58.恋する幼馴染
「おー松永、こっちこっちー。」
「悪い、遅れた。」
「いや、俺らも今来た所だから。」
「そうそうー。」
「じゃあ、行くか。」
そう言った木村の言葉に中田と大杉と俺は軽く頷いて歩き始めた。
月曜日、放課後いつものように颯希と部室に行こうとしていたら突然木村に呼び止められた。
「なぁなあ松永、今週の土曜って空いてる?」
「んだよ急に。」
「いやさ、土曜日俺らの1個下のやつらの追い出し試合があるんだと、ちょうど公立の奴らの受験も終わったらしくてさー。」
その言葉に去年もこの時期に追い出し試合をしたことを思い出す。
あれからもう1年経ったってことか……
「俺らの時もOBの先輩ら来てくれてたじゃん、だから今年は俺らも行こうかなーって、ほら、俺達はともかくお前全然部活に顔出してねーし、後輩たちも会いたがってんだよ。」
そう言う木村の言葉にうっと言葉を詰まらせる。
確かに全然部活に顔を出してねー……けど
「悪い、土曜無理だわ。」
「はぁ?何で。」
「こいつと出かける約束してんだよ。」
そう、後ろの方で俺と木村の会話を終わるのを待っていた颯希を指さした。
「お前ってやつは……」
「んだよ。」
「いや、確かに先約は大事だぞ、でも大体いつも向井と一緒にいるじゃねーか!たまにはこっちにも構えよ!!男の友情優先しろよ!!!」
「うわ、ちょ、おま、揺さぶんなって!」
思いっきり肩を掴まれ前後に揺さぶられている俺にさっきまで黙って聞いていた颯希が「そうだよ~。」と、のんきびり口を開いた。
「いいじゃん、後輩くん達の試合見に行ったげなよ。」
「向井っ!!」
「追い出し試合は一回しかないんだし、別に画材買いに行くくらい俺一人でも行けるし。」
「颯希……」
「それに後輩くん達にはそうちゃんから会いに行ってあげないと会えないんだし、俺とは毎日会えるんだからさー。」
「ん?」
「それもそうだな。」
「んん?」
「て言うわけだから木村、土曜日行くわ。」
「うん、なんだろう。松永が来てくれるのは嬉しいし、後輩達もすげー喜ぶと思うんだけど、何だろ、お前らの会話。すごい違和感。」
「「なにが?」」
「いや、いいわ。深く考えるのはやめとこう。中学の頃から思ってたけどお前らの距離感やっぱおかしいわ……。松永の方が結構やべーって思ってたけど向井も向井でそれ無意識で言ってるってんなら大概だわ。」
「あぁ?やばいってなんだよ。」
「あーあーこの話終わり!じゃあ松永ちゃんと土曜来いよな!!」
「わーったよ!」
って言うやりとりをして今日で6日、つまり約束の土曜日ってわけだ。
久しぶりに中学のグラウンドに顔を出せば顧問からは「元気にやってるか―、今文化部なんだって?体なまってるんじゃないのか。」なんて頭をガシガシ撫でながら言われ、後輩たちからはもみくちゃにされながら「何で全然顔出してくれないんですか!」と言う風に口々に文句を言われた。
そうやってひとしきり騒がれた後、追い出し試合が始まり、「久しぶりにどうだ」なんて言う顧問の一声によって卒業生も混じった混合チームで日が暮れるまで思いっきりボールを追いかけた。




