第二話 聞いて感じて考えて
新しい人生が始まって、半年程過ぎた。
相変わらず食っちゃ寝垂れ流し生活だが、周りの大人達の言葉がある程度理解出来るようになってきたのだ。
「リツ、テラ!お仕事行ってくるからね!」
朝っぱらからテンションの高い父親のキールを母親のリツの腕の中で短い手を振りながら見送ると、機嫌よさげにスキップで家を後にした。
キールは門番をしているらしい、夜勤なのか朝方帰ってくる事も少なくない。
一度リツと一緒に仕事ぶりを見学したが、片手に槍を持ち一度も見たことのない凛々しい顔をして仕事をしていた。子供の前ではデレデレだが、ひとたび仕事が始まると真面目モードに切り替わるらしい。不覚にもカッコいいと感じてしまった、くっ!
門番が居る時点でわかっていたが、俺たちの住んでいる土地はレッドベリー伯爵領といい、それなりに大きい・・・と思う。生後半年では抱っこされて見る景色しか見れないし、比較対象もないので仕方がない。
さて、父親を見送ったので日課になりつつある身体の中の魔力に意識を集中させる。
数か月前のおやすみのキスを境に、自分の中に何かのエネルギーを知覚出来るようになってから暇があればこのエネルギー・・・魔力に集中している。
あの毎晩のキスは所謂おまじないのようなもので、幼い子供に魔力を分け与えて才能(魔力)が目覚める手助けをしてあげてるとのこと。
お散歩中にリツの知り合いのアーノおばさんから額にキスを貰ったときに聞いた話だ。この話を聞いた俺は狂喜乱舞し、リツの腕から落ちて一人キンニクバス○ーをきめたものだ。
前世では周りに人がいない時など本気で両手の掌を前に突き出し「破ァーーーー!」とか分身の術を練習したりしたくらいだから取り乱しても仕方ないと思う。勿論大人になってからの話しだゾ。よくあるよね!
そんな感じでウンウン唸っていると
「さてと、今日はお母さんのお仕事見に行こうね~?」
リツは機嫌よさそうにこちらを見ながら話しかけてくる。なんの仕事だろう・・・家事なら毎日見ているし。
疑問に思い目を瞬かせていると、石畳の上を歩きながら歩を進め家からほど近い道具屋にたどり着いた。
閉店の看板を裏返しにして扉を開けると、何やら液体の入った壺やロープ、綺麗な石ころ、古びた本などが置いてある。
あれだ!雑貨屋だ!魔法薬とか置いてるところだ!!
「うおほ~~~!フンフン!」
「これがお母さんの仕事場よ!」
変な声を出して興奮して鼻息が俺にリツが話しかける。
聞くと、体力ポーションやもちろん魔法ポーション、怪我の治療などを請け負う雑貨屋兼簡易的な治療もするお店らしい。
キールが治療やポーションを欲しがっている人がいたらここを勧めると・・・実はウチ儲かっているのでは!?ゲスイ考えをしながらも、視線は見た事のない物、ファンタジー世界の雑貨に釘付けだ!
その様子を見ながら満足げに頷くリツ
「お母さんも今日から働くわよ!テラも一緒に店番しましょうね~」
そう言ってカウンターに座り、隣に俺を座らせてすり鉢で薬草?をごりごりし始めた。ごりごりしながら手が淡く光ったと思うと、その光がすり鉢に流れ込み馴染んだ所でピッチャーに入った水を灌ぐ、青色の液体が出来た所で最初に見かけた壺の中に注いでいた、恐らくポーションだろう。
なんだこれ!やってみたい!「う~~あ!う~~あ!」と言いながらすり鉢に手を伸ばすがすんでの所で抱きあげられる
「調合に興味があるの?でもテラにはまだ早いわよ~先ずは、魔力の移動の練習からね!ホラッ!」
右手に淡い光が灯ったと思うと、徐々に左手に光が移動していった。この光っているのが魔力か・・・と目で追っていると
「まさか魔力が見えるの!?”精霊眼”があるなんてうちの子は天才だわ!」
はしゃいだリツに抱きしめられた。ぐるじい。でも精霊眼かぁ・・・主人公っぽい!ぬふふふふ
「将来は宮廷魔導士かな?それともお母さん達と同じで冒険者?楽しみね!」
冒険者もいるらしい!ハーレムがそこに見えている!やる気スイッチオーン!!
人生二度目のやる気スイッチが入り、リツの店番の傍らで魔力操作に没頭したのであった。