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青春エトセトラ  作者: 羽柴 歌穂
第1章
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33.恋する幼馴染

「うわっ、もうこんな時間か、やべぇそろそろ帰らないと。」

「えー!健くん帰っちゃうの?」

「夕飯食べてけばいいじゃん。」

「そうだよー!一緒に食べようよ~。」


 時計を見て慌てて帰る準備を始めた健兄を俺と颯希が引き止める。

 けれどそんな俺たちの誘いに心底申し訳なさそうに手を挙げながら


「悪いな、先約があるから。」


 と、言った。

 そんな健兄に先約があるなら仕方ねぇよな、とだけ思った俺とは違って颯希の方は何か閃いたようで、ニマニマしながら健兄に言葉を投げかけた。


「先約って、もしかして健くん彼女さん?」

「は?」

「んなっ!?」

「あはは、健くん顔真っ赤だよ~。ねぇ、当たり?当たり?」


 そう言いながら健兄にズズいと近づいていく。

 トマトみたいに顔を赤くした健兄がそんな颯希の頭を片手で掴んで


「さ~つ~き~。大人をあんまりからかうもんじゃねーぞ~。」

「わーーー。」


 わしゃわしゃと掻き撫でた。

 そうして、やっと颯希の言葉が脳内に辿り着いた俺は思わず大声で思った言葉を口に出す。


「え、健兄恋人できたのかよ?!」


 あの健兄に恋人?

 小さい頃から脳筋で恋愛のれの字すらなくて、スポーツは大人顔負けなのに恋愛偏差値は小学生並みどころか小学生以下だと母さんから嘆かれていた健兄に恋人??


 あまりにもそう言った事に興味を抱かないからもしかしたら不能なのかもしれないと、父さんに本気で母さんが相談していた健兄に恋人???


「おいおい、奏汰くんよ、思ったこと全部口に出てんぞ、お前本当に失礼な奴だな……あ~まぁ、うん、それもまたこっち戻ってきたら話すわ!じゃあな!!」

「あ、逃げた。」


 バタバタバタバタバタバタ


「お前くれぐれも叔父さん、叔母さんには言うなよ、颯希の叔父さん、叔母さんにもだかんな!絶対だかんな!!」

「はいはーい!」

「言ったら奏汰の恥ずかしい話がご近所中にばら撒かれるからな!!」

「何で俺!?」

「じゃあな!戸締りちゃんとしろよ!」


 そう言って目にも止まらぬスピードで健兄は去っていった。


「嵐みたいだったね。」

「その嵐みたいなのを起こしたのはお前の発言だけどな。」

「えへへ~。それにしても健くんに彼女かぁ、どんな人だろうね!」

「あー、想像出来ねぇ……。」

「ふふ、確かに。」

「にしても、お前よく先約が恋人だって分かったな。」

「え~だって先約って言った時の健くんの顔すっごく愛おしいって気持ちが溢れてたんだもん!あれは絶対彼女さんの事思い浮かべながら出た言葉だよ。」

「ほーん。」


 そう言う颯希の顔はドヤ顔で俺は颯希にバレないよう小さくため息を吐き出す。


 他人の事に関してはこうも察しが良いのに何で自分に向けられる好意には鈍感なんだろうな……


 いや、気づかれても困るけど。


 そうやって葛藤している俺の心なんて相変わらずちっとも察することの無い颯希は「お腹すいたしご飯食べよか~。」だなんて俺の方をそれはもう満面の笑みで振り返りながらリビングへと歩いていった。


 そんな颯希の後ろ姿を見て、俺はまた小さくため息を零した。


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