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青春エトセトラ  作者: 羽柴 歌穂
第1章
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8.恋する警察官

 昴 side


「おい昴、お前そのアザどうした。」


 次の日いつもの時間、公園にやってきた健斗さんが俺のアザを見て言い放った疑問に


「別に、ちょっと転んだだけだよ。」


 と答えた。

 そんな俺に本当か?と聞いてくる健斗さんを心配させちゃいけないと思って本当だよ綺麗な笑顔で返せばそれ以上健斗さんは何も言わなかった。


「なぁ昴何か困ったことがあったら俺に真っ先に頼れよ。」

「別に困ったこととか特に無いし......」


 そう、困った事じゃない。

 これは日常なんだ、だから何にも困った事なんかじゃない。


 こんな事で健斗さんに迷惑かけちゃいけないんだ。


 物心ついた頃から父親はおらず母親と二人だけの生活だった。

 母さんは男にだらしのない人で夜のお店で働きながら何人も男を取っかえ引っ変えしては捨てられて借金や大量の恨みを抱えていた。


 そんな母さんを見てきっと母さんは寂しいんだ、だから人肌を求めずに居られないんだって子供ながらにそう思った。

 昔、1度だけ父さんのことを聞いてみたことがある。

 そうしたら見たことも無い程優しくて幸せそうな顔で話して聞かせてくれた。


「あんたの父さんは本当に優しくて、でもちょっと抜けてて温かい人だった。母さんはそんな父さんが大好きだったのよ。」


 父さんと母さんは高校の先輩後輩で、2人とも大学には行かず高校を卒業して直ぐに同棲しながら働き始めたらしい。

 貧乏だったけれど幸せな家庭。

 けれど俺が生まれた年の春、父さんは働いていた工場の事故に巻き込まれて帰らぬ人になった。


 そうして俺を一人で育てなくては行けなくなった母さんは夜の世界に入った。




「お母さん、最近ずっと家にいるね。」

「何よ、いちゃ悪いの?ここは私の家よ。」


 ここ1週間ほど母さんが家にいて俺は公園に行けずにいた。

 母さんの機嫌がすごく悪くてきっとまた男絡みなんだろうと思う俺の予感は当たっていた。


「何でいつもいつも私が捨てられるのよ......私の何が悪いのよ?散々尽くしても尽くしても最後には決まって同じ言葉で振られる。コブ付きは結婚とか考えられないって!」


 そう言って俺の方をキッと睨む母さんに体がビクっと反応してしまう。


「ほんっとうに......何であんた何か産まれてきたんだろう、こんな事になるなら産まなきゃよかった!!」

「おか、あさん」

「あんたのせいで私の人生めちゃくちゃよ!返して!私の人生返してよ!!」

「っ~」


 なんで、なんでそんなこと言うの?

 どうしてなんで......


 そうやって頭の中でなんでって単語がぐるぐる回る。


 そんな俺の体を母さんは思いっきり押しやった。


 ドンっ


「っぶね~」

「へ」


 背中への強い衝撃に備えて目をぎゅっと閉じた俺を受け止めたのは冷たい床じゃなくて暖かな、よく知っている温もりで


「じゃあこいつ俺が貰ってもいいですか。」


 そんな声が頭上から聞こえた。


「だ、誰よあなた!?」

「やだなーただのお巡りさんですよ。」

「けん、とさん......」

「警察......?」


 母さんの戸惑う言葉を無視して腕の中の俺を見ながらぽんっと健斗さんに頭を軽く叩かれた。


「なんでここに」

「んー近所の人から通報があってな。」



 俺の疑問にそう笑顔で返す健斗さん。

 そんな健斗さんに


「何で警察が出張ってくるのよ!!関係ないでしょ、その子は私の子よ、返して!!」


 母さんが強く打った。


「って…」

「おかあさんやめて!!」

「離しなさいよ!返しなさいよ!!人の子に勝手に触らないでよ!!!」


 そう言って喚く母さんから俺を隠すように抱きかかえる健斗さんに俺は何も言えない。


「いらないって言ったのはあんただろ。」

「なっあ、あれは言葉に出ただけで本当にそう思ってるわけないじゃない!」

「んだよそれ!!それでもな、言って良いことと悪いことがあるんだよ!あんたこいつの母親だろ、何でそんな事言うんだよ何で、なんで平気でそんな傷つけるようなこと言うんだよ!!そんな言葉を母親に言われてこいつがどう思うか何で考えてやれないんだよ!!!」

「…るさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!」


 そう喚く母さんにすら何も言えずにいる俺は情けない小さな子供だ。


 その後暴れ回る母さんを後から駆けつけてきた警察官と健斗さん二人で抑え込みそのまま警察病院へ連れていかれた。

 母さんはそこでノイローゼと診断されそのまま地元の病院へ入院することに、俺は近くの児童保護施設へ預けられる事になった。


 母さんと引き離されることに不安がないと言えば嘘だったけれど、そんな不安も毎日施設に様子見だって言いながら足を運んでくれる健斗さんの存在が吹き飛ばしてくれた。



 健斗さんは俺のヒーローだ。



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