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青春エトセトラ  作者: 羽柴 歌穂
第1章
122/182

20.恋する後輩

 裕 side


「愁。」

「先輩!」


 パタパタパタと言う足音が聞こえてきたのでそちらに視線をやれば嬉しそうに顔を綻ばせて駆け寄ってくる愁が視界に入る。

 そんな姿を見て思わず緩みそうになった顔を叱咤して普段通りの表情を維持しながら側へ駆け寄ってきた愁に声をかけた。


「悪かったな、折角帰ったのにまた呼び出して、親御さん大丈夫だったか?」

「全然へーきです!!今日、両親は会食に出かけていて家にいなかったし、ちゃんと高橋にヒロ先輩に呼ばれたからちょっと出かけてくるって伝えてきたんで!」

「高橋?」

「あ!小さい頃から俺の身の回りの世話をしてくれている人です。」

「それって、執事……?」

「そう、なるんですかね?」

「いや、何でお前が疑問形で返してくるんだよ!」

「だって高橋はずっと高橋って呼んでたから改めて世間的にどう言う立ち位置なのか考えたこと無くて……まぁとにかく俺の世話係です!」


 そういやこいつってあの九条コーポレーションの御曹司なんだよな、普段そんな素振り全然見せないからスッカリ頭の中から抜け落ちてたけど……


 いや、て言うかこれ、俺大丈夫か?

 その高橋って人から見たら金持ちのお坊ちゃんを夜、メッセージ1つで呼び出す飛んでもねぇ奴なんじゃねえのか?


「ヒロ先輩?」


 急に黙った俺に不思議そうな顔をしながら愁が声をかけてくる。


「なぁ愁……。」

「はい?」

「ちゃんとその高橋さんに外出の許可は取ったんだよな?」

「返事は聞かずにそのまま飛び出してきました!後ろで何か叫んでいた気もしますけどそんなことより俺にとってはヒロ先輩からの呼び出しの方が重要なんで!!」

「それダメなやつだろ?!」

「へ?」

「いや、後ろで叫んでたってそれ、心配して引き留めてたんじゃねえの?」

「大丈夫ですよ~。ちゃんとヒロ先輩に呼び出されたからちょっと出かけてくるって伝えたし、ヒロ先輩の事は常日頃から高橋に沢山話していますし、知らない人に会いに行くってわけじゃないんで!」


 笑顔でそんなことを言う愁とは反対に俺は思わず片手で頭を抱えてしまう。


「お前さ~……。」

「?」


 ため息と共に吐き出したそんな俺の言葉の意図を全く察することなくきょとんとした顔をする愁に再び零れそうになったため息はぐっと飲み込んだ。


「呼び出しといてなんだけど、ほんと俺の言うことなんでも聞くよな。」

「だってヒロ先輩が好きだから!」

「っ、」


 そう、俺の目を見ていつものように好意を伝えてくる愁に言葉が詰まる。


 いつも、いつもいつも懲りずに真っ直ぐな飾らない好意の言葉をこいつはぶつけてくる。

 そんなこいつの好意を受け取ることがいつの間にか当たり前になっていて、誰にも渡したくないだなんて気持ちが芽生えて……いや、本当我ながらどんな少女漫画の展開だよ、完全に絆されてんじゃねぇか、と呆れる。


 けど、だけど


「俺もお前が好きだよ」


 愁のそんな好意に応えたいだなんて思うようになった時点で、もう俺が取る選択は決まっていたんだ。


「へ」


 色々考えていたはずの言葉はすっかり頭から抜け落ちていて、俺の口から零れたのはそんな有り触れた言葉だった。

 目の前の愁は、俺の言葉に大きな目をこれでもかと言うほど開いて固まっている。


「散々のらりくらりかわしといて何を今更っておも……いや、お前は思わねぇか、まぁ何だ毎日毎日好きだって言われ続けられる俺の立場になって考えてみろよ、お前の告白がもう毎日の習慣みたいになって俺の生活の一部になってるわ、周りからは生暖かい目で見守られるわ、段々そんなお前の事可愛いなんて自分でも気づかないうちに思うようになってるわで一番戸惑ってんのは俺だからな。」


 何だか気恥ずかしくなってきてペラペラ出てくる言葉はどんどん言い訳じみた言葉になってしまっていたけれど生憎そんな事を気にしている余裕は今の俺には無くて、けれど無言のまま固まっている愁の反応が気になってじっと顔を見つめればバッと目を逸らされた。


「はは、顔真っ赤。」

「え、へ、だ、だって、え?」


 俺の言葉をまだ処理できていないのかトマトみたいに頬を真っ赤に染めながら視線を決して合わせようとせずきょろきょろと忙しなく動かす愁をただ見つめる。


「ひろせんぱいが、おれのこと、すき?」

「そうだって言ってんだろ。」

「……ゆめみたい、っていたた」

「お前なぁ、これでも勇気だして告ったんだけど。」

「いひゃい、いひゃいです!ひろしぇんぱい!!」

「たくっ……。」

「あの、」

「あ?」

「もしかして先輩、照れてます?……ったぁ~!」


 図星をさされたのでつい手が出てしまった。

 そんな俺の行動に文句を言うでもなく愁は照れくさそうに笑い声をあげる。


「えへ、えへへ。」


 そうやって笑う愁の顔を見ていれば、両眼からポロポロと涙が零れ落ち始めて思わずぎょっとしてしまう。


「何で泣く?!」

「え、あれ本当だ、なんでだろ、何か嬉しくて。」


 そう言いながらも涙は一向に止まる気配がなくて、柄にもなく焦ってしまった。


 ■□■


「落ち着いたか?」

「うー、はい。すみません。」


 あれから近くにあったベンチに座らせて愁が泣き止むまでとりあえず隣に座っていた。

 そうして愁が落ち着いたのを確認して立ち上がる。


「じゃあそろそろ日も暮れてきたし、あんまりお前のこと引き止めてその高橋さん?って人から接触禁止令出ても困るし、帰るか。」

「高橋にそんな権限ないですよ?」

「まぁなんだ、好きな奴の身内には良く思われたいだろ。」

「好きな奴……!」


 俺のそんな言葉に大げさに照れる愁に対して可愛いななんて感情が素直に浮かんで、それと同時に俺自身もなんだか照れくさくなる。


 あー自分で思ってるよりも重症だな、これ。


 そんな風に考えながらも悪くないなだなんて思える自分自身に笑いがこみあげてくる。


「あぁ、そうだ愁。」

「何ですか?」


 俺の呼びかけに素直に応じてこちらを向く愁にとびっきりの笑顔で絶対に譲れない事を伝える。


「言っとくけど俺が上だからな。」

「先輩のが年上なのはわかってますよ。」

「そういうことじゃないんだけどまぁいいか、お前、俺の言うことならなんでも聞くもんな?」


 見当違いなことを言う愁がおかしくて、可愛らしくて笑いがこみあげてくる。

 そんな俺の顔を不思議そうに見ながら首を傾げた愁に耐え切れず声をだして笑ってしまった。


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