71.恋する幼馴染
颯希 side
「ナンデスカソレ、漫画ですか、めちゃくちゃ運命的な出会いじゃないですか。」
裕先輩から事のあらましを聞いた俺は思わず片言になり、口元を手で覆いながら深いため息を吐いた。
「後輩×先輩……いや、ここはやっぱり先輩×後輩ですかね、世間的に一時年下攻めなるものが一世を風靡しましたがやはり昔からの王道として年上攻めに甘やかされてトロトロにされる年下受けが俺としては大好きなわけでちょっとSっ気のある裕先輩に翻弄される人懐っこい愁とか、そんな愁に逆に振り回される裕先輩とかが見たい！！」
「おーい、颯希、戻ってこーい。」
「はっ、すみません、ついトリップしてました。」
「いや、まぁもし俺がお前と同じ立場だったなら同じようになってたろうから全然良いんだけどさ、俺としては早く愁には別の相手見つけて欲しいんだよね。」
「で、いつ付き合うんですか？」
「お前俺の話聞いてた？」
思わず自分の世界に浸っていれば裕先輩によって現実に呼び戻された。
「えー、いいじゃないですか。付き合っちゃいましょうよ～。」
「いやいやいや、俺はあくまで第三者的立ち位置で見たいわけ、自分が含まれるカップリングとか全然、全く萌えないので却下。」
そう、断言する裕先輩を見て「ちぇー」と、口を尖らせればパコん、と軽く頭を叩かれた。
「誰か愁の相手で良い奴いないかなー。」
「あー……それならすばるんとか、」
と、言いかけてハッとする。
いやいや、確かにあの二人何だかんだ面倒見の良いすばるんと、誰に対しても分け隔てなく接する愁とで良いコンビとは思っていたけど、ダメじゃん、すばるんは健くんの恋人じゃん、あーて言うか身近にこんな萌案件が広がっているのに勝手に俺がそれを伝えるのもダメだし、裕先輩と語れないじゃん！！
そう、俺が葛藤していれば
「いや、昴はダメだろー。相手いるし。」
「へ？」
「あれ、もしかしてお前聞いてない？」
「あ、え、いや、知ってます。」
「だよなー奏汰が知ってるなら颯希にも話してるだろうなとは思ってた。」
「え、あれ、裕先輩知って……？」
戸惑う俺を他所に少し気まずげに
「あー、健斗の恋人なんだろ。」
と、言った。
「え？！」
「ほら、うちの兄ちゃんと健斗友達だからたまたまね、4人でばったり出くわしたことがあってそれでまぁ何となく？察するじゃん。」
そう、頬をぽりぽり掻きながら言う裕先輩の言葉に思わず感極まって
「裕先輩！！もう、もう、俺ずっと誰かと話したくてうずうずしててっ！」
と、手をガッシリ掴む。
そんな俺が口を開くよりも先に裕先輩が空いていたもう片方の手で俺の口を塞いだ。
「あー、その話はやめよう昴にも悪いし、健斗のそういった話しあんまり乗り気じゃない。」
え、さっきまで愁の新しい相手を探そうとしていた人が言うセリフですか？
と言うか、そんなこと言うの珍しい
いつもなら絶対語り出すのに……
そう言えば裕先輩と健君との関係も詳しく知らないんだよな、何だかただのお兄さんのお友達って言う距離感でもなかったし……
はっもしかして裕先輩って健くんの事が……
「颯希が考えているようなことは絶対ないから。」
「え、何故わかって、」
「お前顔に出すぎ。いいか、絶対俺が健斗をとか有り得ないから。」
そう言う裕先輩の顔は笑顔なのに目の奥が笑っていなくて自然と背筋が伸びた。
けれどやっぱり何かあると思うんだよな……
腐男子の勘……って言ったら当てにならないって笑われるんだろうけど。
いつかそう言った話も聞かせて貰えたらいいな。
そう考えていれば
「じゃあこの話は終わり！ほら、折角カラオケきたんだし推しカプのイメソン歌おうぜ～。」
と言う、裕先輩の言葉に「ですね！」と、返してその日は夜までカラオケとオタ話に花を咲かせた。
