8.恋する幼馴染
「颯希帰ろうぜ。」
「あ、ごめん。今日から漫研の仮入部期間なんだ…」
そう眉を下げて言う颯希にそうか、と応えようとした俺の言葉は
「颯希~。」
と、呼ぶ声に遮られた。
「誰だあいつ。」
「昨日言ってた俺を部活勧誘した漫研の先輩だよ。」
「ふーん。」
そんな会話をしていればその先輩とやらが、ずかずかと教室に入ってきた。
「仮入部1日目だからな!迎えに来たぞ~。」
そう言ってナチュラルに颯希の頭をくしゃっと撫でるもんだからつい、イラッとしてしまい、
「何か馴れ馴れしくねぇか。」
なんて苦々し気な言葉が口から零れた。
「あ、はは~。」
「ん?もしかして彼が昨日言ってた運動部の主将と追いかけっこしていた幼馴染?」
「追いかけっこはしてねぇっす…」
「はい!そうちゃ、じゃなくて彼が俺の幼馴染の松永奏汰君です。」
「幼馴染、ねぇ…」
そう言いながら、俺のことをジロジロ見てくるこの先輩の、視線が居心地悪くて、けれど目を逸らしたら何だか負けた気分になる!なんて、変な意識を抱いてしまう。
そんな俺を見て、ふっと笑ったあとに
「わっ、」
ぐいっと颯希の肩を抱いて
「じゃあ颯希は貰ってくね、タダの幼馴染君。」
なんて、幼馴染を強調して言うもんだから、俺は先輩だとか、そういう事は、頭の隅に追いやられて思わずギンっと目の前の男を睨みつけていた。
そんな俺と、先輩のただならぬ空気を察知したのか「ほ、ほら、先輩行きますよー。そうちゃん、じゃあまた明日!」と言って、颯希は足早に、教室から出ていった。
一人ポツン、と残された教室に俺の苦々し気な舌打ちだけが静かに響いた。