で誰かが銃を撃っているようだ。


 「あんたと言い、あいつらと言い・・・何で俺なんかの為に・・・」


 「おいおい、自分の事をなんかなんて言うなよ・・・さっきも言っただろ?俺にとって君は友達だ。

 彼らにとっても、君は頼れる上官であり仲間なんだよ・・・だから、皆必死に君を守ろうとしてるんだ」


 自衛官は、その言葉を聞いて涙ぐむ。


 「久しぶりに君の泣き顔を見た気がするな・・・っと、ちょっと隠れるよ・・・」


 黒尽くめの男はそう言うと、路地裏の片隅に隠れる・・・すると、彼等が進もうとしていた先から数人の人影がゆっくりと近づいてきた。

 その人影は、足を引き摺るようにある木ながら呻き声を上げている・・・周囲には腐臭と血の匂いが立ち込め、普通であれば吐き気を催すほどの匂いだ。


 「ふぅ・・・何とかやり過ごせたね・・・大丈夫?まだもちそう?」


 「えぇ・・・何とかまだ大丈夫そうですよ・・・。

 あいつらは大丈夫でしょうか・・・」


 自衛官は、銃声の鳴る方向を見て不安げに呟く・・・。


 「彼等だって、今まで君と一緒に戦ってきた仲間じゃないか・・・彼らはこの程度で死んでしまうほど弱くはないよ。

 しばらく時間を稼いで逃げるって言ってたし、今は彼等を信じよう・・・」


 2人は再度進みだす・・・だが、行く手にはまたもや人影が現れた・・・。


 「ちっ・・・見つかっちまったか・・・。

 すまないけど、ここで待っててくれ・・・すぐに片付ける!」


 黒尽くめの男は、自衛官をその場に座らせると、両手に40cm程の小型の鉈を持って人影に向かって走り出した。

 向かってくる人影は5体・・・男はまず一番手前の1体に飛び蹴りを食らわせて蹴り飛ばし、後方の4体の動きを止めた。

 巻き込まれて倒れる者、倒れた者に躓いてバランスを崩す者、黒尽くめの男はそいつ等に向かって鉈を振るい、すべての者達が動かなくなるのを確認し、自衛官の元に戻った。


 「お待たせ・・・何とか片付いたよ・・・。

 しかし、そろそろ奴等の数が増えてきたな・・・もうすぐ彼等との約束の時間だし、早く集合場所に行かないと・・・」


 自衛官に再度肩を黒尽くめの男は、腕時計で時間を確認して呟いた。


 「だから俺を置いて行ってくれって言ってるんですよ・・・そうすれば皆助かるんです・・・」


 「さっきからくどいよ・・・もし君をここで見捨てたら、向こうで戦ってくれてる彼らはどうすんのさ・・・それこそ危険な思いしたのに無駄になるだろ?

 君は大人しく俺と一緒に来れば良いんだよ・・・」


 肩を貸している男は、不機嫌そうに呟いて歩きだした。

 怪我をした男は押し黙っている。


 「さてと・・・そろそろ時間だな・・・」


 しばらく路地を歩いていた2人は、少し開けた場所にある倉庫の前にたどり着いた。

 倉庫のある通りの奥に、先程倒した奴等の仲間と思しき数人の人影が見えているが、まだ2人には気づいていないようだ。


 「ここなら隠れる場所もありそうだし、何より合流地点にも近いから良いと思う・・・。

 あと少しの辛抱だ・・・頑張ってくれよ?」


 「えぇ・・・ここまで来たら意地でも生き延びて見せますよ・・・」


 2人は互いに笑いあう。

 

 「空いているコンテナがあったら中で彼等を待とう・・・」


 「えぇ・・・銃声も聞こえなくなりましたし、あいつらもこっちに向かってるかもしれませんからね・・・」


 2人は頷き合い、物陰に隠れながら並んでいるコンテナを確認し始めた。


 「ちっ・・・鍵が掛かってるのばかりだな・・・。

 これ以上向こうに行くと、奴等に気付かれかねないな・・・」


 黒尽くめの男は、通りを見て舌打ちを打つ。

 2人の居る30m程先に、先程と同じような人影がうろついているのだ・・・数はおよそ30・・・開けた場所とはいえ、人を庇いながらでは戦うことは出来ないだろう。


 「向こうからも来たようです・・・このままでは囲まれるのも時間の問題です・・・」


 自衛官は、反対側の通りをみて声を震わせている・・・。

 

 「まだ諦めるには早いだろ・・・?」


 黒尽くめの男は、通りから隠れた場所にあるコンテナの扉の前に立つと、南京錠に手を掛けた・・・。


 「何をするつもりですか・・・!?」


 自衛官が小さな声で叫ぶ。


 「さっき外から壁を叩いて確認したけど、この中には奴等はいない・・・」


 「でも、南京錠を壊すとなると音が・・・」


 「あぁ、確実に奴等に気付かれるだろうな・・・だから、こいつを開けたら俺は奴等を惹きつけるから、君は中に隠れてくれ・・・」


 「ちょっと待っ・・・!」


 自衛官が止めようとしたが、黒尽くめの男は工具を使って南京錠を破壊した・・・。

 南京錠の壊れる音が周囲に響き渡り、それを聞きつけた者達の歓喜にも似た唸り声が轟く。


 「ここで彼等を待っててくれ・・・俺は奴等を出来るだけ引き離すから・・・」


 「待ってください!この数じゃ貴方は・・・」


 自衛官が引き留めようとしたが、黒尽くめの男はコンテナの扉を開けると、自衛官を中に放り込んだ・・・。


 「まだ死ぬつもりは無いって言っただろ?櫻木さん・・・俺は、君に死んでほしくないんだよ・・・」


 黒尽くめのは優しく微笑んでそう言うと、コンテナの扉を閉めてロックした。


 「待ってくれ!あんた1人でどうしようってんだ!!?頼む、行かないでくれ・・・!!」


 櫻木と呼ばれたら自衛官は、怪我で動かなくなった足を引き摺りながら入り口に近づき、大声で叫んだ。

 だが、黒尽くめの男の返事は無い・・・すでに行ってしまったのだろう。


 「ふざけんなよ・・・なんで毎回あんたはそうなんだ!俺と違って家族が居るんだろう!?待っててくれる可愛い奥さんや子供達・・・それに、また家族が増えるって喜んでたじゃないか・・・!

 くそっ・・・なんで俺はこんな大事な時に怪我なんか・・・井沢さん・・・無事に帰ってきてくれ・・・!!」


 櫻木は、涙を流しながら叫ぶ・・・だが、その声は密閉されたコンテナの中に虚しく響くだけだ・・・。

 コンテナの外からは、井沢を追っているであろう者達の叫び声が響き、かなりの数の足音も聞こえてくる・・・。

 この数に囲まれては、まず生きては帰れないだろう・・・それが解っているからこそ、櫻木は泣いた・・・。

 櫻木はしばらく涙を流していたが、腹部からの出血が酷く、程なくして意識を失った・・・。

 

 

 

 


 


 


 

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