14.恋する幼馴染
side 颯希
「いや~それにしても颯希が兄ちゃんのファンだったとはな~。苗字一緒だから知ってる人は知ってるし、気づいてると思っていたけど案外気づかないもんなんだね。」
「うっ、だってそんなまさか同じ苗字ってだけで兄弟だなんて思うわけないじゃないですか!」
腐男子バレしたと、焦っていた俺に突然の爆弾発言を投下した裕先輩を引きずって入った喫茶店。
そこで注文した珈琲やケーキを食べながら、俺は裕先輩に先程の爆弾発言の内容を事細やかに聞いて、今に至る。
「て言うか、颯希って生粋の兄ちゃんファンだったんだね。いや、入部した時に好きな作家は笹原龍だって言ってたからファンだってのは知ってたけどさ、まさか世に出した作品全部揃えているどころか兄ちゃん経由でアニメにハマったり、別名義の作品にまで手を出すほどだったとはねー。」
そうニヤニヤしながら言う裕先輩の視線が気恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
「うぅ、そう改めて言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいです。」
「なんで?全然悪いことじゃないし、むしろ弟としては兄の作品をこんなに愛してくれているんだってのがすごく嬉しいわけよ。」
「でも、本当にあの龍先生と裕先輩がご兄弟だったなんて…。今でも信じられません。」
「えーそう?」
「はい。あ、でも確かにご兄弟だって知って見てみるとどこか面影が…あるような、ないような。」
「ふふ、何それ。これでも結構似てるって言われるんだけどなー。」
そう言う裕先輩は面白そうに笑うから俺もそれにつられて笑う。
その後も裕先輩に龍先生の事を聞いたり、龍先生の作品の話をしたりして盛り上がっていたらいつの間にか日が暮れてそろそろ帰ろうかと言う裕先輩の声に倣って俺も席を立った。
「はー楽しかった!ここの珈琲とケーキも美味しかったし。良いお店知ってるんだねー颯希は。」
「本屋の帰り道にたまたま見つけて以来俺のお気に入りの場所の一つなんです。」
「そっか。」
「はい。」
そうしてお店を出て数歩、歩いた先の曲がり角、俺と裕先輩の家は反対方向にあるのでここで別れる…別れるのだが…
「あ、あの、裕先輩!」
俺の大きな声を聞いて家に向けて歩いていた裕先輩が立ち止まり振り返る。
「きょ、今日のこと黙っててもらえますか?特にそうちゃんには。」
そうちゃんの部分を強調して言えば裕先輩はきょとん、とした顔をする。
「ん?颯希が俺の兄ちゃんのファンって事?」
「いや、それは知ってるんでいいんです。そっちじゃなくて、その、えっと、俺がふ、腐男子だってこと…!」
そう俺が言えばポカンと裕先輩は
「あー、そっちね。大丈夫大丈夫言わない、言わない。」
なんてへらへらした顔で言う。
「軽いな…。」
「だーいじょうぶだって!でも意外だな、颯希が奏汰に隠し事できるなんて。」
「どう言う意味ですか。」
「いや、二人って生まれた時から一緒なんだろ?だから二人の間には隠し事なんて何にもないどころか隠し事なんてできないんじゃないかって思ってたからさ。」
「うっ…」
確かにほとんど隠し事は無いけど…
と言うか裕先輩の言うように、秘密にしていても何故かバレちゃうし俺も分かっちゃうんだよな…
でも…!
流石に腐男子なんて事言えるわけないし、そもそもそうちゃんにはBLという単語を知らない、その手の知識とか無いだろうからこれも隠せてる所があるし、自ら言う必要も無いというか、もしそうちゃんに引かれたら俺絶対立ち直れない!!
「と、とにかくダメなものはダメですから!約束してください!」
「言っても大丈夫だと思うんだけどな~。」
そう俺が言った後にぽつりと言った裕先輩の言葉は風の音がうるさくて俺の耳には届かなかった。
「裕先輩?」
「言わないよ、それに俺も腐男子だし。」
本日二度目の爆弾発言をした裕先輩に本屋で堪えた驚愕の声が今度は堪えきれず思いっきり溢れてしまい、その後更に、2.3時間程度問い詰めたり話したり最終的にお互いの萌カプ事情なんかも話し込んでしまいすっかり日が沈んでしまった俺が慌てて家に帰れば玄関で仁王立ちして待っているそうちゃんに軽く1時間程度説教をされた。
「なんでそうちゃんが家にいるの?」
「…お前が帰ってこないっておばさんに呼び出しくらったんだよ。」




