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青春エトセトラ  作者: 羽柴 歌穂
第1章
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番外編《それぞれの大晦日2》

 side 深月


「だー!!もうダメだ!集中力が切れた。」

「まだ始めて1時間も経ってないよ?」

「30分は経ってるからセーフだろ。」

「いや、セーフの意味がわからないし……」

「大体、なんで大晦日まで勉強しなきゃ行けねーんだよ!」

「受験生だからでしょ。」

「受験生にも息抜きは必要だろ?!」


 ガツン


「そう言ってあんたはいつも息抜きばっかりでしょーが。」

「って~。母ちゃん!急に入ってきて叩くなんてひっで!て言うか勝手に入ってくんなよなー。」

「まー、この子ったら!折角受験勉強を頑張っている息子達を労わろうとわざわざジュースと夜食持ってきてあげた母さんに対する口の利き方がそれ?」

「誰も頼んでねーし!」

「おばさん、ありがとうございます。頂きます。それと、毎年お邪魔してしまってすみません。」

「は~本当にみー君は良い子ね、うちの雅也とは大違い!全然気にしなくていいのよ、誘ってるのはこっちなんだから。今年もご両親、帰って来れないんでしょ?年越しに一人だなんてそんなの寂しいじゃない、大人数でワイワイ騒いだ方が楽しいしね!それに今年は受験勉強まで見てもらっちゃって……」


 そう言って雅也のお母さんがじろりと雅也の方へ視線を向ける。

 その視線に対し「な、なんだよ。」とたじろぐ雅也に「別に~。」と言って軽く微笑む姿は何かを企んでいる時の雅也の顔と重なってこの親にしてこの子あり、なんて言葉が頭に浮かんで思わず笑ってしまった。



 小学生の頃、転校してきてから何かと俺に構う雅也に連れられて、初めて雅也の家にやってきてからと言うもの、何故か雅也の家のお母さんにすっかり気に入られた俺は、行くたびに夕飯をご馳走になるようになっていた。


 それを聞いたうちの母親が菓子折り持って挨拶に来た時、雅也のお母さんが言った「そんな大したこともしていないのて気にしないでください、うちの子とも随分仲良くしてもらってて本当に雅也ったら家でいつも深月くんの話ばかりするんですよ。共働きだと大変でしょう?いつでも頼ってくださいね。人生助け合い、お互い様ですから。」その言葉を聞いてあ、雅也はこの人の息子なんだなって何だか変に納得してしまった。


 それからも雅也のお母さんは俺の事を気にかけてくれ、こうして毎年、忙しい両親の代わりに年越しを一緒に過ごそうと家に招待してくれるのだ。


「いえ、本当にいつもありがとうございます。母もきちんとお礼を伝えておいてと言っていましたので、また仕事が一段落したらご挨拶に伺わせてもらいます。と、お正月は過ぎちゃうかもしれないんですけど……」

「そんな毎年律儀にして頂かなくてもいいのに~。」


 そう笑いながら「じゃあ勉強頑張りなさいよ~。」と言って部屋を出て行った雅也のお母さんを見送り再び勉強に集中しようとノートに視線を持っていく途中、こちらを見ていた雅也と視線がぶつかった。


「何?」

「いや、別に。」


 そう言いながらも視線を逸らさない雅也にこっちもこっちで視線を外せなくなる。

 そうして数秒視線がかち合ったまま無言の状態が続いた。

 その沈黙を先に破ったのは俺の方だった。


「それにしても意外だったな~。」

「何が?」

「雅也が体育教師目指してたこと。」

「そんなに変か?」

「んー、変って言うか教師やってる雅也が想像できない。」

「これは俺は喧嘩売られてんのか?」

「ははは、素直な俺の気持ちだよ。」

「たくっ。そう言うお前はあんまり違和感ねーよな。」

「何が?」

「大学で心理学専攻するんだろ?確か臨床心理士だっけか。」

「おぉ、すごいね、雅也。ちゃんと俺の進路覚えてくれてたんだ。」

「お前やっぱりバカにしてるだろ。」

「失礼な、俺はいつだって雅也の事、愛すべきバカな幼馴染だなって思いながら接してるよ。」

「ほらバカって言った!!本当にお前のその俺に対する態度って時たま雑だよな。」



 たくよーなんて言いながら未だぶつぶつ言う雅也を見て微笑みながら俺は先程感じた疑問を投げかけた。


「で、結局なんだったの、さっきのあの視線。何か言いたい事、あるんじゃないの。」


 そう聞けば先程は即座に反応した癖に今度は小さく目を左右に動かして、小さくため息を零しながら口を開いた。


「別にそんな大したことじゃねえんだけど、お前と母ちゃんとのやり取り見てたらなんやかんやで長い付き合いになるんだなーって思ってよ、したらなんか、なんつーか、上手く言えねーけど大人んなってもこんな関係が続いてくんかなってふと思っただけだよ。」


 予測していなかった雅也の言葉に思わず驚いてしまって呆気にとられてしまう。


「っ、雅也って本当に、突拍子もないこと言うよね。」

「はぁ?」



 そんな会話をしていた矢先に、携帯が小さく光ったのを視界に捉えて咄嗟に手を伸ばした。


「あ、裕からだ。」

「あんだって?」

「明日、神社に初詣に行きませんかって。」

「お!いいじゃねーか!」

「颯希や奏汰も来るってさ。」

「まじか、じゃあ俺達が行かないわけにわ行かないな。」

「そうだね。」


 そう言って先程と違って爛々と目を輝かせる雅也を見て思わず笑ってしまう。


「んだよ、深月。何笑ってんだ?」

「んーん。さて、じゃあ雅也。」

「んぁ?」

「明日の初詣の為にもここまで、終わらせとこうか。」

「ウソダロミツキサン。」

「残念ながら嘘じゃないんだよね、これが。」

「鬼―悪魔―!!」

「はい、四の五の言わず席に着く!」


 そうやって、観念した雅也に満足気に頷いて自分のノートに視線を向ける。


 うん、明日が楽しみだ。

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