輝夜
「月が……綺麗、ですね」
空を見上げていた紫水晶の様な瞳が、不意にこちらを向いた。
煌々とした月の光に照らされた叶の銀糸の髪が、はらりと、端正な顔にかかる。
それを直す仕草にすら、目を奪われたというのに。
穏やかに。
まるで愛しい者を見つめるように、笑むその姿に。
意識ごと、奪われる。
いつの間にか自身の黒髪に隠れていた耳を露にされ、触れられて。
「答えて、くれないのか?」
耳朶にかかる吐息に誘われるように、ようやく応えを返せば。
まさか返してくれるとは思わなかったと。
くすりと笑う声に、腹立だしさのあまり、力の入らない拳で胸を打つ。
それすらも奪われて、閉じ込められて。
とても澄んだ夜気の中、皓々と照る月だけが、彼らを見ていた。