29.恋する幼馴染
「あれ奏汰、どうした?」
「ちょっと飲み物買いに、ヒロ先輩こそどうしたんですか?」
「兄ちゃんから電話がかかってきてたから折り返してたんだよ。」
「そっすか。」
あの後店から宿に戻り、温泉でゆっくりして部屋に行けば既に布団が敷かれておりそのまま布団に倒れ込んだ颯希と部長は今日1日はしゃぎ疲れたのか途端に寝息を立てて寝てしまった。
そんな二人を見て「子供みたいだねー。」と笑う深月先輩に「ちょっと飲み物買いに行ってきます。」と言って部屋を出て自販機でスポーツドリンクと炭酸飲料を交互に見て吟味していれば前方からヒロ先輩がやってきたのであった。
電話をしていたと言うヒロ先輩の手には確かに携帯が握られており、このまま部屋に戻るのだろうと思い会話を切ったものの何故か戻ろうとしないヒロ先輩を少し不審に思いながら再び自販機に向き合い悩んだ末に決めた炭酸飲料のボタンを押し、口に含んだ瞬間、ヒロ先輩が再び口を開いた。
「お前さ颯希の事好きだよな。」
「ぶほっ、げほ、ごほごほ、」
「うっわ、汚ねえな、おい。」
「なっ、ん、だ、だれのせいだと……!!」
「ははは、顔真っ赤だぞ。」
そう言って悪びれもせず指摘してくるヒロ先輩を咄嗟に睨みつける。
こ、の人は!!
一体何を言い出すんだ?!
急に颯希の事好きだよなって!
突然のヒロ先輩の言葉に頭の中は大混乱で咄嗟に思わず俺もヒロ先輩に対して聞き返してしまった。
「そう言うヒロ先輩はどうなんすか。」
「ん?俺は好きだぜ。」
「へ。」
「颯希の事。」
「っ、」
ひゅっと喉が鳴る。
初めて会った時から颯希にちょっかいをかけていたこの人が颯希の事を好きなのではないだろうかだなんて、一時は考えていたこともあった。
けれど二人のやり取りを見ていて、少なくともヒロ先輩が颯希に対してそう言った感情は抱いてはいないんだろうと俺は勝手に安心していたんだ。
それなのに、先輩は今はっきり俺の前で颯希を好きだと言った。
そんなの
そんなのって
そんなのだって困る
だって俺はヒロ先輩の事、気に食わない所は多々あるけれどそれでも部長や深月先輩みたいに頼りになる先輩だって、好意を抱いてしまっていたから。
初めて会った時、不敵な笑みで宣戦布告のような事をしてきた時みたいに、ヒロ先輩の事を敵だって考えられなくなってしまっていた、から。
そうして固まっていた俺に何を思ったのかニンマリ人の悪い笑みを浮かべてヒロ先輩は続けてこう言った。
「可愛い後輩としてな!」
「は」
「当然だろ。でもお前の颯希に対する好きはどうやら違うみたいだけど。」
「な、ななななななだ、騙したな!」
「騙したなんて人聞き悪いな~勝手に自爆したんだろ。」
「うっ、」
「俺は颯希の事好きだよなって言っただけでそれがライクかラブかなんて言ってねぇもん。」
「うぅ、」
「そんな俺の言葉に対して素直に反応した奏汰が悪い。」
言い返す言葉もなく俺は頭を抱えてその場に座り込んでしまう。
「まぁでもお前分かりやすいからね、そんな落ち込むなって。どーんまい。」
そう言って人の気も知らないでぽんぽん頭を軽く叩いてくるヒロ先輩の手を振り払う力も無く俺は言葉を吐き出す。
「い、いつから気づいて。」
「え?最初からだけど。」
「最初からって、」
「颯希にお前の存在を聞いて知ってから。」
「何なんすかあんた、どんだけ察し能力高いんすか?!」
「いやいや、お前が分かりやすすぎるだけだからね?」
「え、じゃあ今まで颯希にちょっかいかけてたのも、」
「勿論わざとだよ。」
「俺に対してただの幼馴染くんって言ってきたのも、」
「あぁ、あれね。颯希から奏汰を部活に誘ったけど無理そうですって聞いたからそれじゃあ少し煽れば単細胞っぽそうだし入部してくれるかなって思って。」
「ひっでぇ!」
何だ、要するにあれか?
俺はヒロ先輩の掌で転がされてたってわけか?
うわぁ考えたくねぇ……
と、言うか
「なんで急に切り出してきたんすか。颯希の事俺がす、好きってこと。」
そうだ、最初から俺のこの気持ちがバレていたんだとしたら何で今更急に確認するみたいなことを言い出したんだ……
この人は何がしたいんだ。
そう、思った疑問をそのままヒロ先輩に伝えれば
「いや、お前ら全然進展しねーし。こうなったら先輩として俺が一肌脱いでやろうかなって思ってだな、」
「余計なお世話です!!」
あんた、面白がってるだけだろ!!
ただ引っ掻き回したいだけだろ!!
なんて叫びは一応心の中だけで留めておいた。




