24.恋する幼馴染
「お風呂あがったよ~。」
「お、まえなぁ……」
「何?」
俺の呆れた声に対し何故そんな声を出されるのか分かっていない颯希がコテンと首を傾げる。
可愛いな、畜生
……じゃなくて
「ちゃんと髪乾かさないと寝癖が酷いっていつも言ってんだから髪くらい乾かせよ。ポタポタ垂れてんじゃねーか。」
そう、俺が言い終わらないうちにズカズカと俺の前までやってきて颯希は突然、ドライヤーを突き出してきた。
「うん、だからそうちゃんが乾かしてよ。」
「はぁ!?」
「だって折角泊まるんだもん少しでもそうちゃんとお喋りしながら過ごしたいじゃん。」
「いや、ドライヤーの音がうるさくて会話にならねーだろ。」
「もーそう言うのいいからほら早く早く。」
そう言って持っていたドライヤーをコンセントにさし、無理やり俺の手に握らせる。
こうなった颯希はてこでも動かないのを分かっているので、小さくため息を吐きながら「おら、座れよ。」と言えば、嬉しそうに顔を輝かせながら俺の足の間に入ってきた。
「そーちゃーん。」
「んだよ。」
「呼んだだけー。」
「はぁ?」
そんなやり取りを何が楽しいのか髪を乾かしている最中ずっと繰り返す。
けらけら笑うたびに揺れる颯希の髪と同時に香るシャンプーの匂いに煩悩が溢れだしそうになるのを抑えるのに必死で、素っ気ない返事しかしない俺に対しても特に気にすることのない颯希に若干の理不尽な怒りを込めて頭を思いっきり掻き乱してやると「いたいいたい」と小さく抗議の声があがった。
そうして大分水分が飛んだ颯希の髪を確認してこれでいいだろうと、区切りをつける。
「おら、乾いたぞー。」
「へへ、ありがとうそうちゃん。」
「たくっ、じゃあ布団敷くか……って、なにしてんだお前。」
布団を敷こうと立ち上がった俺とは別に何故か俺のベッドに入り込む颯希に思わず固まって出た言葉は思いの外硬かった。
「えー昔みたいに一つの布団で一緒に寝ようかなって思って。」
そう言って「ほら、そうちゃんも早く早く。」なんて言いながら布団を捲って誘ってくる颯希の言葉に再び固まっていれば、いつまで経っても動くことのない俺に痺れを切らした颯希がベッドから立ち上がり、グイッと俺の手を引きながら俺を布団に引きずり込んだ所でハッと覚醒する。
「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!もう高校生だぞ、第一ベッドで二人分寝るスペースなんてねーし。」
「まぁまぁ。」
こっちの気もしらねーで!!
とでかかった言葉はぐっと飲み込む。
「ダメ……?」
うぐっ……
そんな顔をされたら突き放せる筈もなく、渋々俺は降参した。
「やっぱり小さい頃と違って狭いねー。」
「お前がでかくなり過ぎなんだよ。昔は俺より小さかったくせに……。」
「そうちゃんは小さい頃はおっきかったのに伸び悩んでるよね~。」
「っせ!まだ成長期があるかもしんねーだろうが、俺は諦めねぇ……!」
「あはは、がんばれ~。」
そんなたわいも無い会話を続けていれば段々颯希の声から覇気が無くなっていき、そうして完全に返答が無くなった横を見れば、すーすーと寝息を立てて幸せそうに眠る颯希の顔がそこにはあった。
「間抜け面。」
そう、前髪を掻き分けながらぽつりと零れた声は思いの外柔らかくて、自分で出したその声音に途端に恥ずかしくなる。
そうして眠る颯希の頭を撫でながら
「ありがとな……。」
と、呟いて、そのまま俺も眠りへと意識を預けた。




